ファーストキスカラムと婚約者となって3ヶ月が経とうとしているが、カラムは一切私に手を出してこない。
夜はみんなが気を遣って2人きりにしてくれているのに、最初こそ余所余所しさはありつつも軽いスキンシップで楽しめた。
ならば次の階段をそろそろ登ってもいいと思う。
次の階段、それはキスだ。
今まで頬やおデコにキスは貰ったことあるけど、未だに唇には貰ってない。
というか、貰ったのも一回ずつって少なくない?
私は王女でカラムは騎士だけど、婚約者なんだし、今のカラムは私の様子を見て合わせてくれているけど、少しは強引でもいいと思う。
私だって年頃だし。
好きな人と一緒にいればそれなりに好奇心というか、してみたい欲求はあるわけで。
ならば私が動くしかない。
このまま待っているだけでは初夜までお預け!なんて事も考えられるのだから。
ヨシ!
と気合い入れたものの、カラム本人を前にすればその気合いも萎んでしまうわけで……。
カチャカチャと小さな音が静かな部屋に響き渡る。
すぐに甘いフルーツを思わせる香りがしてそちらを見ればカラムが鮮やかな赤いハーブティーをティーカップに注いでいるところだった。
そしていつものようにスプーンで私のティーカップから一掬い口に含む。
そのただの毒見の動作にすら洗練された所作で目を奪われてしまう。
赤い赤い真っ赤なティーがカラムの唇を濡らす様子に目が離せなくなる。
「失礼します。お待たせしました」
殆ど音も無く私の前に置かれたティーカップの中には真っ赤なハーブティー。
「今日はローズヒップとハイビスカスが用意されてましたので使わせて頂きました。香りはとてもフルーティな甘さがありますが、少し酸っぱいかも知れませんのでその時はこちらの砂糖か蜂蜜をお入れ下さい」
「ありがとう、とてもいい香りね!」
温かそうに湯気が立つハーブティーから心地よいフルーツを思わせる甘い香りがしてホッと息を吐いた。
一口飲めば目の前に南国の海が見えるようだ。
眩しいほど照りつける太陽、真っ青な海と空に白い雲と白い砂浜、そこに咲く真っ赤なハイビスカスと薔薇の花、ローズヒップは赤い実だったかしら?
あー、幸せ。
思わず行きたくなってしまう。
ギラギラ照らす太陽の熱さにこの酸っぱいのがいいのかも知れないが、フリージアの気候にはやはり酸っぱいなと、少し薄める為に蜂蜜を垂らしかき混ぜる。
うん、断然飲みやすくなった。
ハーブティーはカフェインもないから夜に最適とアーサーから提案された時は物知りねと思ったものだ。
でもまさか、騎士団でハーブティーを夜な夜な配っていたのがカラムだったとは思いもしなかった。
偏見ではあるが騎士団のような男世帯にハーブティーというお洒落な物は結びつかなかった。
でもこうやってカラムと知り合い、夜にハーブティーを淹れて貰うようになって思うのは
ハーブティーを淹れるカラムが素敵過ぎる!!
元々貴族だし!
顔だってレオンに負けないくらい綺麗だし!
手先は器用だし!
全てにおける所作なんてそこら辺の使用人何かよりも綺麗すぎて相手にならないの!!
立ち振舞も、言葉遣いも、声も、人の気持ちも汲んでくれて、騎士団でも中心人物で皆から尊敬されていて……そんな人が私の婚約者なんて勿体なさ過ぎて申し訳ない!!
女性は勿論、同性の騎士からも好かれて、憧れている、こんなにも素敵な方、他にもっと素敵な人が隣にいた方が自然なのに!!
私を好きと言ってくれて、こうやって今も私のことを一番に気遣ってくれて、私が彼を独り占めしてしまっている現状に申し訳ないやらなんやら!!
「どうかなさいましたか、プライド様?」
「いえ、ハーブティーがとても美味しいわ」
「ありがとうございます」
そんな事を思っているとはおくびにも出さない。
王族の余裕を、鍛え上げた表情筋で装う。
そんな私にカラムは微笑みながら自分もハーブティーを飲み始めた。
その様子を見ながらなんで夜にカラムにハーブティーを淹れて貰うようになったのか思い出す。
アーサーからカラムがハーブティーを淹れるのが上手と聞いていたから私がお願いして、カラムも了承してくれて、ずっと続けてくれている。
ただ、何ていうか、そう、私がお願いして淹れて貰っているのだが、それがどこか主人と執事か従者のような関係に思えてならない。
私が人を奴隷としてしか見ずに使い捨てていたラスボス女王だからだろうか?
カラム自身、騎士団の三番隊の隊長として毎日忙しくして疲れている筈なのにとても楽しそうで無理矢理やらされている感じでないのは本当にありがたいが、じゃ何が?
そうだ、言葉遣いだ。
カラムは一貫して私には騎士の時と同じ言葉遣いをする。
騎士の皆にはもっと砕けた話し方なのに。
じっと見つめていたら目が合った。
「どうかなさいました?」
本日2度目の問いだ。
「そろそろ私にも砕けた言葉で話してほしいな、と思いまして」
「え!?」
カラムの目が開かれる。
「もう婚約もしましたし、2人の時くらいは肩の力抜いてほしいんですが、駄目ですか?」
そしたらちょっとはこの距離を詰められるだろうか?
拳2つ分殆ど開いた距離を。
「いえ、……そうですね少しずつ慣らして……は行きたい……」
突然は難しいと前髪を抑えるも受け入れてくれたことが嬉しい。
「では私もこれからはカラム隊長のこと、カラムと呼んでもいいですか?私のことはプライドと呼んでください!」
私の提案に驚いたのか身体を跳ねさせ手を口に当てて顔を赤くした。
そして思案してから「……頑張る」と小さくも言ってくれたのが、とても可愛くて思わずその膝に頭を置いた。
「えへへ、カラム」
鍛えているカラムの太腿はとても固いけど頭を置くととても気持ちが落ち着く。
見上げればカラムの綺麗な顔が驚いているのが目に入る。
膝枕なんて子供すぎたかしら?と思ったが嬉しい衝動のまま無理矢理にでも前に進みたかった。
そしてカラムは目を細めて私の頭をそっと撫でてくれた。
カラムの大きくて固い掌がとても優しくて、カラムの香水と混ざった香りがとても心地よいと感じる。
「カラムはいつも陽だまりのような温かさをくれるわ。ずっと一緒にいたくなるの」
そう笑い掛けたらまた目を大きく見開いて、それから凄く優しい眼差しを向けられた。
「陽だまりのように温かいのはプライドの方だ」
初めてプライドと呼ばれて凄く嬉しくて脚をパタパタさせてしまうが、私のどこが?
「私?」
「はい、とても温かい人です。ずっと一緒にいたくなります」
真っ直ぐと優しい眼差しで言ってくれるカラムに嬉しさと羞恥で言い返すことは出来ない。
カラムがどこを見て言っているのかは分からないけど言われて嫌な気持ちにはならない。
それはいつも真面目で真っ直ぐで本当の事しか言わないカラムだからだ。
今も目を見れば分かる。
「ありがとうカラム」
「プライド様!?」
頭を撫でてくれた手を取りその指先にキスを贈る。
痺れたようにカラムの指先が震えるのが唇から伝わった。
この3ヶ月でだいぶカラムには甘やかされて来た。
今も甘やかされて、褒められて、名前まで呼ばれて、まだまだ口調は砕けきれてないもののカラムが私に応えようとしてくれるのが嬉しくて、嬉しくて、溶けてしまいそう。
ずっとカラムとこれからも過ごせるのがとても楽しみで仕方ない。
〝賞賛〟のキスをカラムは喜んでくれるけどやっぱり私としては〝愛情〟のキスが欲しいかな?
そのまま手を頬に当ててカラムを見上げてみる。
つり上がった目も見上げればそこまでキツくも無いだろうと思ったが、目が合うとカラムは目をこれでもかと見開いた。
「カラム?」
名前を呼べばカラムの喉が上下したのが目と耳に入った。
まさか見上げても目がつり上がって見える?
確かに今化粧も落として素顔だしカラムにとっては怖い表情……なのだろうか!?
「プライド……」
唇にカラムの人差し指が触れた。
優しくなぞられて身体が無意識にピクッと反応をする。
カラムの指が動く度にむず痒いような刺激が唇から広がっていく。
「プライド」
私を呼ぶ声がどこか熱っぽい気がするし、カラムの目もすごく優しくてどこか熱っぽい目線な気がする。
今までこんな目を向けられたこと無くて心臓が大きく脈打つ。
ドクンドクンと耳元で音が鳴っているようだ。
カラムの手が唇から離れ頬を撫でる。
そしてそっと顔が近づいて私は目を閉じる。
一拍してから唇が重なった。
柔らかく湿った感触が唇から伝わる。
見ていた時は薄く感じていたカラムの唇は思った以上に厚みがあって温かくて柔らかくてとても気持ちが良かった。
ゆっくりと離れて行くと同時に目をそっと開ける。
触れるだけのキス、そんなにも長く無いはずなのに、時間が止まったようだ。
息も止めていたようで思ったよりも大きく息を吸って吐いてしまった。
まだ心臓の音が大きくて早くて、自分がどんな表情をしているのか分からない。
前世ではキスの味は?なんて質問の答えは『甘酸っぱい青春の味』とか『レモンの様な』とか聞いていて自分はどんなのだろうかとよく妄想していたっけ。
あれは本当の味覚の味の事を指しているわけでは無いことは重々承知ではあるが、もし同じ質問を今受けたら、同じハーブティーを飲んだ後に唇が触れただけなので相手なのか自分のなのか、香りなのか味なのかも分からないが確かに〝フルーティな甘酸っぱい〟味と答えるだろう。
何だかそれが恥ずかしい気がして熱がジワリジワリと込み上がってくる。
カラムの顔がまともに見れなくて、膝枕も恥ずかしくなり身体を起こしてソファに座った。
それでも離れたくなくて、肩と腕がぶつかる距離で。
今はそれだけで心地よい。
「…………甘い」
唐突にカラムから呟かれた言葉に思わず見れば目を大きく見開いて耳まで真っ赤にして口元を押さえていた。
まるで言ってはいけない言葉を言ってしまったかのような表情で。
「甘い?」
聞き返せばカラムは口を手で押さえつつ赤い顔のまま目を閉じた。
「すまない。不快に思っただろうか?」
「いえ、それよりどういう意味か分からなくて」
聞けば開いた目が泳いでいる。
「………甘いと思ったんだ。…プライドの唇が」
「へ?」
「さっきハーブティーに蜂蜜いれただろ?」
「あ!」
「その甘さがプライドの……唇にッ!!」
ボンッと爆発音が聞こえた気がする。
それ程カラムの顔が真っ赤になっている。
先程私は蜂蜜を入れたからカラムのよりも甘いハーブティーを飲んでいた。
つまり、私は気付かなかった味の違いをカラムは気付いたということだ。
何だかそれがキスをした証なのだと、先程までは現実離れしていたお陰で、前世を考える余裕もあったのに今は私も完全に熱が全身に回って目眩がする。
キス、したんだ。
その現実が頭から離れない。
婚約も公表されたわけだし、この3ヶ月短い時間とは言えほぼ毎日夜の一時を共にしていたわけで、もうとっくにしていてもおかしくないし、私も待っていたわけで。
嬉しい筈のそれがふわふわとしていて嬉しいのか何なのかよくわからない。
ただ、したという現実がそこにはある、それなのに凄く現実離れしていて受け取れきれてない。
「あの!!」
「はいッ!?」
突然真剣なでもまだ真っ赤な顔を私に向けるカラムに私の肩が跳ねた。
「失礼致しました。許可なく、してしまいました」
「ぁ、いえ…構いませんよ??」
実際して欲しいと思っていたのは私だ。
ただ、それが受け取れなくてふわふわしているだけである。
「誘われたと思ってしまって、思わず……いや、それは言い訳で。私がしたくて……してしまいました」
誘われ──いや、確かにして欲しいと思いながらカラムを見たけど、あれは誘っていたの!?それをカラムは受信出来たの!!?
察しのいいカラムは本当に凄い。
「早過ぎかと思ってしまったので我慢していたのですが、我慢できなくなってしまい」
婚約3ヶ月目ですけどッ!?
いえ、確かに私は今キスという事実を受け止めきれていないのを考えれば早過ぎたかも知れない。
カラムは世間一般ではなく私を考えて行動してくれているのだから、カラムがそう思うのもおかしくはない。
「あの、後悔をしているんですか?」
「後悔などっ!!」
私の問いに突然大声で否定するから吃驚してしまう。
自身でもびっくりしたように口を手で覆うから珍しく感情的になってのことなのだろう。
すぐさま衛兵が「プライド様!?」とノックするので「問題ないわ。何かあったら呼ぶから開けなくていいわ」と返せば了承の返事が返ってきた。
すみません、と謝るカラムは肩を落とし背も丸まっている。
「私はそろそろして欲しいと思っていました」
「プライド様……」
「でも、私よりもカラムの方がずっといっぱい私のこと、これからのことを考えてくれていたことが、それが知れたことが一番嬉しいです」
カラムの手を握る。
大きくて硬くてとても頼もしい騎士の手を。
指を絡ませカラムの肩に頭を置く。
するとピンと背筋が伸びた。
「カラムは私のこと甘えさせてくれるのがとても心地良くて、私はずっとこうしていたいとしか考えていなかったと反省します」
カラムに比べれば自分の事しか見えていなくて恥ずかしい。
「いえ、プライド様はそれで構いません!私にも存分に甘えてください!!」
カラムの手がギュッと手を握る。
私が痛くないように手加減してくれる。
「私はプライド様が甘えてくださるのがとても嬉しいんです。何かしてあげたいと、してあげられる事がある、それが私は嬉しいのです。自分が必要とされていると感じられるのがとても嬉しいんです」
やはりカラムはとても優しい。
いつも人の為にと必死に自分ができる事を探している。
私は私のことしか見ていなかった、考えていなかった。
「私にはカラムが必要です。いつも一緒にいたいほど必要としています」
そう伝えればとても嬉しそうに笑ってくれた。
それはいつもの様な大人の笑みではなく、アラン隊長達に見せるような本当に嬉しそうな笑顔で。
もしかしたらカラムはずっと不安だったのではないかとやっと気付く。
そして不安を感じさせたのは、私だ。
変わらなくていいとカラムは言うけど、そうしたらカラムは一人で何でもしてしまう気がする。
私の知らないところで。
それでは駄目だ。
私もやっと話さなければみんなに心配を掛けると言うことが分かったのだ。
夫婦になるのだから話し合いたい。
カラムのこともっとよく知りたいし、私もカラムの役に立ちたい!
この3ヶ月話をしてだいぶ知ったけどまだまだ知らないことだらけなのだから。
「私はカラムのこともっと知りたいです。一人で悩まれたら私が必要で無いのかと思ってしまいます」
「そんな事は──」
「だから、私も話します!悩んでいる事も、辛い事も、苦しい事も。だから今までのような楽しい話も嬉しい話もいいですが、もっとそういう話し合いもしたいです。カラムと一緒に苦しみたいですし悩みたいんです!!」
私の言葉にカラムは戸惑い赤茶色の目を泳がせた。
「勿論お互い立場上全てとはいかないでしょう。それでも話せること、出来れば私に対しての不安とか不満は言って欲しいです。これからは共に過ごす事も多くなりますし、少しでもお互いが心地よくいられるようにしたいです!」
じっと見つめながらもしっかりとした口調で伝えればカラムも目を合わせてくれた。
「不安や不満ですか……」
「はい、あったら早い内の方がお互いに直せるかと思います」
今まで散々甘えてきた分あるのだろうカラムは繋いでいない手で口元を隠して考えている。
「なら一つだけ」
「何でしょう?」
どんなに理不尽な事でも今は反論はしないと決めて聞きに徹する。
だってカラムが言うと言うことは相当我慢していることなのだから。
それくらいは分かる。
「夜ここに私が来た時と帰る際にですが……」
「はい」
「2人になってからでいいので、プライド様にキスをさせて頂きたい、という願いは如何でしょうか?」
そこに照れや笑いは一切なく真剣な顔で聞かれた。
「………………きすですか??」
「はい、キスです」
まさかの話に目が点になる。
いや、よくある新婚の家庭は、ほら、うん、そうよね、キスぐらいするわよね。
たださっきしたばかりで今言われるとはどう反応すればいいのか。
私が返事に困ってるとだんだんと顔を赤らめたカラムが先に口を開いた。
「いえ、手の甲でもいいんです」
いやいやいや、どう考えても今の話の流れ的に口でのお願いだったわよね!!
それは私にも流石に分かった。
「嫌ではないわ。ただ、今初めてしたばかりだから上手く出来るか分からなくて、応えられなかったと思ったらとても怖くて頷けなかったの」
言い訳に聞こえるだろうが仕方ない、真実なのだから。
「いえ、…本当に何処にでもいいんです。私がしたいだけですので」
「ねぇ、良かったら何でか教えてくれる?」
いつも遠慮するカラムが珍しくキスをすると言うことは変えないのは珍しくて、新婚さんゴッコをしたいのとは違う気がする。
「楽しい話ではありません」
「カラム、さっきの話!」
そう怒った顔で伝えれば「うっ」と顔を顰めた。
それからおずおずと繋いでない方の手で私の繋いでない手を取り握られた。
ソファに座ったまま、私とカラムの両手が繋がりそこに円が出来る。
そしてカラムは決意した顔で真っ直ぐとその誠実な赤茶色の目で私の目を見て伝えてくれる。
「面白い話ではないのです。ただ、私は騎士ですので他の職以上に常に死が隣にあります。だからこそ悔いを残したくない」
ギュッと強く手が握られる。
「例え喧嘩した日だろうと『行ってきます』と『ただいま』は言いたいのです。出来ればプライド様からも返していただけだら、嬉しいです」
ああ、やっぱり私は子供だ。
不安とか不満をと言ったのにカラムは願望を口にしている。
それも私にこうして欲しいよりも自身がこうしたいを先に。
そしてその目は過去ではなく未来に向けられている。
もし喧嘩をした日に何かでカラムが亡くなったら?
そう考えるだけで怖くて考えていなかった。
実際カラムは一度私の前で死にかけたのだから。
「プライド!?」
「ごめん、なさい………」
泣きたいわけでは無いのに思い出したら涙が溢れた。
カラムが手を離そうとしたからギュッと私から握った。
「する、毎日します。人がいてもするから!」
「プライド、無理はしなくていい。すまなかった変なこと言ってしまって」
ブンブン首を振ると涙が散った。
「毎日します、だから、だから必ず帰って来て」
「プライド」
引き寄せられてカラムの胸に飛び込む形になる。
ああ、カラムの団服が汚れてしまうと思ったが手を離すとカラムの手が頭を撫でてくれる。
それがとても落ち着く。
「帰ってきます、必ず貴方のいる場所へ」
「………うん」
しばらくカラムの胸に頬を当てているとカラムの手が私の顔を上げさせる。
そしておしぼりで顔を拭かれた。
「おまじないの様な物だと思ってください。私が毎日帰れるおまじないです」
「分かったわ」
私はカラムの背中に手を回す。
「私もカラムの胸に帰れるように毎日『行ってきます』と『ただいま』の時は抱きつくわ」
「それは──凄く嬉しいですね」
照れたのかカラムの顔が赤くなる。
「更に這いつくばっても帰って来なければなりません」
「うん、約束」
「ええ、約束です」
2人で笑って、どちらともなく顔を近づける。
唇が触れ合ってすぐにコツンとおデコ同士が合わさった。
「……しょっぱいですね」
カラムから楽しそうに笑われながら言われてしまう。
「カラムが泣かせたんですよ?」
「そうですね、これで最後にします」
「ふふふ、そうなったらいいわね」
「はい、もう絶対に私のことでは泣かせません」
「約束?」
「約束したらプライドも守ってくれるか?」
「うっ……それは……約束は出来ない」
「私は誓うよ」
すかさず言うカラム。
「未来新たにそんな思いをさせない、と」
チュッとおデコにキスをくれる。
「絶対に貴方を守り抜く。騎士として、婚約者として、そして貴方に選んでもらった者として、貴方の隣に立てることを光栄に思っております。本当なら騎士は一番大切なモノを一番側で守れない職ですので」
改めてカラムの赤茶色の目に真剣で真っ直ぐな眼差しで言われるとぷすぷすと熱が頭を回る。
私の指先にキスをくれる姿も目が離せなくて全て見いってしまった。
美しすぎるカラムの姿に、先程この御方から〝愛情〟の口付けを贈られたと思えば触れた唇が熱くて擽ったくて目がぐるぐると回り始めた。
「プライド、愛してる」
そっと肩を引き寄せられて胸に抱かれそっと髪を撫でられる。
カラムも何時もよりも体温が熱くて、心音が大きく早いのは気の所為では無いだろう。
でもそれがとても心地良くてやっぱり私はカラムが好きなのだと再確認出来た。
自分には勿体なさ過ぎるけど、誰にも渡したくないと彼の胸に抱かれ素直に思った。
私もいつかはカラムのように誓おう、そしてそれを約束にしよう。
そう思いながら顔を上げれば、気付いたカラムが微笑んで「ゆっくりと進みましょう。お互いのためにも」とまたおデコにキスをくれた。
それがこれから先も永く永く一緒にいるのだと言ってくれているようで嬉しくて、今度は私からキスをしてみた。
カラムはとても吃驚していたけど、また心から嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
大好きな人との初めてのキス、それが人生でのファーストキスとなった。
ローズヒップの花言葉……正義感、誠実、無意識の美
ハイビスカスの花言葉……上品な美しさ、繊細な美、新しい美、信頼。
幸せな未来、希望を象徴するモチーフ