遠くから子供の泣き声が聞こえる。次第に近づいてくるその声に、神妙な顔つきでダイニングチェアに腰掛けていた晶ははっと立ち上がった。転がるように玄関先へ向かう。ドアの鍵を開けようとして、その前に誰かの魔法が発動した。
「《アドノポテンスム》」
ドアが勢いよく開く。一気に外の寒気が家の中に入りこみ、晶は震え上がった。
「ブラッドリー!?」
「おらよ」
懐かしい顔の魔法使いはその腕の中にいた少年を晶へ渡す。少年は晶の顔を見て、既に涙や鼻水でぐちゃぐちゃな顔を一層歪ませた。
「ままぁ」
晶にしがみつく少年を見守りつつ、ブラッドリーは一歩玄関先に踏み込む。指を鳴らして彼はドアを閉めた。入りこんだ雪も軽く片付けてから、呆れた顔で晶を睨みつけた。
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