ひとりごと ……私はいつまで"ザイード"でいられるのだろう。
賊からの奇襲で剣を振りかざしながらふと考える。あの方の隣にずっといたい、護りたい、そう想うと同時に不安の波に足を掬われる。ゆっくりとだがそれは徐々に水位を増して、いつか自分自身が呑まれてしまうのではないか。
答えが出ない自問自答を繰り返しながらも剣を握る手は震えず、まっすぐに敵を切る。感情だけで動いてはあの方を護ることは出来ないと過去に何度も思い知らされた。
……カシム様、
出会った頃から変わらない姿は神様のよう。出会う前から変われない姿は悪魔のよう。その二面性には優しい安心の尾に数え切れないほどの寂しさや諦めがあることを私は知っている。知ってしまったのだ。だから少しでもいい、その重荷を軽くすることが出来るのならばこの命捨ててしまってもいい。
一振するたびに次々と賊たちが倒れ視界がクリアになっていく。気づけばもう誰一人残っていなかった。念の為、再度もう一度確認しようやく落ち着く。荒れた呼吸を整えようと目を閉じ深呼吸をする。そしてゆっくりとまぶたを開くと目の前に含み笑顔の神様がいた。
「カシム様、」
「見事だなザイード。よくやった」
死体の山に悠々と腰掛けてこちらを見ている我が主。
ああ、私は愚かだ。
ざざ…ざざ……と波の音が聴こえる。私の足を絡め取り呑みこもうとする波。
……答えなんてとっくに出ていた。
押し寄せる真っ黒な波へ勢いよく一歩前に踏み出す。バランスを崩しそうになりながらも星もない真っ暗な海を進んでいく。その先にはカシムがいた。優しげでどこか寂しそうな顔をした愛しい彼が。
……私はザイードだ。そしてこの命尽きるまで貴方を護ります。
もう決して迷うことはない。あの日、貴方と出会った瞬間から私もう救われていたのだから。