圭藤♀12月の藤堂葵は忙しい。
サンタの手先から始まって、パーティのごちそう作り、年末の大掃除に、冬休みのお弁当準備、あとはまあ学校の補習をテキトーにやりすごしていたら、あっという間にお正月だ。
「いっしょにあけましておめでとうしようね」、というのは妹との毎年のお約束だ。12月31日は日付が変わるまで起きている、ただそれだけのイベントごとなのだが、いまだに成功したことはない。こたつが気持ち良すぎるせいだ。
今年も、挑戦の準備が整った。年越しそばは夕飯に食べたし、明日からのお雑煮はたんまりこしらえた。ちょっとくらい寝坊したって平気だぜ、達成感にうんうんうなずく。
「あの子、寝ちゃったよ」という姉からのチャレンジ失敗報告と、控えめなスマホの通知音が重なったのは、そんな時だった。
12月の藤堂葵は忙しい。
クリスマスへの根回しから始まって、難易度高めのプレゼント選び。入念な保湿対策に、趣味のお弁当準備、あとはまあお正月休みまでの時間の短さを嘆いていれば、あっという間に「よいお年を〜!」だ。
すぐに、君に会えなくなる。
俺たちは、まだ高校生だから。
『葵っち、やっぱ明日予定あるよね?』
何にも気にしなそうな君からの、おずおずと顔色をうかがうようなメッセージだった。
『いっしょにランニングとかでもいいから、会いたいなあって』
『俺さ、葵っちのほうまで電車で行くから』
『夕方でもいいし、あ、朝でもいいよ!』
『あんまよくなかったら電話でもいいけど』
急な弱気に、プッと思わず吹き出してしまった。
いや、グイグイ来いよそこは。心の中だけでツッコミながら、しかしほっぺたは痛いほどにやけてしまう。
『そんじゃ、朝一にしようぜ。俺のいつものコース、連れてってやるよ』
そんで、そのまま初詣行こう、なんて。
そこは当日のお楽しみにして、ポンポンとスタンプを応酬する。
「姉貴、俺ももう寝るわ」
時刻はまだ、小学生だって起きている頃。明日の朝飯は雑煮あっためて、といそいそ布団に潜り込む。
1月の藤堂葵は忙しいのだ。一分一秒も無駄にしないために、今日はとっとと眠らなきゃ。