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DONEanzr 初出2024.1.夏メイ
今年も訪れた平日の誕生日に、もだもだしている夏井さん。
《七篠メイさんより ギフトを受け取りました》
水曜日は馬鹿正直でありたい(夏メイ) いつもと同じ水曜日だ。何の変哲もない、平日の中日。
民間企業では「ノー残業」とやらが推奨されているらしいが、公務員……ましてや歌舞輝町の安全を維持しようという立場において、残業のない日を望むなど言語道断ですらある。
(全く、くだらない……)
寧ろ今日は、山になりつつある報告書のまとめや関連する事務作業が中心であるだけまだましだろう。現場に赴くよりもいくらかは、時間の見通しが立ちやすいのだから。そう嘯きながらも俺はラップトップのエンターキーを数度叩き、プリンターから更なる紙の山が吐き出されるのを束の間待つ体勢に入る。
こういうところが良くない。民間企業ならとうにペーパーレス化が進んでいるはずだが、重要な事案であればあるほど、紙による提出を求められるのが公務員の常だ。進まないアナログな手順に皮肉を吐きたくなる気持ちを堪えて、俺は伏せたまま追いやられたスマホを引き寄せる。
2087民間企業では「ノー残業」とやらが推奨されているらしいが、公務員……ましてや歌舞輝町の安全を維持しようという立場において、残業のない日を望むなど言語道断ですらある。
(全く、くだらない……)
寧ろ今日は、山になりつつある報告書のまとめや関連する事務作業が中心であるだけまだましだろう。現場に赴くよりもいくらかは、時間の見通しが立ちやすいのだから。そう嘯きながらも俺はラップトップのエンターキーを数度叩き、プリンターから更なる紙の山が吐き出されるのを束の間待つ体勢に入る。
こういうところが良くない。民間企業ならとうにペーパーレス化が進んでいるはずだが、重要な事案であればあるほど、紙による提出を求められるのが公務員の常だ。進まないアナログな手順に皮肉を吐きたくなる気持ちを堪えて、俺は伏せたまま追いやられたスマホを引き寄せる。
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PASTanzr 初出2023.12.夏メイ
イメソンは、山崎まs...さんの「One more time~」。
今夜は流星群のピークらしい。
(今更願い事なんて、柄じゃないしな……)
それは本心(夏メイ) 大粒の雨と見間違いそうなほど落ちていくのは、ただの光の粒でしかないと思っていた。けれど、長年ファンとして活動を追っているとある歌手に言わせてみれば「星が落ちそうな夜は自分を偽れない」ものらしい。
しゃがれた声で淡々と語りかけるように歌う様が脳裏を過ぎる中、現実の俺はと言えば。
「どうせ仕事だからな……」
無機質な警察署の屋上に一人きり。肌を刺すような冷たさの風に打たれ、そこかしこで瞬くネオンなどお構いなしに、吐く息が白くけぶる向こうで流れ落ちていく流星群を見つめる。小休憩を経て戻った後は、いつもより多少手強い厄介者への事情聴取が再開されるだろう。
俺の仕事は時間が勝負で、事件もイレギュラーも、何もかも待ってはくれない。
1012しゃがれた声で淡々と語りかけるように歌う様が脳裏を過ぎる中、現実の俺はと言えば。
「どうせ仕事だからな……」
無機質な警察署の屋上に一人きり。肌を刺すような冷たさの風に打たれ、そこかしこで瞬くネオンなどお構いなしに、吐く息が白くけぶる向こうで流れ落ちていく流星群を見つめる。小休憩を経て戻った後は、いつもより多少手強い厄介者への事情聴取が再開されるだろう。
俺の仕事は時間が勝負で、事件もイレギュラーも、何もかも待ってはくれない。
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PASTanzr 初出2023.7.匠メイ
七夕に合わせて創作和菓子を拵えた火村さんと、通常営業のメイ。
「俺たちは織姫と彦星じゃない。だから、いつだってあんたに会える」
#夏メイ #匠メイ #anzr男女CP
催涙雨は似合わない(匠メイ) 絶景だ。
彩度の高い青から紫へのグラデーションと、散らばるきらめきは天の川を彷彿とさせる。屈んで至近距離から見つめてみても、どこまでも澄み渡る星空でしかない。
幻想的に彩られた直方体のそれが食べられる代物だなんて、俄かには信じがたい。
「これを、火村さんが手作りされたのですか……」
「おう」
絶景の夜空……もとい、星空を模した創作羊羹を前に、火村さんは目を細める。
「少しばかり不格好だけどよ。メイちゃんがそんなに目ぇ輝かせてくれたなら作った甲斐がある」
「素敵です。本当に」
冷蔵庫から不透明な型を取り出した火村さんが私を手招いたのが数刻前。先にいいもの見せてやるよ、と長皿に型を伏せた時は何が始まるのか全く予想がつかなかった。形を崩さないように、そっと型を外して現れた鮮やかな景色。このうつくしさを何と表現すれば良いかわからず、私はただただ息を呑んで、箱の中の夜景を凝視していた。
962彩度の高い青から紫へのグラデーションと、散らばるきらめきは天の川を彷彿とさせる。屈んで至近距離から見つめてみても、どこまでも澄み渡る星空でしかない。
幻想的に彩られた直方体のそれが食べられる代物だなんて、俄かには信じがたい。
「これを、火村さんが手作りされたのですか……」
「おう」
絶景の夜空……もとい、星空を模した創作羊羹を前に、火村さんは目を細める。
「少しばかり不格好だけどよ。メイちゃんがそんなに目ぇ輝かせてくれたなら作った甲斐がある」
「素敵です。本当に」
冷蔵庫から不透明な型を取り出した火村さんが私を手招いたのが数刻前。先にいいもの見せてやるよ、と長皿に型を伏せた時は何が始まるのか全く予想がつかなかった。形を崩さないように、そっと型を外して現れた鮮やかな景色。このうつくしさを何と表現すれば良いかわからず、私はただただ息を呑んで、箱の中の夜景を凝視していた。
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PASTanzr 初出2023.7.夏メイ
イメソンは東京j...の初期曲。
《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》
青く冷える七夕の暮れに(夏メイ) 新宿は豪雨。あなた何処へやら――イントロなしで歌いはじめる声が脳裏に蘇ってくる。いつの日かカラオケで夏井さんが歌った、昔のヒット曲のひとつだ。元々は女性ボーカルで、かなり癖のある声色が特徴らしい原曲。操作パネルであらかじめキーを変えて、あたかも自分のために書き下ろしされたかのように歌い上げてしまう夏井さんの声は、魔法のように渇きはじめた心に沁み渡っていく。
《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》
情緒あふれる解説が無機質なラジオの音に乗せて、飾り気のない部屋に響く。私は自室の窓から外を見やった。俄かに薄暗く、厚みのある雲が折り重なっていく空模様。日中には抜けるような青空の下、新宿御苑の片隅で夏の日差しを感じたばかりだというのに。この時期の天候はどうにも移り気で変わり身がはやい。
897《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》
情緒あふれる解説が無機質なラジオの音に乗せて、飾り気のない部屋に響く。私は自室の窓から外を見やった。俄かに薄暗く、厚みのある雲が折り重なっていく空模様。日中には抜けるような青空の下、新宿御苑の片隅で夏の日差しを感じたばかりだというのに。この時期の天候はどうにも移り気で変わり身がはやい。
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DONEanzr夏メイ+秋元
日常アカに掲載したヘッダー用SS
キスの仕方について(夏メイ+秋元)「み、見るな頼むから……!」
夏井は声をひっくり返しながら叫ぶ。予告もなしに訪れた秋元が夏井の自室内、背後で点灯したままのモニターを凝視していたからだ。
作りたての炒飯入りのタッパーを握りしめながら、後輩は悪気なく呟く。
「[キス 仕方]……」
「口に出すなよ」
モニターに映し出されていたのは、検索エンジンのサーチ結果一覧。
「誰と……?」
「言うか」
「恋人がいることは認めるんですね」
「あっ………………」
紅潮した顔を覆って項垂れる先輩の慌てふためく様を見て、秋元は考えを巡らせる。
秋元は夏井のおおよその交友関係を把握しているつもりだった。夏井へ好意的な視線を送る者には何名か心当たりがあるが、無難な営業用の笑みが崩れる人物は一人しか浮かばない。
848夏井は声をひっくり返しながら叫ぶ。予告もなしに訪れた秋元が夏井の自室内、背後で点灯したままのモニターを凝視していたからだ。
作りたての炒飯入りのタッパーを握りしめながら、後輩は悪気なく呟く。
「[キス 仕方]……」
「口に出すなよ」
モニターに映し出されていたのは、検索エンジンのサーチ結果一覧。
「誰と……?」
「言うか」
「恋人がいることは認めるんですね」
「あっ………………」
紅潮した顔を覆って項垂れる先輩の慌てふためく様を見て、秋元は考えを巡らせる。
秋元は夏井のおおよその交友関係を把握しているつもりだった。夏井へ好意的な視線を送る者には何名か心当たりがあるが、無難な営業用の笑みが崩れる人物は一人しか浮かばない。
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DONEanzr夏メイ(のつもり)(少し暗い)
2023年3月20日、お彼岸の日の話。
あの世とこの世が最も近づくというこの日にすら、青年は父の言葉を聞くことはできない。
※一部捏造・モブ有
あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。
朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
2668朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
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DONEanzr夏メイ
何でもない日にプレゼントを贈りたくなった夏井さんのお話
傍に置いてよ、俺の代わりにでも(夏メイ) まるで七篠のためにあつらえた代物ではないか。
ひと目見るだけでそんな錯覚を覚えるなんて、我ながら安直だなと嘲笑いたくなる。
控えめなピンクゴールドのそれは、俺の手のひらよりも二回り程度小さい。直線で構成された猫の形はじっくりと観察しなければ、多角形の集合体に見えるほど芸術性が高いデザインだ。幾何学模様の中からは尻尾、ではなく、角張ったリングが付随している。スマホの裏につけていても邪魔になりづらい、許容範囲ぎりぎりの厚みに見受けられた。
図書館からの帰り、通り道沿いに並べられていた洒落たデザインのスマホリング。導かれるように手に取ってみると、七篠がスマホリングをつけて操作する様相がありありと浮かんできた。
1740ひと目見るだけでそんな錯覚を覚えるなんて、我ながら安直だなと嘲笑いたくなる。
控えめなピンクゴールドのそれは、俺の手のひらよりも二回り程度小さい。直線で構成された猫の形はじっくりと観察しなければ、多角形の集合体に見えるほど芸術性が高いデザインだ。幾何学模様の中からは尻尾、ではなく、角張ったリングが付随している。スマホの裏につけていても邪魔になりづらい、許容範囲ぎりぎりの厚みに見受けられた。
図書館からの帰り、通り道沿いに並べられていた洒落たデザインのスマホリング。導かれるように手に取ってみると、七篠がスマホリングをつけて操作する様相がありありと浮かんできた。
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DONEanzr夏メイ(VD)
もしも、夏井さん宛に贈られた本命チョコが○○モチーフだったとしたら……
発掘家見習いによる幸福な受難(夏メイ) 高級感漂う包装紙を剥がして刹那、絶句した。
やけに重量感のあるパッケージにはでかでかと、リアリティ溢れる恐竜のイラストがプリントされていたのだから。
『一目見た瞬間、これは夏井さんの為のチョコだ! と思ったんです』
表情の変化に乏しい七篠が心なしか、水を得た魚のようにいきいきとした表情を向けるものだから何事かと思えば。
チョコレートはどうやら、化石がモチーフらしい。探検家気分で壁と砂をかき分けて、恐竜の化石を発掘するのだという(当然の如く、化石も壁も砂も食べられるらしい)。箱の中には発掘調査の道具と称したプラスチック製のハンマーや刷毛などまで同封されていた。
ジョークグッズにしては手が込んでいると思ったけれど、メーカー名は春野さんから何度か聞き覚えのある有名ショコラのブランドだったことで眩暈を覚える。通りで匂いからして「お高そうな雰囲気」を醸し出していたわけだ。
1334やけに重量感のあるパッケージにはでかでかと、リアリティ溢れる恐竜のイラストがプリントされていたのだから。
『一目見た瞬間、これは夏井さんの為のチョコだ! と思ったんです』
表情の変化に乏しい七篠が心なしか、水を得た魚のようにいきいきとした表情を向けるものだから何事かと思えば。
チョコレートはどうやら、化石がモチーフらしい。探検家気分で壁と砂をかき分けて、恐竜の化石を発掘するのだという(当然の如く、化石も壁も砂も食べられるらしい)。箱の中には発掘調査の道具と称したプラスチック製のハンマーや刷毛などまで同封されていた。
ジョークグッズにしては手が込んでいると思ったけれど、メーカー名は春野さんから何度か聞き覚えのある有名ショコラのブランドだったことで眩暈を覚える。通りで匂いからして「お高そうな雰囲気」を醸し出していたわけだ。
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DONEanzr夏メイ(BDお祝い)
メイちゃんからのプレゼントと、お菓子言葉に動揺する夏井さん
※若干の過去捏造有
火曜日に捧げるマロングラッセ(夏メイ) 差し出された横長の箱へ釘付けになる。落ち着いた緑色の包装が施され、影絵の女性の横顔があしらわれたロゴには見覚えしかない。
(これは……)
箱には「MARRONS GLACÉS」の印字。パッケージだけを見ても明らかに上等なスイーツだ。
珍しく事務作業に追われていた日の昼下がり。昼食調達のために外へ出ようとしたところ、出会い頭に七篠から声をかけられた。わざわざ仕事の合間に立ち寄ってくれたらしい。手提げの紙袋からそれを取り出すと柔らかな笑みを浮かべて言う。
「お誕生日、おめでとうございます」
「え、と……」
相変わらず真っすぐな視線だ。堂々と受け止めたいのに、実際の俺はといえば言い淀んで目を逸らすことしかできない。
2275(これは……)
箱には「MARRONS GLACÉS」の印字。パッケージだけを見ても明らかに上等なスイーツだ。
珍しく事務作業に追われていた日の昼下がり。昼食調達のために外へ出ようとしたところ、出会い頭に七篠から声をかけられた。わざわざ仕事の合間に立ち寄ってくれたらしい。手提げの紙袋からそれを取り出すと柔らかな笑みを浮かべて言う。
「お誕生日、おめでとうございます」
「え、と……」
相変わらず真っすぐな視線だ。堂々と受け止めたいのに、実際の俺はといえば言い淀んで目を逸らすことしかできない。
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DONEanzr 初出2023.1.21.「今宵一番街にて」書き下ろし作品
とある冬の日、夏井さんの回想といつの間にか大切な存在になっていたメイちゃんとのお話
※夏井さんの過去・父親の捏造多数
静寂埋める濡れ雪「わ……!」
僅かに目を見開きながら空を仰ぐ七篠は、ほろほろと落ち始めた雪を躊躇なく顔で受け止める。
程なくして大粒に変わりはじめた雪には見るからに水分が混じっていてひどく重みがあるようだ。いくつもの結晶を連ねたまま音もなく七篠の額や頬を撫でて、消えていく。俺は折り畳み傘を探る手を止めないまま、どことなくはしゃいだ様相の横顔を見つめていた。七篠の呼吸に合わせて吐く息は、軽く舞い上がっては空気に溶けていき、再びうっすらと煙るのを繰り返すばかり。
いつか七篠も、あっけなく姿を消してしまうに違いない。無意識に浮かんだ考えに気がつき、いつしか探り当てた折り畳み傘をきつく、きつく握りしめる。ひと時だけ瞳を閉じれば、いつかの事件で逝ってしまった父親が皺だらけの表情が鮮明に蘇った。
3972僅かに目を見開きながら空を仰ぐ七篠は、ほろほろと落ち始めた雪を躊躇なく顔で受け止める。
程なくして大粒に変わりはじめた雪には見るからに水分が混じっていてひどく重みがあるようだ。いくつもの結晶を連ねたまま音もなく七篠の額や頬を撫でて、消えていく。俺は折り畳み傘を探る手を止めないまま、どことなくはしゃいだ様相の横顔を見つめていた。七篠の呼吸に合わせて吐く息は、軽く舞い上がっては空気に溶けていき、再びうっすらと煙るのを繰り返すばかり。
いつか七篠も、あっけなく姿を消してしまうに違いない。無意識に浮かんだ考えに気がつき、いつしか探り当てた折り畳み傘をきつく、きつく握りしめる。ひと時だけ瞳を閉じれば、いつかの事件で逝ってしまった父親が皺だらけの表情が鮮明に蘇った。
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PASTanzr初出2022.8.28.
イベストバレ有(遊園地の怪人+ハイサマーロマンス)
どうかしている。君も俺も(夏メイ) 夏井流星はけたたましい音を立てながらスマホを伏せた。
液晶ディスプレイに表示された画像の正体に気づいたからである。
(…………何なの)
いつもより比較的静けさ漂う特対内。スマホを叩きつけた勢いで右手が僅かに痺れたまま、夏井は自席のデスクに勢いよく突っ伏す。一連の動作に、休日出勤中の他数名の課員たちは遠巻きに夏井の様子を伺うばかりだ。
瞼の裏に過ぎるのは、後輩である秋元からFINEに送信された1枚の画像。青い空と透き通るほど眩しい海を背景に寛ぐ七篠メイの写真である。
海の家らしいチープなつくりのテーブルの上には鮮やかな色味のスムージーが入ったグラスがいくつも乗っており、七篠はそのうちのひとつを口にしながら僅かに目を見開いていた。秋元は「個人的な用件」で春野と行動を共にしていたはずだったが、何がどうしてこうなったのか現時点では予想もつかない。それに、不意打ちの如く無防備な姿を撮られている七篠も七篠だ。身にまとう眩しい色味のチューブトップは七篠の肌の白さを殊更に強調している。しかもわき腹の辺りにはうっすらと不自然な翳りがあり、見方によっては影のようにも古傷や火傷の跡のようにも受け取れる。羽織るものを何も身につけていない点も相まって、夏井の平常心はすっかり隅に追いやられてしまっている最中だった。
2564液晶ディスプレイに表示された画像の正体に気づいたからである。
(…………何なの)
いつもより比較的静けさ漂う特対内。スマホを叩きつけた勢いで右手が僅かに痺れたまま、夏井は自席のデスクに勢いよく突っ伏す。一連の動作に、休日出勤中の他数名の課員たちは遠巻きに夏井の様子を伺うばかりだ。
瞼の裏に過ぎるのは、後輩である秋元からFINEに送信された1枚の画像。青い空と透き通るほど眩しい海を背景に寛ぐ七篠メイの写真である。
海の家らしいチープなつくりのテーブルの上には鮮やかな色味のスムージーが入ったグラスがいくつも乗っており、七篠はそのうちのひとつを口にしながら僅かに目を見開いていた。秋元は「個人的な用件」で春野と行動を共にしていたはずだったが、何がどうしてこうなったのか現時点では予想もつかない。それに、不意打ちの如く無防備な姿を撮られている七篠も七篠だ。身にまとう眩しい色味のチューブトップは七篠の肌の白さを殊更に強調している。しかもわき腹の辺りにはうっすらと不自然な翳りがあり、見方によっては影のようにも古傷や火傷の跡のようにも受け取れる。羽織るものを何も身につけていない点も相まって、夏井の平常心はすっかり隅に追いやられてしまっている最中だった。