圭藤お前がさ、憧れてるって言ったんだよ。
「いいじゃん?寝てる間にさ、キスマークとかさ、」
「いや別に起きててもいいだろ、それ」
「うーん悪くはないんだけどさあー、こっそりがいいんじゃんこっそりがさあー、」
ふーんって頬杖をついた次の瞬間には半分以上忘れていたけれど、練習して、セックスして、そんでまあまたセックスして、ぐうすか寝っこけている要圭を目の当たりにしたら、ふわっと思い出してしまった。こっそりがなんか、俺のこと大好きな感じがしてたまらないのだという。別に隠れてやらんでも、“大好きな感じ“は伝わるだろうに。
昼間の騒がしさとは打って変わってぴすぴす寝息を立てる要の口もとへ手をかざす。起きる気配も、寝たふりしている疑惑もない。
半開きになっている唇を指でつまみたくなる衝動をこらえながら、はむ、と首すじにかぶりついた。以前やり方がよくわからなくてただの噛み跡になってしまったときも、『う〜んえへ、えへへ』とあいつはまんざらでもなさそうな顔してたっけ。
ぷは、と息を潜めて体を起こす。
隣の彼はむにゃむにゃまぬけな寝顔をさらしているけれど、こちらの頭の中は喜ぶ君の妄想ばかり。
あれ?、と、歯ブラシを口に突っ込んだまま、要がしきりに首をかしげる。「どうしたんだよ、洗顔と歯磨き粉間違えたか?」、空っぽになった洗濯カゴを傍へやりながら、彼のつむじにからかいを投げる。ああ、頭ぐっちゃぐちゃだな、あとでドライヤー渡してやらねえと。
うーうん、と跳ねた寝癖が首を振る。
「葵っち、虫刺されの薬持ってない?なんか寝てるあいだにやられたかも」
んむうーと鏡を睨みつけるその背中に、ぷっと、吹き出さないようにするだけで精一杯だった。あぶないあぶない、俺の顔、要の肩越しに映ってるって。
「……いやあ、うん、あるけど、大丈夫かよ、」
「ありがとー、痛くも痒くもないんだけどさー、めっちゃ腫れてんだよねー」
なんだろう、としきりに首すじを撫でる要を、ふ、ふふ、と愛おしさをこっそり吐き出しながら眺める。
お前がさ、憧れてるって言ったんだよ。
“大好きな感じ“のネタばらしは、いつになることだろう。