歪んだ愛の物語「あのさあ。なんでいつも触っちゃ駄目なの」
手際よく止血し、包帯をきつく巻き、服を替える彼にされるまま、不本意ながらおとなしくじっとして何度目かの問いをする。動こうにも力が入らず動きようがない。じくじくとした痛みに視界が明滅して、あ、これは落ちるかもな、といい加減察しもつくようになった。
丁寧にナイフを拭い始めた彼は、その気もないのに掴んでいいわけないでしょ、というようなことを、やはり毎度同じ調子で返してくる。聞くに飽いた問答。彼の言う「その気」が何なのかもわからなければ、自分が手を伸ばしたい衝動の正体も謎のままだった。
癪だ、とは思うけれど。解くまではやめられない。
床の血は今日は少ない。代わりにおろしたての紬がまた一着駄目になった。あーあ、この色気に入ってたのに。よく吸う生地だったらしく、かなり広範囲がどす黒く染まってしまった。
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