ばじふゆ+春マイ ふいっとそっぽを向いて唇を尖らせるその男は、春先だというのにも関わらず、薄手のカットソーにシルエットの大きな黒いスウェットのズボンという出で立ちでそこに立っていた。
叱られた後の子供のように唇を尖らせているせいで、口の両端にある傷がぐにゃりと歪んでいる。まぁ事実、叱られた後なんだろう。
「次は何やったんだよオメー……」
確か、年が明けてすぐの真冬の季節にもこうして、この男はこの家の玄関先に立っていた。風呂に入るつもりで用意していたタオルを肩から引っさげたまま、場地は盛大なため息をついた。
「……入れろよ、さみぃ」
悪びれもなくそう言って、右足を玄関へ踏み込ませてくる男―三途春千夜は場地の背後であからさまに「ゲェ」という顔をする千冬にべっと舌を突き出して、後ろ手に玄関扉を閉じた。
場地圭介の幼馴染である佐野万次郎と共に暮らす三途春千夜がここへやってくることは、もはや日常茶飯事と言っても過言ではないほどに多い。
場地が親友兼恋人である松野千冬と熱量たっぷりの甘い日々を送っている大切な家だということを重々承知していてもなお、こうして何の予告もなくやってくるのだから、もうどうしようもない。
「千冬ぅ、先風呂入っちゃって」
「え、でも」
「いーから、客用の布団だけリビングに置いといて」
「……はぁい」
これから「二人で」風呂に入る気満々でパンツと寝間着を小脇に挟んでいた千冬は不満げに眉を寄せるが、場地の言葉に素直に従いノロノロと客用布団を取りに向かう。その際に「テメー邪魔しやがって」とばかりに三途を睨みつけていくのは忘れない。
そんな千冬の背中に向かって「今日さみーから毛布もつけろよ」と言葉をかける三途からは反省や遠慮の色は一ミリだって覗いていなかった。
「また喧嘩かよ? 今度は何したんだよ」
「何でオレが何かしたの前提なんだよ」
「マイキーがなんかやらかした時の喧嘩はもっとブチ切れながらウチくんだろオマエ」
「……」
自分でも気がついていなかった自身の行動の傾向に、三途は何も言えずに口を噤む。馬鹿だ馬鹿だと言われている場地だが、あくまでも馬鹿なのは学力面だけであるようで、他人の感情の機微は読み取れるらしい。
場地はどっかりとリビングのど真ん中に座り込む三途の目の前にしゃがみ込むと、キッチンから持ってきたお茶入りのグラスを床の上に置く。そしてもう一度盛大なため息をついて
「マイキーには連絡しないほうがいーんかよ?」
と聞いた。
「……すんな」
「へーへー、まぁ、マイキーもここにいんのくらいわかってるだろうけどな」
床の上に置かれたグラスに手を伸ばしながらそう言って、三途は勢いよくグラスをあおる。その拍子に水滴が三滴ほど床の上に溢れて、三途は自身の服の袖を引っ張ってそれを拭い取った。
「春千夜くん、布団ここ置いとくんで自分で敷いてくださいね」
「おー」
「じゃあ圭介さん、先風呂いただきます」
「おう」
三途のための布団一式を床の上に落とし、ぶっきら棒にそう言った千冬は、名残惜しそうに場地の背中を見つめながらトボトボと一人風呂場へ向かっていった。
三途は自分のために運ばれてきた布団の上に上半身を倒し、大して広くもない天井を見上げる。その手に握られたグラスが空になっていることに気がついた場地は「呑む?」と言いながら冷蔵庫を開けてキンキンに冷えたビール缶を取り出した。
「呑む」
問いかけの言葉に半ば被せるようにして返事をした三途に、場地は呆れたように笑う。それでも「あいよ」と言いながらビール缶を二つ手に取ると、三途に向かってそのうちの一つを放って寄越した。
「……で、何したんだよ」
プシュ、と小気味の良い音を立ててプルトップを引き開けて、ビールをあおる。ごくごくと喉仏を上下させる三途は再度かけられた疑問の言葉に「……別に何も、してねー」と唇を尖らせた。
結局三途が何を話すこともないまま、風呂に入っていた千冬がリビングへと戻ってくる頃には、ビールの空き缶がそれぞれ三つずつ床の上に転がっていた。
「じゃー次オレが風呂入ってくっから」
「はい、いってらっしゃい」
「言っとくけど、オメーら喧嘩して騒いだら追い出すぞ。千冬もな」
「……はい」
「このクソガキが生意気言わなきゃな」
「テメーが吹っかけてくんだろ⁉︎」
「おい」
言ったそばから胸ぐらを掴み合いそうな距離感で顔を付き合わせる三途と千冬に、場地の怒声が飛ぶ。嗜めるような目つきで最後の最後まで二人をことを睨み付け、場地は「頼むぞ」と言い残し風呂場へと消えた。
「……はー、ここにいたらアンタにイライラしちゃいそうなんで、オレ寝室いってます」
床の上に転がったビール缶を拾い上げながら、千冬はそう言ってため息をつく。三途は目の前にある缶を持ち上げて千冬に手渡すと「あっそー」と言いながら広げた布団の上に寝転がった。
そのまま携帯の画面を眺めだした三途を横目に見やり、千冬は宣言通り場地と二人の寝室へと引っ込んだ。
半乾きの髪もそのままに、セミダブルのベッドに背中から倒れ込む。今夜は、久々の休日前の夜だった。だから千冬の脳内スケジュールでは、二人で風呂に入った後はこのベッドで時間を気にせず事に及ぶつもりだった。
何もかも全部台無しだ。
心の中で三途へ悪態をついて、千冬は「逆にここで堂々とセックスしてやればあの人来なくなるんじゃ」なんてことを考えた。
チッチッチ。
と、時計の針が時間を刻む音がどこか遠くで聞こえる。
後頭部を預けた枕から感じる湿った感覚と冷たさに、千冬は自分があのまま寝入ってしまっていたんだという事に気がついた。
体感としては、寝入ってからそんなに時間は経ってないだろう。目を開けるのが億劫で、瞼を下ろしたまま体制を変えようと身体を捻ったその瞬間、千冬は自分の頬をかすめる何かに気がついた。
長い髪の毛先が頬をくすぐるその感覚には、覚えがある。千冬は目を瞑ったまま「ふふ」と小さく笑って、ギシ、とベッドを軋ませるその人の姿を想像した。
「……圭介さん、あの人いますよ?」
それからそう言って、千冬は自分の上に覆い被さるその人を見上げるために目を開ける。
予想通り千冬の身体の上に覆い被さるその人は色素の薄い長い髪を千冬の上に垂らし、ビー玉のように彩り鮮やかな瞳で千冬を−……色素の薄い髪? 彩鮮やかな瞳?
「…………はァ⁉︎」
「あっぶねーな」
ガバリ、と勢いよく上半身を起こせば、寸でのところで千冬からの頭突きを避けた三途は小さく舌打ちをする。よくもこの状況で舌打ちなんて出来るものだ、と千冬は場違いな感心をした。
「何してんだアンタ⁉︎ 勝手に人様の寝室入ってんじゃねーよ!」
「……うるさ」
「ベッドは譲りませんからね⁉︎ テメーは床で寝てろ!」
「ちげーよ」
「つか人の寝込みに奇襲とか本当いい度胸してんな⁉︎ 転がり込んできた分際でー……」
「おいクソガキ、オマエさぁ」
自分の上に跨る三途の存在を認識した途端、ギャンギャンの犬のように吠え始めた千冬に、三途の額に青筋が浮かぶ。しばらくは千冬の怒声を受け流していた三途だったが、やがて何かが切れたのか、ベッドの上についていた手で千冬の顎を下から鷲掴みにした。
頬が真ん中に寄せられて、千冬は「あにふんだよ」と三途を鋭く睨みつける。
「場地に抱かれてんだろ?」
「ア?」
「散々オトコに抱かれてといて、この状況で何も思わねーのかよ?」
「……何言ってんだ?」
「色気ねーガキ」
心底理解不能、とばかりに顔をしかめる千冬に、三途は吐き捨てるようにして言う。それから長いまつげで覆われた瞳を何度かゆっくりと瞬かせると、掴んだままの千冬の頬を力任せに引き寄せた。
千冬は「殴られるんじゃ」と勘繰り咄嗟に右手に拳を作る。だがその予想に反し、千冬に与えられたのは、唇の上を湿った何かが通過していく生々しい感覚―唇を舌先で舐め上げられたのだと、気がつくまでには数秒の時間を要した。
それを理解して、千冬は現実を確かめるようにおそるおそる自分の唇に触れる。そこは確かに三途の唾液が付着し濡れていて、瞬間、千冬はサッと顔を青ざめさせた。
「な……してくれてんだテメェ⁉︎」
「あ? わかれよ」
「わかるか! くそ気色悪りぃな‼︎」
「ちょっとはビビったりしねーのかよ、可愛くねーな」
「ふざけんなマジで、どんな嫌がらせだよ⁉︎」
手の甲でゴシゴシと勢いよく唇を擦る千冬に、三途は呆れ返ったとばかりに白々しく黒目を回す。その他人事のような反応に、千冬は眉を吊り上げて三途の胸ぐらへ手を伸ばした。
だがその瞬間を見逃さず、三途は千冬の手を捕まえてベッドの上へと縫い付ける。それから右膝を千冬の身体の上に乗り上げさせて、千冬が呻くのもお構いなしに腹の上に体重をかけた。
「ゲホっ、……ッなんなんだよ、テメー」
「……なんだろうな?」
自身を見下ろす三途に、千冬は咳き込みながら訝るような視線を送る。三途は冷え切った瞳でそんな千冬をジッと見つめると、やがてゆっくりと身体を倒した。傷跡に挟まれた口をぐわ、と大きく開けて千冬の首元に顔を寄せる三途に、千冬の背筋にゾワリとした何かが駈け上がる。「噛み殺される」そんな、あり得もしない恐怖が千冬の中に駆け巡った。
「待っー……⁉︎」
バタン。
扉の開閉音が聞こえたのは、そんな瞬間だった。千冬はびくりと肩を跳ねさせ寝室の扉へ目を向けて、三途は少し遅れて倒していた上半身を持ち上げた。
「―……なにしてんだよ」
濡れた黒髪から水滴を滴らせ、場地はまっすぐにベッドの上の二人を見つめていた。きっと千冬の怒声を聞きつけて「また喧嘩してやがる」とすっ飛んできたんだろう。場地は片手に持っていたタオルを床の上に投げ捨てると、一歩、ベッドへと歩み寄った。
「ちが、春千夜くんがふざけてきたんで、ちょっと揉めてただけで」
咄嗟に、千冬は三途の身体を押しのけてチラリと横目で三途に目配せをする。この状態でそんな言い訳は通用するとは思えなかったが、このままでは三途へ場地の怒りが向かうことを察したんだろう。
三途はそんな千冬からの目配せを受け取って、ゆっくりと場地へを顔を向けた。場地はなにも言わないままに三途を見つめている。
「……不味ぃ」
三途はおもむろに舌を突き出すと、そう言って口端を持ち上げた。
「殺すぞテメェ」
ダァン。と、三途の身体が床の上へと吹っ飛んだのは次の瞬間のことだった。
ふいっとそっぽを向いて唇を尖らせるその男は、まさにここへきた数時間前と同じように、罰の悪そうな顔をして玄関先で立っていた。
「……オマエ、なにした?」
三途の左頬にしっかりと刻まれた殴られた跡に、万次郎は表情の一つすら動かさないままそう問いかける。三途はあいも変わらずにそっぽを向いたまま、口を噤んでいた。
「……とりあえず今日はそいつ連れて帰れ、悪りぃけどこのままウチにいたらそいつ殺すわ」
玄関先で万次郎に三途を突き出した場地は、そう言ってから隣に立つ千冬の腰元に腕を回す。居た堪れないような表情で場地の隣に立つ千冬は、万次郎の顔を直視しない。
その様子に何かを察したのか、万次郎は三途の顔をまっすぐに見据えた。
「なにした」
もう一度、同じ質問を三途へと投げ掛ける。
「……」
三途はなにも答えない。万次郎はやがて三途から視線を逸らすと、場地と千冬の前へと足を進める。
そして
「迷惑かけて悪かった」
言いながら、膝に両手をついて深々と頭を下げた。
その瞬間、だんまりを決め込んでいた三途が慌てたように「マイキー!」と声を上げる。頭を下げる万次郎の肩に触れ、その身体を起こそうとするが、次の瞬間には三途の身体は狭い玄関の壁に打ち付けられていた。
「っー……」
「自分のツレのケツ持つのは当たり前のことだろ」
拳の甲で三途の頬を殴りつけて、万次郎は冷えた瞳で頬を押さえる三途を見やる。三途は唇を噛み締めたまま顔を俯かせると、それ以上はなにも言わずに一歩二歩と後ずさって玄関から外へ出た。
「……今度きっちり謝らせる」
「おう、なんかタケーもん持ってこいよ」
「ああ、本当に悪かった。場地、千冬」
「マイキーくんは悪くないんで、……でも、春千夜くん」
それまで口を噤んでいた千冬が、最後に一言、とばかりに前へと歩み出る。そして俯いたままの三途にしっかりと目を向けて、おもむろに右手を持ち上げ
「次、ふざけたことしやがったら殺すから」
と、中指を突き立てて見せた。
「このままいたら殺すって、千冬がかよ」そんなことを思いながらもう一度深々と頭を下げて、万次郎は三途の首根っこを掴み「行くぞ」と足早に歩き始めた。
「大丈夫か千冬ぅ」
「うっす、すいません圭介さん」
「いやオレよりオマエだろ」
「こんなん犬に舐められたよーなもんすよ」
万次郎と三途が去った後の玄関で、場地は千冬の腰を抱き直す。千冬はなんでもないように言って自身の親指で唇を拭うと、場地に向かって頭を下げた。
「油断しちまって、すいません」
「ぶっ、油断って、喧嘩じゃねーんだぞ?」
「でも不貞は不貞っす、ぶん殴ってください」
「オマエさぁ……」
あまりにも潔い千冬に笑い、場地は千冬の唇の上に指を滑らせようと手を伸ばす。伸ばしながら「じゃあ上書きさせて」と言えば、千冬はぎゅっと唇を引き結んでから「アっ‼︎」と大声を上げた。
「うるさ」
「ダメっす、このままじゃ春千夜くんと圭介さんが間接キスになるんで、オレ口ゆすいできます!」
「……オマエさぁ」
バタバタと足音荒く駆けて行く千冬の背中を見つめる場地は、盛大なため息をこぼした。
万次郎の後を三歩遅れて歩く三途は、両手をスウェットのポケットに突っ込んだまま俯いている。時折足を止めてそんな三途を振り返る万次郎だったが、万次郎が足を止めれば、三途はそれに倣うように足を止めてしまう。
「……春千夜」
そんなことを三回も繰り返せば、やがて、しびれを切らせた万次郎が三途を呼んだ。肩を跳ねさせて反応を示す三途は、よく耳を澄まさなければ聞こえないほどの声で「はい」と返事をした。
「オマエ、なにしたんだよ」
「……」
「つか、今日出てったのもオレよくわかってねーんだけど」
「……」
「なんか言えよ」
俯いた三途の頭頂部に向かって言葉をかける万次郎は、やはりなにも答えない三途に、小さくため息をつく。そのため息に怯えるように服の裾を握り締めた三途は、噛み締めていた唇から前歯を離す。唇にはくっきりと歯型がついていた。
「……舐めました」
「……あ?」
「あのガキの」
「千冬」
「……千冬の、口、舐めました」
ようやく返ってきた返答に、万次郎はゆるく目を見開いた。それから額に手を当てて「はぁーーーー」と盛大に息を吐く。
「……今度頭下げに行くぞ」
「……はい」
一歩、三途へと歩み寄る万次郎。三途はもう逃げることはしなかった。
「なんでそんなことしたんだよ?」
もう一歩、三途へと歩み寄り、万次郎は三途へと手を伸ばす。そして三途の右手を取ってそう問いかければ、三途は右へ左へ目を泳がせながら「……マイキーが」と、口ごもりながら話し始めた。
「ん?」
「……好きにしろって、言ったんで」
「は? なにが」
「オレが、浮気したらどうしますかって聞いた時……」
ボソボソと端的に話す三途に、万次郎は眉を寄せてその顔を覗き込む。だが返ってきたその言葉に、万次郎は心当たりがあったらしい。三途の手を握ったまま口元に手を当てて「……アレか」と呟いた。
「……だからって場地と千冬巻き込んで迷惑かけんのはちげぇだろ」
「……アイツは、オレのことぶん殴りましたよ」
「だろうな。オマエさ、なに勘違いしてんだ?」
今朝のことだった。朝のワイドショーでやっていた「大人気俳優の不倫報道」を見た三途は、何気なしに万次郎へと問いかけた。寝ぼけ眼でぼんやりとしながらソファに腰掛ける万次郎のことを背中から抱きしめながら「マイキーはオレが浮気したらどうしますか?」と。
寝起き一発目からそんな問いかけをされた万次郎はどこかうんざりとしながらも、自分を抱き締める三途の腕に触れて、答えた。
「やれるもんなら好きにしろよ」と。
そうして、仕事から帰ってみれば、三途の姿はどこにもなかった。
「……春千夜?」
無人のリビングで立ち尽くした万次郎は、そんな朝のやりとりなんて記憶の彼方へ追いやってしまっていた。
「勘違いって、だってマイキーが」
「テメーが浮気したら、相手もテメーもオレが殺す」
ぐい、と、万次郎の手が三途の手を引いた。万次郎の身体が三途の身体にピッタリと寄り添えば、三途は僅かに頬を上気させて言葉を失う。
万次郎は確かな「怒り」を含んだ瞳で三途のことを見上げていた。
「今回は相手が千冬だし、オマエの暴走だから千冬にはなんもしねーけど」
「……え、マイキーは、その」
「なんだよ」
「オレが浮気したら、嫌……なんですか?」
そんな、初歩中の初歩のような質問をされ、万次郎は一度口を噤む。不安げに瞳を揺らす三途は万次郎のことをジッと見下ろしている。
「……自分の好きな奴が浮気して嫌じゃないやつなんかいねーだろ」
やがて、万次郎はその頭を三途の胸元に埋め、そう言った。その瞬間三途はポカンと口を半開きにして、ワナワナと身体を震わせる。感極まったあまりジワリと涙が瞳を縁取って、三途は震える唇で問いかけた。
「マイキー……オレのこと……好きですか」
三途の胸板に頭を預ける万次郎はしばらくの間黙り込む。三途は震える手を万次郎の両肩に置いて、万次郎からの返答を今か今かと待った。
「……好きだろ。付き合って、一緒に住んでんだから……逆になんだと思ってんだよオマエ」
その返答を聞き届けた次の瞬間、三途の手が万次郎の背中に回された。万次郎が「ゔっ」と苦しげな声を上げてもお構いなしに強く強く身体を抱き締めて、三途は万次郎の肩口に顔を埋めた。
「ごめんなさいすみませんでしたマイキー」
「……今度アイツらに土下座しろよ」
「はい‼︎」
「大体オマエさ、バリバリに場地がいるとこで千冬にちょっかいかけて……本気でやるつもりなかっただろ」
「オレマイキー以外に勃ちません」
「じゃあふざけた真似してんじゃねぇよ」
「すいませんでした」
「……次やったら本気で殺す」
「殺してください」
「……それはそれで怖ぇよオマエ」
後日、木箱に入った和牛を持って場地家の玄関先で土下座した三途は無事、千冬から三発本気殴りをされた上で許しをもらった。