プレゼント-青年Ver.-「……さん、…おとうさん、起きて…」
「…んあ…?…ごはん?」
「あ、やっぱり寝てた。昼寝するの気持ちいいですもんねえ」
昼寝する父を起こすのは家族であればなんてことのない出来事だが、ボクはこのありふれた日常を取り戻すまでに七年もかかってしまった。父のいない寂しさといったら、今や思い出したくもない程だ。
代わりに何かのタイミングで、今みたいに父が亡くなる前の記憶が呼び起こされることがある。今日迎えたクリスマスもそうだった。
「おとうさん、覚えてる?ボクがまだ小さかったときのこと」
「当たり前だろ?むしろそっちの方が見慣れてたぐらいだしなあ…」
「あはは…。じゃあ、クリスマスのことは?」
「もちろん覚えているさ。…いや、あれは忘れねえって」
「良かった……ボク、まだまだ子どもだったし伝わってなかったのかと思って…」
前回のクリスマスで、ボクは大胆に父に迫った。その後セルゲームで父が死に、生き返らないことを選んでこの世から去ったとき。ボクの好意を遠ざけたかったのか…実はそれも可能性に数えていた。
そんなこと、親として当然だろう。実の子から本来向けられることのない好意を向けられて、はいそうですかと頷けるはずがない。だから、昔に拒まなかったのは幼いボクのわがままに付き合ってくれていただけなのだろうと思っていた。
そして父がこの世に…ボクら家族の元に戻ってきたその日の晩に、ボクが必死に好きだと伝えるのを父は黙って聞いてくれた。それだけで終わらず、ボクを本当の意味で受け入れてくれたのだ。
もう二度と離してやらない。自分勝手とはいえそう決意したものだ。あれからもう何ヶ月も経つのが信じられないほど、父のおかげで今日までずっと充実した日々を過ごせている。
「…好きです、おとうさん」
「ん……とうさんもだ」
「ボクのはきっと、おとうさんの考える愛情よりずっとずっと上ですよ」
ソファで横になったままの父に覆い被さるように抱き締めると、父も腕を回して応えた。ムードは…あまり良いとは言えないが、何だかそういう気分になってきた。
「かあさんたちは?」
「二人で買い出しに…。夕方には帰るって」
「で、おめえは…」
「勉強するからって……嘘吐きました」
「……それはよくねえなあ」
「うん…分かってる…。でも、それだけおとうさんが好きなんだ…」
父から伝わる体温が心地良い。冬の寒さを癒してくれるから、そんな理由ではない。父の温もりはいつだってボクに特別な感情を与えてくれた。
結果として親子には不要な情まで抱かせたことを思うと、いけない交わりだったのかもしれないが。それでもボクは常識を守るより父を…自分の気持ちに正直になることを優先した。
こんな息子を父も肯定してくれたのだ。父にはボクと同じ罪を背負わせたくないし、父の全てを守りたい。この願いだけは昔から変わらない唯一の気持ちだった。
「で、どうするんだ」
うっかり考え事をしている間に、父は困ったような、けれど笑みをたたえたままの顔で訊ねた。ボクの意思を確認するような、そんな眼差しを向けている。
「…それは、お誘いと受け取っても…?」
「どうだろうなあ」
「……ありがとう、おとうさん」
かつて、父はボクが産まれたことが一生のプレゼントだって言ってくれた。それはボクだって同じ。父の息子であることがボクへの一番の贈り物だと、父の不在の間もそう誇りに思って生きてきた。
クリスマスと言うには時間は早いし子から親へなんておかしなことだけど、今度はボクがとびきりのプレゼントをする番だ。…形はだいぶ歪だけれど、ボクらの間にはこれがあれば十分だろうから。
「ん…っ…悟飯」
「おとうさん、愛してます」
父の火照り始めた頬へ、ボクは優しくキスを落とした。