神さまの言うとおり私は名も無き少女A、いや、少女Bとでもしておこうか
今私には気になっている人がいる
善法寺伊作、うちの学校の3年で保健委員をしている、そして何より学内の有名(名物?)カップルの片割れだ
善法寺伊作
彼女は何かと不運な目に遭う事が多いらしく、その度同じく3年の彼氏である食満留三郎が彼女のピンチを救うべく日々奔走している
まあなんと言っても絵になる2人で、まるで若夫婦のよう
お互いに異性の人気はあるがそのバカップルさから無謀な行動に出るものは少ない
入学したての頃かっこいい先輩がいると色めき立つ同級生を面白半分で観察していた
しかし5月のゴールデンウィークが過ぎた頃には食満留三郎の話は徐々に減って行った
刺激のない学生生活に飽き飽きしていた私は、その原因を辿るべく興味本位で暗躍してみることにした
善法寺伊作、保健委員会の委員長で保健室に居ることが多い、それ故に彼女目当ての仮病者が後を絶たないことでも有名だ
さて、善法寺伊作とはどんな人なんだろう
保健室のドアを開けた
彼女がいた
「やあ、今は僕しか居ないのだけれど、どこか悪いのかな?1年生?」
栗色の髪の毛をポニーテールにした、いかにも優しそうな彼女は私を暖かく出迎えた
「朝から体調が悪くて…」
「そう、じゃあ横になった方がいいね、1時間くらいしたら起こしに来るから、ゆっくりしてて」
仮病で保健室を利用した罪悪感に苛まれながらも保健室の固いベッドの中で考えた
この人が、善法寺伊作か…
なるほど、みんなが口を揃えて言うだけのことはある、その優しさに裏はなく私以外の生徒にも分け隔てなくこうやって人の為に尽くしているのであろう
不思議なことに、私はそこで善法寺伊作先輩の事を好きになりかけていた
それと同時に、この人を好きになると苦労するだろうなと思った
私と同じような気持ちになる生徒も沢山居るだろうということに思いを馳せた
誰にでも優しい善法寺先輩は
恋人の前でもこんな風なのだろうか
それを考えると私は酷く残酷な気持ちになった
ある日、移動時間の合間に渡り廊下をぼんやりと見つめていた
そこには彼女がいた、彼氏である食満留三郎を見つけると否や、転けそうになりながらも彼氏のもとへ走っていく彼女、いまにもはちきれんばかりのような笑顔をしている
食満留三郎の隣に並んだ彼女は、全てが満たされたような顔をしていた
ああ、この人、こんな顔もできるんだ
彼女が食満留三郎に向ける視線は優しくて愛おしさに溢れていた、それを食満留三郎は暖かく受け入れる
確かにこれは周りが入る隙のないカップルだ
でも私はそんな伊作先輩の一面が見れてなんだか嬉しかったのだ
そして寂しかったのだ、私、アナタ達のことなんてこれっぽっちも知らない少女Bだわ
でも、どうか彼女がこれ以上の不運に見舞われませんように、静かにふたりの幸せを願った