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    飛鳥11 【右🐉】

    @asuka_migiryu

    40歳↑、腐
    🐉が如くの右桐を愛でるアカウントです。
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    飛鳥11 【右🐉】

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    永斎。(冴桐)
    維新極ベースですが、ご都合謎軸。
    以前Xで呟いた内容をベースに。
    まだお互いの素性を知らないあたりで、斎藤が兄弟の死を知った…という設定。
    どうしても書いてみたいシチュエーションだったので、細かい事を抜きにして読んでいただけたら🙏

    #腐が如く
    #冴桐
    #永斎
    yongsai

    蛇目傘の下、ふたり 空はどんよりと曇っている。
     今日は隊務の見廻りの日で。二番隊を任されている永倉は数名の隊士を連れ、洛外を一通り廻り終えたところであった。
    「今にも降り出しそうな空ですね」
     重暗い鼠色の空を仰ぎながら、一人の隊士が溜息をつく。
    「なんや、自分、雨は好かんか?」
    「そりゃぁ…。着物は濡れるし、足元も悪くなりますし……いい事でもないでしょう」
    「さよか」
    「?隊長は……もしかして、雨、お好きなんで?」
    「俺か?俺は……」
     何か含んだような物言いをして…。永倉はハッとしたように口を噤んだ。
    「隊長?」
     普段であれば、どんなことにも迷わず発言する男のらしくない仕草に、隊士が首を傾げる。
    「あ、いや。なんでもあらへん」
     さ、この辺りは特に異常もないようやし、一雨来る前に屯所へ戻るで。永倉は心に生まれた少しの動揺を誤魔化すように、ぱんぱんと手を打ちながら隊士達へと声を張り上げた。
     明らかにいつもと少しだけ様子の違う隊長。しかし。それ以上の詮索をするような隊士は、二番隊にはいない。隊士達はもうその話を忘れたように、やや急ぎ足で壬生の屯所へと進み始める。
     永倉は静かに顔を伏せ、先を行く隊士の後を追った。密かに頬を、熱くさせながら……。

     あれはいつだったか…。
    その日も天気は一日愚図ついていて。非番であった永倉は、屯所内の道場で日課になっている鍛錬を終え、長すぎる一日の時間を持て余していた。生憎沖田は不在。連れ立って飲みに行く相手もおらず、かといって一人で飲みに出るような気分でもない。自室へと戻り何をするわけでもなく、仰向けに寝そべり天井の木目を眺めていた。
     沖田がいないせいだろうか。やけに屯所内は静まり返っており、一刻程前まで聞こえていた隊士達の剣を振るう声も聞こえない。永倉は目を閉じ、外の気配を注意深く探った。
    ぴちゃん……
     意識を研ぎ澄ましている永倉の耳に、水の跳ねる音が届く。
    (なんや、降ってきてしもうたか)
     障子の向こうから聞こえる水の音は、次第に激しさを増して。……それならば、この静けさにも合点がいった。永倉は(これでいよいよほんまに、外には出れんようになったな)と、外出への気持ちをあっさりと捨て去る。こんな日は、残りの時間を横になって過ごすことぐらいしか、出来ることはない。
     もう寝てしまおうか…と永倉が再び目を閉じた時だった。
     ガタンッ……
     自室の障子のすぐ向こうから、何か重い鉄のようなものが置かれた音がして。永倉は思わず身体を起こした。誰かが戻ってきたのか…。だとしたら、自分の部屋のすぐ前に座り込むなど、あの男しかいない。
     永倉は視線を凝らし、障子を見つめる。
     斎藤一。
     先日入隊したあの男。空き部屋であった永倉の隣の部屋は、その斎藤に宛がわれた。

     斎藤は、謎に包まれた男だった。
     始めの手合わせの時より常人とは違う何かを感じてはいたが、私生活の面においてもその謎は多い。
     必要以上に他人との接触を取らないような素振りを見せながら、よくひとりで屯所内をうろつく姿を見かけた。それならば、誰か話し相手でも探しているのだろうかと側へと近づくと、何やら気難しい表情で口を真一文字に結んでいるので、とても声をかけられるような雰囲気でもない。非番の日は道場で他の隊士と鍛錬に励むわけでも、ましてや自室に籠るでもなく、ふらりと京の街へと消えていく。実際、永倉と斎藤は部屋が隣通しとは言っても形だけで、斎藤の気配を壁の向こうに感じることなどほとんどないといった状況だった。
     一体どこで何をしているのか…。あまりにも謎めいた部分の多い斎藤に。実は所帯を持っていて、隊務のない日は家族のところへと帰っているのだという噂までが、一部の隊士の間で広まっているほどであった。伏見一番街のあたりで妻…というには若い様子の娘と歩いていただとか、橋の下で若い男に愛妻弁当を分けていただとか…。斎藤が無口なぶんだけ、屯所内での噂は大きく一人歩きしているようであった。
     では、隊士達から煙たがれているのかと思えばそういうわけでもなく。斎藤の抱える三番隊の隊士からは、絶大な信頼を受けているようでもあった。意外と面倒見がいいようで、面倒な厄介ごとも渋々…といった様子は否めないようだが、最後まで投げ出さない姿勢を見せるという。
     酒が好きなようで、普段ひとりを好むこの男は、祇園に馴染みの店があり、たまの気まぐれに部下の隊士を数名連れて飲み歩くこともあるという。先日は、両脇に見慣れぬ男たちを連れ、酷い千鳥足で伏見の屋敷町を彷徨いている姿が目撃されている。
     他にも、歌まる屋で壇上に登りっぱなしだったとか、実は日本舞踊が得意で、洛内にあるにちぶ座に頻繁に出入りしているだとか…。そういった話を耳にする度に永倉は、妙な違和感を覚えずにはいられなかった。
     それは、まるで「斎藤」という男が複数存在しているかのような、不思議な感覚だった。
     ……永倉には、決して口外することの許されぬ秘密がある。
     そういう後ろ暗い事実が常に自分の傍らにあって。永倉は、出来るだけ他者と関わらぬよう努めてきた。沖田も同じ秘密を抱えているが、沖田は自分と違って器用な人間だ。むしろ、そんな「秘密を抱えている自分」を楽しんでいる素振りさえ見せる程、自分を押し殺すことなく上手く振舞えている。しかし、自分には到底そんな真似は出来そうにない。
     「本当の自分」を隠すため、話し方や仕草はもちろん、好んで食べる料理さえ変えた。それでもいつかはぼろが出てしまう気がして……。出来る限り不要な口は利かぬように努め、たまる欲求や不満を厳しい鍛錬を積む事で律してきた。
     そんな自分と、同じ匂いがしたのだ。
     永倉の知っている斎藤一という男は、自分の知らない流儀を使う剣術の達人で。どこから調達したのか、西洋の銃までも扱う闘いの猛者。必要な事以外は口にせず、こちらへ歩み寄るような素振りを見せながら、あと一歩のところで踏み留まる……。
     それが男の素の姿であるのかもしれない。しかし、自分が目の当たりにしたことのない斎藤の様子を耳にする度に、永倉は思うのだ。
     本当の斎藤は、いったいどんな男なのだろうかと。
     そういった斎藤への思いは募る一方で。永倉は自分でも気づかぬ無意識のうちに、斎藤を目で追うようになっていった。

     どかっ。
     廊下で何かが倒れる音がして。永倉はいよいよ何かがおかしいと、反射的に障子へ手をかけた。
     いつもよりも乱暴にそれを引き開け、一歩敷居の向こうへ足を踏み出せば。床に流れる濡れた黒髪が永倉の素足を擽った。
    「お、おい。斎藤か?どないした」
     履物を脱ぐため縁側へ腰を降ろし、そのままばたりと倒れたのだろう。上半身はこちら側へと倒れているが、草履を履いたままの下半身はまだ踏石の上にある。
     強い風に煽られ、雨は容赦なく縁側にまで入り込み。屈みこんだ永倉をも濡らしていく。
     永倉は力なくぐったりした様子の斎藤の上半身を抱き上げ、何度か肩を揺する。思わず顔を近付けると、酷い酒の匂いが鼻についた。
    「酔うとるんか」
     こないな昼間から一体、何故。
    「おい、おい、斎藤。しっかりせぇ」
     自分と互角か、もしくはそれ以上。十分な実力を持った男に、まさかそんな言葉をかけることになるとは…。と半ば呆れながら、永倉は酩酊している斎藤の表情を見下ろした。
     だいぶ雨に打たれたのか、斎藤の身体はぐっしょりと濡れていて。普段は乾いてさらりと風に靡く黒髪が、しっとりと斎藤の肌に張り付いている。寝苦しそうに眉間に皺を寄せ…、酒のせいだろうか、普段よりも大分血色のよくなった赤い唇は薄っすらと開き。時折「……んっ」という悩ましい吐息を漏らす。頬を濡らしていた雨粒が、自然の摂理にならい斎藤の頬を伝い落ちて、首筋から胸元へと流れていった。
     永倉は斎藤への声掛けを忘れ、その様子をごくりと唾を飲み込むようにして見届ける。
     斎藤の着物の合わせ目の中へと消えていった一筋の雨粒を追い続けるように、永倉は常時よりやや激しく上下する斎藤の胸に釘付けになる。女のように白くもなく、まして丸みを帯びたそれでもないというのに。何故かそこを拡げたくなるような、そういう異様な興奮が腹の奥からふつふつと湧いてくるのを永倉ははっきりと感じた。
     胸の内が、燃えるように熱い。
     永倉は急に薄くなった酸素を大きく吸い込んで肺を満たし、片腕で斎藤を支え直した。それからゆっくりと斎藤の着物の合わせ目に空いた方の手をかけ……、そして………。
    「………ながくら?」
     そこでようやく意識を取り戻した斎藤が薄く瞳を開き、小さく永倉の名を口にした。
     はっとしたように永倉はピタリと動きを止め、恐る恐るという様子で、胸元で縫いとめられていた視線を上げる。
     まだ完全に覚醒していないのか。……とろりと微睡みを帯びた斎藤の瞳の中に自分が映り込むのに。永倉は身体中の血液がどくどくと全身に巡るのを感じて。
     斎藤を抱く手に力を込めた。
     どれほどの力が入ったのか。腕の中の骨がギシリとしなり、斎藤が表情を歪める。
     その表情を見つめたまま、永倉は再び息を大きく吸い込んだ。
     酸素は肺を満たすのに、不思議と呼吸は苦しいままだった。体内で暴れ回る血液が、身体をぐるりと一周巡り、心臓へと還る。
     全力の立ち回りの後でさえ、これほど胸が苦しくなったことはない。
     自分の身体が、何か別のものになってしまったかのように、永倉は身体の使い方を忘れ。ただ斎藤の濡れた瞳の中の自分を見つめる。
    (これが……俺や)
     偽りの人生を生き続ける中で見失ってしまった自分が、確かにその中にいた。
     抑えきれない衝動に駆られるように、永倉は斎藤の身体を引き寄せ、浅く呼吸を繰り返す斎藤の唇に……。
    「………しん……だ」
     後少しで唇の合わさるという既のところで、斎藤が声を震わせるのに。永倉は動きを止めた。
     酒臭い、斎藤の熱い吐息が永倉の鼻先にかかる。この距離だ、自分の吐息もきっと…。
    「死んだんだ………」
     今度ははっきりとそう言って、斎藤が永倉の胸倉を掴む。弱々しく震える斎藤の手に。永倉は自分でも不思議なほど自然な流れで、武骨な自分の手を重ねた。
     斎藤はそのまま再び瞳を閉じて。
     規則的な寝息を繰り返し始めた。永倉の腕の中で。
     吹き込む雨に打たれながら、永倉は斎藤の寝顔を見つめる。暫くして、再び寝苦しそうに斎藤が眉間の皺を深めるので、永倉は慌てて斎藤の手のひらを強く握った。何故そうしたのかはわからない。しかし、次の瞬間。フッと斎藤の表情が和らぐのに、永倉は密かに胸を撫で下ろす。
     風の流れに揺れる雨に打たれながら、永倉はもう少しこのまま……腕の中のこの寝顔を見つめていたいと思った。

     ぱしゃん。自分の前を行く隊士が水溜まりを踏む音に、永倉の意識が今へと戻る。
     気づけばもう寺町通りまで来ていた。
     少し前に降り始めた雨は少しずつ雨足を強め。視界も大分悪くなっている。
    「ん?」
     先を行く隊士が足を止め、必然的にその後に続く永倉もその場で足を止めた。
    「どないした?」
    「あ、いえ。あちらにいらっしゃる御方は………」
     斎藤隊長ではないでしょうか?という隊士の言葉に、永倉は必要以上にギクリとする。
     隊士は、寺町通りの北にある祠の方を指差した。
     祠の前には降り注ぐ雨になど見向きもせず、ただ静かに参拝する男の姿がある。確かにあれは、斎藤の姿のようであった。
    「雨に気付いていらっしゃらないのか?」
    「お声がけした方がよいのだろうか」
     隊士達が口々に斎藤を気にかけるのに、永倉は小さく笑い。
    「俺が行ってくる。お前達はこのまま屯所へ戻るんや」
    「それなら私が!」
     不用意に雨に濡れ、隊長に何かあったら困ります故…という隊士を制し。
    「そんなやわやない。心配せんと、先に戻っとき」
    「しかし……」
    「この雨や。今日の隊務は終いにする。それぞれ屯所に戻って好きに過ごしたらええ」
    「よ、よろしいんで?」
    「ああ、かまへん」
     わっ!と隊士達は歓声をあげ、突如として手に入れた自由な時間を僅かでも惜しむように、雨の中永倉を残し、大通りを壬生へと向けて駆けていった。
     遠ざかる隊士達の背中を見届けながら、永倉は「たまにはええやろ」と苦笑し、さて……と、祠へと視線を移す。
     斎藤はまだ参拝し続けている。
    『死んだんだ……』
     という、斎藤の口にしたあの日の言葉を、永倉は思い出した。
     それが何を意味するのか、それ以上を詮索するつもりは毛頭ない。秘密を抱えているのは、お互いにそうなのだ。
     ……ただ。
     いつか、本当にいつかの未来に、互いに「本当の自分」を取り戻す事ができたのなら……。その時に改めて、斎藤の事を聞いてみるのもいいかもしれない。
     そうすれば、あの日に自分の中に湧き上がった不思議な感情の理由が、わかるような気がした。
     雨は強さを増していく。
     大通りを祠へ向けて横断しようとして、永倉はふと角の店へと目を止めた。
     傘立てに入る蛇目傘。
     永倉はそれを一本無造作に引き抜き「おばちゃん、これ一本もらおうか」と、懐から巾着を取り出した。

     斎藤はゆっくりと顔を上げ、祠の中の地蔵を見つめる。合わせていた手を離し、屈めていた腰を上げようとして。頭上でパラパラと聞き慣れない音がするのに気づいた。
    (蛇目傘?)
     見上げた先で、散りばめられた無数の花の絵が斎藤の視界を埋める。
    「随分熱心やったな」
     背後で声がするのに、斎藤は腰を屈めた姿勢のまま振り返った。
     蛇目傘をこちらへ差し向けている永倉と目が合って。
    「……永倉?」
     斎藤はきょとんとした表情で永倉を見上げる。
    「もう、ええんか?」
     何やら意味を含めたような永倉の物言いに、斎藤はふとあの雨の日の事を思い出す。
     あのときの記憶はほとんどない。
     ただ、自分を抱き抱えていた永倉の体温と、何故か重ねられた手のひらの感触は、実ははっきりと覚えている。
     それを思い出すと、斎藤は不思議と胸の奥にぼうっとした灯りが灯るような気持ちになるのだ。
    「……あぁ、もう大丈夫だ」
     あの日の事は、互いに口を噤んだままである。
     だが、それでいいと斎藤は思っている。
     自分とこの男には多分それぞれに秘密があって、今はまだ、それを明らかにする時ではないのだろう。
     それでも、もし、いつか。
     どちらかが真実を口にする時が来たならその時は。嘘偽りのない自分でいられたらいいと、そう思うのだ。
     自分を抱き抱えてきたあの腕の温もりが、泣けるくらいに心地良かったから。
    「さよか」
     ほら、帰るで。という永倉の言葉に引き上げられるように、斎藤は腰を上げる。
     どうみても、大柄な男二人が入るには物理的に無理のある傘の下で肩を並べながら。二人は壬生へと足を進めた。
    「………これ、あんたの傘か?」
     あの先を折れれば屯所への入り口…といったあたりで、斎藤が傘を仰ぐ。
    「……まぁ、……そうや」
     前に買うておいたんや。どこか上擦ったような口調でそう言う永倉の隣で。
    「くくく………」
     斎藤が肩を小刻みに震わせながら、声を押し殺したように笑う。
    「なんや?」
    「いや、だってあんた………」
     余程可笑しかったのか、目尻にうっすらと涙を浮かべながら。
    「雨に濡れるとか気にするんだな」
     袖のない永倉の羽織りをちらりと見てから、斎藤が笑ったまま永倉を見上げた。

     あの日、雨に濡れる斎藤を、永倉は確かに綺麗だと思った。
     しかし、今こうして無防備な笑顔で見つめられ、あの時と同じように胸の内が熱くなるのに……。
     またこんな雨の日には、今日と同じように。この謎に包まれた男の隣で傘を拡げてやろうと、そう思ったのだ。
     もうこれ以上、濡れる事のないように。


    『隊長は……もしかして、雨、お好きなんで?』


    終わり

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    DONE永斎。(冴桐)
    維新極ベースですが、ご都合謎軸。
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    どうしても書いてみたいシチュエーションだったので、細かい事を抜きにして読んでいただけたら🙏
    蛇目傘の下、ふたり 空はどんよりと曇っている。
     今日は隊務の見廻りの日で。二番隊を任されている永倉は数名の隊士を連れ、洛外を一通り廻り終えたところであった。
    「今にも降り出しそうな空ですね」
     重暗い鼠色の空を仰ぎながら、一人の隊士が溜息をつく。
    「なんや、自分、雨は好かんか?」
    「そりゃぁ…。着物は濡れるし、足元も悪くなりますし……いい事でもないでしょう」
    「さよか」
    「?隊長は……もしかして、雨、お好きなんで?」
    「俺か?俺は……」
     何か含んだような物言いをして…。永倉はハッとしたように口を噤んだ。
    「隊長?」
     普段であれば、どんなことにも迷わず発言する男のらしくない仕草に、隊士が首を傾げる。
    「あ、いや。なんでもあらへん」
     さ、この辺りは特に異常もないようやし、一雨来る前に屯所へ戻るで。永倉は心に生まれた少しの動揺を誤魔化すように、ぱんぱんと手を打ちながら隊士達へと声を張り上げた。
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