おなまえ「進水おめでとう、やはぎ」
静寂の中で支綱を切断するカンッという音が響き、それを合図に少し遅れて打ち上げられる花火やクラッカーでドックは騒々しくなる。色とりどりの風船や紙吹雪が薄曇りの空と灰色の艦を鮮やかに彩る。海面に落ちた金のテープが陽光を反射してきらりと光った。その様子を傍らでぱちぱちと目を瞬かせながら見ていた当の主役が、いつの間にかこちらの顔をじっと見上げているのに気付く。
「しゅ、」
「しゅじゅ……」
まだ覚束ない言葉の続きを静かに待った。思うように出来ないことが悔しいのか、さきほどまでの高揚感も陰ってきているように見える。ゆっくりで良いから、と安心させたくて背を撫でた。ちゃんと聴いてやれるように腰も落として。
「しゅじゅ、ちゅき……?」
「うん。どうした?」
伝わったことがよほど嬉しかったのか何度も呼ばれるうちに上達し、昼を過ぎて皆と合流するころにはたまに噛む程度になっていて少し寂しくもなる。
呼んで廻るやはぎの後ろ姿を眺めつつあのひとときは一人占めだ、と胸のうちにしまい込んだ。