半獣アレクとミナトの話(仮)『噛みません。言うことをよくききます』
『目が大きく、やんちゃです』
『大人しいです。そばを離れません』
『やさしく撫でるとよく懐きます』
貼り紙に手書きで記された“紹介文”と値段たち。夕方の空の下、剥き出しの鈍色の檻に掲げられたそれが目に入るたび、薄い寒気が首筋を伝った。
不定期で開かれる闇市の中心には箱のような檻が集められ、その日の“目玉”が並べられる。犬、猫、兎、狸──の特徴を持った少年たちだ。人間の体に動物の耳と尾がついた彼らをケモノと呼んで、愛玩動物として飼うのが最近の趣味の悪い流行らしい。人間に限りなく近い、むしろ進化しているともとれる彼らをどう扱うかはまだ議論の段階で、ましてや商品として売り買いするのは完全に違法だった。
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