ピクニック「みんなでピクニックだ〜〜!」
今日は久しぶりに4人揃っての昼食とあってかアルはいつにも増して笑顔が花開いていた。ミーティアで生活をし初めの頃はよくギザムルークの全員で過ごすことが多かったが、今ではそれぞれが新しい環境に慣れ交友関係も広がり、揃って食事をするなどは少なくなった。ギザムルークにいた頃はほとんどの時間を皆で過ごしてきたので、こうやってあたたかな日差しが溢れる中庭で昼食をするだけで自ずと安心感を思い出す。
色鮮やかな花が綺麗に咲いている花壇のそばにザイードは大きめのレジャーシートを広げ手早く整える。
「では食事にしようか」
「おなかぺこぺこだよ〜!はやく食べよ〜!」
「アル、行儀が悪いですよ」
「すぐに寝転ぶな」
悠々と座るカシムに対してザイードとゼタはきっちりとしながらバスケットにあるサンドイッチや紅茶を取り出していた。その一方ですぐにごろんと横になりごはんはまだかと足をパタパタとしているのがアルだった。
「でもよかったですね。4人で昼食をと考えてたらアムルがこんなにも作ってくれて」
ゼタが言うようにこのピクニックセットはすべてアムルが用意したのだ。食堂に向かう途中、アムルに会いアルが「みんなでごはん食べるんだ!」と嬉々として話すと「今日は天気もいいしピクニック日和だよ」と提案してバスケットを手渡してくれた。
「そうだな。ギザムルークは日差しが強くて、こんな風には出来ないからな」
そう言いながらカシムの膝にハンカチを掛けるザイード。それを見ながらもう待ちきれないアルはいただきまーす!と一番にサンドイッチに手を伸ばした。
「んー!このタマゴいっぱいのおいしー!ゼタ、食べて食べて!」
「ちょっと食べかけを持ってこないでください。こっちの新しいの食べますから」
双子がやいやい言っているのをカシムは目を細めて眺めている。優しい風が花の香りを包み込んで流れてきた。
「カシム様もどうぞ」
「ああ、頂こう」
アムルが作ったサンドイッチはパンもふわふわで柔らかく具材もたっぷりでどれも美味しかった。美味しいごはんは魔法のように話を弾ませ自然と笑顔になる。
「今度はさエアブーツで空の上でピクニックしようよ!」
「ほう、面白そうだな」
大体いつもアルがこういう突拍子もない提案をしたとき否定せずに面白がるのはカシムだった。アルはそれが嬉しくてあれこれ話をする。そしてザイードとゼタはやれやれとした顔で耳を傾けるのだ。
ひと通り食事を済ませたあとのんびりとした時間の中で寝転び空を眺めながら呟く。
「あーしあわせー。生まれ変わってもこうやってたいなぁ」
一瞬、時が止まったようにそれを聞いていた3人が固まった。
「…………生まれ変わり、ですか」
ゼタは読んでいた本を傍らに置きアルのほうを不思議そうに見つめる。
「うん。生まれ変わってもゼタと兄弟でいたいし、カシムとザイードとも一緒がいい」
「生まれ変わって人間じゃなかったらどうするんだ」
ザイードが呆れたように質問するとアルは飛び起きて何ら問題なさそうに笑って答える。
「もしオレとゼタが猫ならカシムに飼ってもらう!おやついーっぱいちょうだいね!」
アルが3人の手を両手でぎゅっと握る。
「ああ、いいぞ。可愛がってやろう」
「僕も猫でも鳥でも何だってアルとずっと兄弟がいいです」
「ほんとー!?」
「私も生まれ変わってもカシム様をお守りいたします」
それからはザイードが猫だったら鳥だったらはたまた野に咲く花だったらどうやってカシムを守るのかを話した。どんな状況でも真剣に考えるザイードにアルとゼタは笑い、カシムは面白半分にからかいながら聞いていた。
繋いだ手には陽だまりよりもあたたかいものが流れている。それがどんな姿形になろうとも変わらずあればいいと思うのは少し傲慢かもしれない。