『冬から春へ』書き下ろし文サンプル『お気に入りは』
ブラッドリーの城の近くの森で動物たちから面白い噂を聞いた。
『俺たちの言葉がわかるやつがいる』
『ちょっと聞かないなまりのあることばを話す』
『近くにいると穏やかな気持ちになる』
『食べたことのないような、甘くておいしいものをくれる』 等々。
最近何もなくて退屈だし、オーエン以外で動物と話せる存在はそう多くない。それになにより、『甘くておいしいもの』が気になった。オーエンは甘いものに目がないのだ。
巻き起こる吹雪の中を歩いているとは思えないほどに悠々と進み、しばらく行けば視界が開ける。ブラッドリーの治める領域の中へとたどり着いたのだ。今は昼前で太陽が真上に上り、先ほどとは打って変ってかなりの晴天になっている。そのおかげか、遠くの街の煙突の煙まできれいに見えているが、そちらには目もくれず、その北側へと広がる森へと歩を進めた。
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