難題◇香り
テスト一週間前に全部活動は停止する。
放課後は生徒は早く帰る者と残って勉強する者と分かれる。基本私は早く帰る組だが、今日は校舎にまばらに生徒が居なくなる時刻まで教室で勉強をしていた。
今私が1人で歩いているのは生徒がほとんど居なくなった高等学騎士科の校舎。私が所属している中等学社交科とは全く違う、何とも表現しにくい匂いが鼻につく。これが本来の男性の臭いなのだろう。雨が降っていたらもっと酷そうだなと思わず想像してしまい眉間に皺が寄りそうになり慌てて表情を取り繕う。
不快とまではいかないが、社交科は男女共同な上、男性も香水を常に使用する環境に慣れているとこの匂いは大変厳しい。
アーサーはこっちの方が落ち着くんだろうな、と思いながらそんな騎士科の廊下を歩いて目的地を目指す。
完全アウェー、すれ違う生徒達の目線やヒソヒソ声に心細くて今すぐ回れ右で帰りたくなるのを髪を触り、少しの勇気を貰いながら、平然を装って闊歩する。王族として簡単に日和るわけには行かないのだ。
心細くなりながらもだいぶ鼻が慣れ始めた頃にやっと目的の教室にたどり着いた。
入る前に窓から中を見れば一人の男子生徒が教室の真ん中辺りで一人姿勢良く椅子に座りノートに文字を走らせている。
(いた!)
他には誰もいないのを確認する。
ドキドキと煩くなる心臓を服の上から抑え深呼吸をする。もう匂いも気にしない。
ヨシ!と気合を入れて教室のドアをノックする。
「はい?」
想像通り彼が返事をしてくれたので「失礼します」と言いながらドアをガラガラと引いた。
「カラム先輩少しよろしいでしょうか?」
「プライド様!?どうかなされましたか?」
私の姿にカラム先輩はガタッと椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「あの、勉強を教えて貰いたくて……」
そう言いながら持ってきたノートと教科書を見せる。
「それでしたら連絡を頂ければ私の方が訪問致しましたのに……」
「いえ!教えて貰う私が動くべきですので!」
「お気になさらず、これからは呼び出してください。貴方の身の安全の為にも!」
別に転んだりしないけど……。そう思いつつ真面目に言ってくれるカラム先輩には素直に頷くしか出来ない。
騎士科は男性のみだから、女の私が彷徨くのはそれだけで目立って仕方ない。だからこそ放課後に訪れたのだが、それでもやはり残っていた男子生徒にジロジロ見られ、ヒソヒソされるのはいい心地はしない。
だからと言ってカラム先輩をわざわざ社交科に呼び出すのも憚れる。
社交科は男女半々だが、騎士科とは制服が違う上に中等部と高等部でも異なっているから一目瞭然である。アーサーのように騎士科の生徒が社交科に来るのは目立つが少なくはない。だが、高等部であればその比ではない。
そして騎士科の部長と生徒会長として有名人なカラム先輩が訪れれば王族の私と同じく周りからジロジロ見られると確信できる。
カラム先輩がその目線を心地良く思わない事も知っていれば呼び出す等出来ない。
カラム先輩が王族である私が学校とはいえ、うろちょろするのを良く思わないのも分かっているが……、やはり次も呼び出す事は出来ないだろう。
「どうぞお座りください」
カラム先輩は自分が座っていた席を立ち上がりハンカチで座椅子を拭いた。
「え!?いいえ立ったままでいいです!」
「いえ、勉強ならしっかり座った方がよろしいです、お座りください」
(うう……折角拭いてくれたわけだし断るのも失礼にあたるわよね……)
カラム先輩の椅子だと思うだけでドキドキする。そっと腰を下ろすと座椅子がほんのりと温かくて、これがカラム先輩の温もりだと自覚すれば自然と頬が熱くなる。カラム先輩の周りだけ空気も浄化されているように爽やかな香りがしている。
もうほとんど気にもしなくなった匂いだったが、慣れただけで心地良いとは思っていなかった事を自覚する。
(この香水何処のブランドだろう?)
静かに悟られないよう鼻に意識を集中させる。
社交界でも嗅いだ記憶のない香りだ。カラム先輩のことだ、オリジナルな可能性も高い。強過ぎない爽やかな清涼感のある香草の香りはとても騎士のカラム先輩に似合っている。
(本当にお洒落ね)
上流階級の多い社交科では男女関係なくお洒落をする生徒が多いが騎士科は真逆な印象だ。
勿論カラム先輩のように家柄がいい方を中心にお洒落している方もいるが少数派だ。
(そうなのよね……)
と改めて思う。カラム先輩は社交科でもいい程の家柄だ。それなのにわざわざ騎士科を選んだのは国民を守る為。
──そんなカラム先輩を私は心から敬愛している。だからこそ彼の邪魔だけはしたくない。
「どちらの問題でしょうか?」
「こちらの応用問題なのですが」
「ああ、確かに私もここは躓きました」
「そうなんですか?」
「ええ、ここはこの公式を──」
説明もとても分かり易く先程まで躓いていたのが嘘のようにスラスラと解けてしまった。
「ありがとうございます!さすがカラム先輩です!とても分かり易かったです!」
「いえ、一度の説明で理解されるプライド様が素晴らしいんです」
そうニッコリと返されまた頬が熱くなる。
カラム先輩は嫌味も皮肉もお世辞も言わないで人だから本当にそう思ってくれているのだ。そしてカラム先輩のイメージを壊さない様に努力を続けなければと心重たいテストを頑張る意気も出る。
(セドリックには負けないんだから!!)
同年代のセドリックの存在は本当に脅威だ。王族として、今後この国の中心を任される身として、彼に勝たねばならない。
「ありがとうございました。では私はこれで失礼します」
「そうですか」
もっと一緒にいたいけどカラム先輩も勉強がある、これ以上邪魔は出来ない。
「もしまた分からない問題がありましたら携帯で電話か写真を送って頂ければお答えできますよ」
カラム先輩の顔を見れば優しい顔のまま頷かれた。先程カラム先輩を呼び出すことに難色を示したから代案を提示してくれたのだろう。
「……ありがとうございます。次からはそうしますのでお手隙の時にお答えください」
「ええ、いつでもお待ちしています」
「では失──」
「あ、あと!」
再び失礼します、と言おうとすると珍しく遮られた。何だろう?と顔を上げればカラム先輩は優しい顔で指を自分の頭に向けた。
「リボンとても愛らしくてプライド様にお似合いですね。落ち着いた赤でとても大人っぽくて、桜色の制服にもとても似合っていて素敵です」
ボンッと今までの比では無いほど顔が、耳が赤くなったのが自分でも分かる。
赤ワインのような色合いの大きなリボン、アクセサリーショップで思わずカラム先輩を思い出して手にとってしまったものだ。カラム先輩に褒めてもらえて嬉しすぎて顔を上げられない。「ありがとうございます」をなんとか返すので精一杯だ。
「あと香水も新しくされました?いつもの花の香りも素敵でしたが、とても爽やかな柑橘系の香りはとても心地が良いですね。何処のブランドか教えて頂けますか?」
「〜〜〜は、はははぃッ」
思わず声が裏返ってしまった。
香水にまで気付いて貰えた!
『愛らしい』『お似合い』とリボンを褒めて貰えた上に香水まで!!
今日ここに来たのも勉強はついでで新調したリボンを見て欲しかったからだ。
気付いてもらえなくても、何も言われなくても、見て欲しかった。マリーとロッテやティアラから似合うと褒められ、ステイルとアーサーからも『いい』って言って貰えたから。自信を持てたから……どうしてもカラム先輩に見てもらいたくここまで来てしまった。
香水も新年度ということで新しく購入したばかりだった。
「あ、あああの!私もカラム先輩のこっ香水、知りたくて!」
「そうですか?勿論いいですよ。と言っても私のはオリジナルですが」
「わ、私のも、そうです!!同じところかも……??」
「そうかも知れませんね」
柔らかな笑顔でカラム先輩が告げた店はやはり同じで2人で笑ってしまった。
(どうしよう、店が同じってだけでこんなにも嬉しい。今度同じの注文しよう!)
香水の内訳は細かいところまでは覚えてないので帰ってからメールをすることになった。カラム先輩とメールが出来る、それだけで嬉しくて仕方ない。
「プライド様はまだお帰りにはなりませんか?」
「教室に戻ったら帰ります」
「お一人でですか?」
「ええ、ステイルもティアラも今日は先に帰っているので」
「ならば一緒に帰りませんか?」
「え?」
「私も帰るところでしたのでマンションまでお送りします」
「え!?」
「夕方ですから女性の一人歩きは危険です」
「いいえ!寮とは方向も違いますし!」
「騎士にとっては大した距離でもありません。が、そうですね……。ではプライド様」
「は、はい?」
「私の散歩に付き合って頂けませんか?」
「散歩、ですか……?」
「はい、散歩です。テスト期間で身体を動かしていませんので気分転換に散歩させて頂きたいのです」
「……はい」
そんなことをニコニコと言われて断れるわけはない。
騎士科のカラム先輩からすれば私は後輩であると同時に王族、護衛対象だ。一人で帰すわけには行かないのだろう。
それでもカラム先輩と一緒に帰れるのはとても嬉しい。好きな人と一緒にいられるのはいつだって嬉しいもの、例えそれが帰るだけであっても。
「では行きましょう」
「はい!」
これからも一緒に帰りたい、そう言えたならどれだけ幸せだろうか?
決して訪れることのない夢のような未来を見てしまう愚かな私は自分で笑してしまった。
◇揺れる恋心(カラム先輩に会いに行く直前のプラ様です)
テスト一週間前に全部活動は停止する。
放課後は生徒は早く帰る者と残って勉強する者と分かれる。基本私は早く帰る組だが、今日は校舎にまばらに生徒が居なくなる時刻まで教室で勉強をしていた。
(そろそろいい頃かしら……?)
席を立ち、手洗い場で身体の角度を変えながら自身の顔と髪、制服に汚れや乱れがないかを隅々まで入念に確認する。携帯していたメイク道具でしっかりと直し最後に足下に邪魔にならない程度に香水を一振りすればそこだけ爽やかな香りになった。
(少しでも誤魔化せていればいいけど……)
私は中等学年だが、薄化粧は許される我が校に感謝する。鏡の中の私のつり目は若干柔らかだ。式典であればガッツリメイクでそれなりに誤魔化せるが、学校ではこれが限界である。
毎度毎度、この顔で会っているのだから今更であるが、自分も女性として少しでも可愛く見られたい。好きな人なら特に。
「気付いてくれるかな?」
色付きリップで血行よく色付いた唇から不安がこぼれ落ちた。
手を持って行くのはポニーテールの髪に飾った大きなワインレッドのリボン。この存在感にあの方が気付かないことはないだろうが、似合っていないと思われないだろうか、そう考えるだけで心が痛み今すぐにここから逃げ出したくなる。
色合いも形も大人っぽいから私にも合っているだろうが……やはり自信が持てない。こんな目付きの悪い女が付けていいものではない、と思われたら恥ずかし過ぎてもうカラム先輩の前に立てない。
「大丈夫……よね?」
カラム先輩は例え似合っていなくても馬鹿にしたり笑ったりしない人だ。
今にも泣きそうな顔をしている鏡の中の私にそう30分は言い聞かせた。
■後書き(ダラダラ〜と書いてます)
読んでいただきありがとうございます。制服が解禁された嬉しさで書いたのですがほぼ制服は関係のない話になってしまったwww
中学新1年生になった時も「見て見て」とあえて制服で会いに行ってる様子を……いつかは書きたい(願望だけはいつも心にストック中)
アクセ類も小さいのは見つけて貰えなくてガッカリした経験から、あえて大きい存在感増々のを選んで、見て!気付いて!褒めて!と社交科と騎士科を往復するプラ様です。(なんだかんだ言いながらも99%は褒められ待ちなプラ様です)
そして気付いたら必ず褒めるカラム先輩はイケメン。でもプラ様が大きなアクセを好んでいると勘違いする鈍チンです。
というのを書きながら設定しました。
プラ様の婚約者って現パロではどうなっているのだろうか?この片思いプラ様シリーズは大学卒業で親の決めた婚約者発表がある設定です。
なのでカラム先輩に気持ちを告げる事すら叶わないと諦めてます。
でもそこは10代乙女の暴走恋心、気持ちが抑えきれずに会いに行っちゃうw(可愛い)
そしてカラム先輩の言動に喜び、また強く惹かれて行くという地獄。蟻地獄ならぬカラム地獄。この天然人誑し……。
一方カラム先輩はプラ様の気持ちに全く気付いてない上に〝王族で愛らしい後輩〟としか見てないというプラ様泣かせ。
進言する立場にないので言葉が柔らかいです。(信頼関係が結ばれたらプラ様相手でも厳しい言葉が出るタイプ。一人で騎士科に来たら危機感がないと怒りますね)
この鈍チンカラム先輩は大学生になってからプラ様を本格的に意識すると思ってます。(そこでプラ様の気持ちに気付いてモンモンとすればいいさ)
ちなみに香水イメージは
プラ様はグレープフルーツ
カラム先輩はキャラウェイです。
そんな感じでこの片思いシリーズはゆる〜く続いていきます。すみません、作者が片思いプラ様好きなもので。そして基本剣盾はご都合よくいません。
👇️ここから下は制服クジについてです👇️
クジ!制服!いいですね!
プラ様の桜色の制服がまた可愛くて、ポニーテールにワインレッドの大きなリボン付けて欲しい!絶対にお似合いですプラ様!!
プラ様のA賞欲しかったな〜。検索してもA賞プラ様交換に出している方見なかった。プラ様大人気!
背丈からプラ様達は中学生、カラム先輩達は高校生と思うんですよ。
で、カラム先輩を見た感想は「脚細ッ」「脚長ッ」「THE★生徒会長ッ!!」でした😆
アラ先輩のポーズにやられながらもクジ回していたらやっぱりカラム先輩を求めてしまいました😇
なんとかC賞カラム先輩は自力でゲットしました!一個だけでも当たってくれてありがとうございます!!
今回ほぼCD賞しか当たらなかったけど、プラ様は全部当たり、ステくんはアニメ場面だけ全部当たり、アサくんは描き下ろしだけ全て当たるというよく分からない当たり方しました。
あとジルとクラークは1種しかないのに2個ずつ当たったwww
ソンさんいないのやはり寂しいな。アニメ場面の短髪のソンさんを缶バッジかカードにして欲しかった。
ここまでお付き合いありがとうございました。