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    鹿羽🦌

    パロ多め

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    鹿羽🦌

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    れさし小説1
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    色々な亜種ンデのイチャイチャ、流血、死ネタを含みます。閲覧は常に注意。
    スペシャルサンクスはレンデさんとサンデさん

    れさし小説その1穏やかな日差しが遮られた午後。健康的とは言えない、少しだけ重く沈む気圧が世界を包んでいる。弱々しい日差しの残り香に辺り一帯が照らされていた。
    覆う曇り空の下をかつかつと軽い靴底が叩く。名前もないような公園の中、その片隅。唯一薄っぺらい紫外線が差し込むベンチの上に座る人影に、そっと臙脂色を纏った男が近づいた。
    「やぁ、シンデ。」
    名前を呼ばれた彼はベンチ越しからその肩を震わせると、思い切り振りかぶって男の方を見た。やけに驚いている表情の下には昼食なのだろう、紙に包まれバゲットで作られたサンドイッチが握られていた。
    「あ、え、と…こ、こんにちは!レンデ…」
    食べかけのそれを押し込むよう口に入れると、ちらちらと目を合わせたり逸らしながらレンデの方を見た。こんなところで立ち話もなんだろう。ベンチの後ろから回り込むと、シンデは何も言わずとも自分の荷物を避けた。まるで隣に座ってくれとでも言いたげな所作だ。その割には相変わらず視線が泳ぎまくっているが。
    「あの…きょ、今日も良い天気、だな。」
    「ふは、今日も雲ひとつないな。」
    これも彼なりの冗談か何かだろうか。緊張したように背筋を凍らせるその背凭れへ手を伸ばす。
    「今日は散歩か?」
    「あぁ。いい天気だからな。」
    「あっ、そ、その…すまない、気にしないでくれ。曇りの方が好きなんだ…」
    「へぇ、そうだったのか。」
    てっきり新手の冗談かと。彼に限ってそんな攻めた真似はしないか。
    未だぽかぽかするベンチの上で二人とも隣り合わせに座っている。ちなみにシンデの昼食は取り止めになってしまったようだ。まだ半分は残っていたのに、その包みを途中でくしゃくしゃにしてしまっている。話したいが為に終わらせてしまったのだろうか。なんだか申し訳ないタイミングで来てしまった。
    「あ、見てくれレンデ!」
    突然シンデの方がすっと立ち上がった。差された指先は少し遠くの方を眺めるように見つめている。 
    「ん?」
    「花屋の移動販売だ…も、もし時間があればなんだが、少しだけ覗いていかないか?」
    公園のその先にある、建物が並ぶ街道。その隙間を縫うような形で小さなワゴン車が止まっている。看板と店頭の景色を見る限り、彼の言うことは間違いないようだ。
    「あぁ。行こうか。」
    「ぁありがとう!」
    公園を足早に抜け、シンデが目指す先を追いかける。目の届く範囲内にあるからか、急に曲がり始めることはなかった。ちょうど真っ直ぐ行ったところにあって助かったな。まぁ、こんな路地裏の入り口のような場所に店があるのもおかしな話だとは思うが。シンデはきっと聞く耳を持たないな。
    ワゴン車の一番目立つところに長い花瓶が立てられ、その先には見覚えの深い花々が一面を彩っている。どれも有名どころだ。どの図鑑にも書いてあるような見慣れた光景にも、シンデはどこか目を儚く輝かせていた。
    「これ、向日葵か。」
    「綺麗…」
    「花は好きか?」
    「あぁ。ないよりはあった方がいいしな。」
    茎の部分を手に持ちながら、横の輪郭が白く反射する。どこかなだらかに曲がる目尻がいつもより幾分か穏やかな表情に見える。
    「部屋の中に緑があると落ち着く気がするんだ。」
    「…君の部屋に緑なんてあったか?」
    「はは、ここへ来る時に廃棄してしまったんだ。今はないけれど、いつかちゃんと買いたいと思っていて…でも、すっかり忘れていた。思い出せて良かったよ。」
    …ふむ。確かにこうして見れば、彼に花は似合う。
    「もうすぐ夏になるんだな。」
    「そうだな。」
    「こんなに綺麗に咲いているなんて…もうとっくに夏になっていたのかもしれないな。知らなかった。」
    …まぁ、彼はあまり興味を持たなそうだな。こんな所でそれを知るのもどうかと思ってしまうが。薄らぼんやりと視界を泳がせているが、彼の視線は手元の花に集中している。まるで花弁の一枚一枚を見つめるよう、大分長くそれを眺めているのだ。
    「向日葵が好きなのか?」
    「…うん。好きだ。」
    柔らかく、穏やかに笑う。そんな彼を見るのはいつぶりだろうか。
    「綺麗に咲いているところも好きだが、枯れているのも綺麗だと思う。綺麗に下だけ向いているんだ。項垂れているような…一目見ればもう力尽きてしまったんだなって分かる。綺麗に咲いている姿と比べてみても、潔いと思う。生きていることを教えてくれているみたいだ。」
    「へぇ…」
    「…あ、ああと、花言葉も!花言葉も綺麗なんだ!」
    まるで取ってつけたように振り返るその瞳に、浅い象牙が映り込む。
    「えっと確か、貴方を幸せにする…て…」
    何だか意味ありげな口振りにシンデは自らぶわりと熱を上げた。向かい合う彼は至って冷静なのだが、きっと見えていない。目線はすぐに前へ戻ってしまい、もうこっちを見ることも出来ないようだ。
    「そ、いう、意味なんだ…」
    …今日は一段と表情が忙しいな。頬は見られる前になんとか背けたようだが、耳まで真っ赤になってしまっている。大事なところが隠せていない。
    なんて平和な昼下がりなのだ。こんなに平穏で静かな、何の変哲もない時間。彼と共に過ごす時間も久々かもしれない。しきりに花を見つめるシンデを隣で見つめる視線も、いつの間にかあたたかくなっている。互いにこの空気を楽しんでいるのだろう。ふとその奥に佇む店主の手元を見る前は。
    シンデの前に立つ男は彼が喜ぶようにと束になった向日葵を抱えている。水色の包装紙に生える黄色の花弁が邪魔をしているが、その奥の奥の方、店主の手中にある銀色の煌めきが、確かにぎらりとしたのが見えた。
    「っ、シンデ!!」
    「ぅえ!?」
    突然突き飛ばされ地面へ転がるシンデを横目に、レンデの鳩尾を金属の刃先が突き抜ける。持っていた花束を投げ飛ばし鋏を持ち直す男は、その強烈なまでに滲む殺意をレンデに向けていた。標的は最初からこちらだったのだ。
    言葉もなく溢れ出す鮮血にごぽりと喉奥から生臭さが滲み出す。痛みに反射的に口が動き、反動で唇の端が切れた。首筋の辺りに青い汗が光る。数秒前に隣にいた彼の顔は一転し、一気に体温を捨て去ったような顔色になってしまった。自分の体から血が飛び出ているのだ。蒼白するのも無理はないだろう。
    「れ、」
    「っ…すまない、シンデ。」
    「んで、」
    しかし彼の言動はやけに冷静で、この場で気が狂いそうになっているのはもはやシンデだけのような気がしてきた。心臓が痛いくらい跳ね回っている。頭の中が煩い。目の前のことに理解が追いつかない。ただ一つ分かるのは、自分が冷静さを欠いているということ。それだけだ。
    「ほんの少しだけ、っ、眠っていてくれ。」
    呆然とする彼の首筋の後ろに、回り込んだレンデの手刀が飛んだ。
    ーーーーーーーーーーーーー
    「…あ、ぇ…」
    空気にも似つかない声でびくりと瞼が痙攣した。無意識に溢れた母音に目が覚めたようだ。無論、覚めたのは目だけだ。いつどうなってこうなったのか分からないが、何故か全身が冷たい。というか服が重い。何かがのしかかっているようにも思える。
    未だふわふわとした手足の感覚にシンデは夢を見ているのかと悟った。泥を啜ったような後味の両の歯を噛み締めながらなんとかその重い上半身を叩き起こそうと足に力を入れる。ぐぐ、と固まる脹脛にびちゃりと、やけに生々しい音がした。訳の分からない現実に瞼がおっかなびっくりしている。まるで転びそうな調子でぱちぱちと瞬きを繰り返した。
    「っ、シンデ…!」
    「…はっ、は、ぁ、っ…」
    次の瞬間に聞こえたのは、酷く聞き馴染みのある音だ。不安そうだが生きてはいる。互いにそんな認識のまま形振り構わずシンデの元へ駆け寄ろうとする人影を横目に、彼はその周囲へと目を向ける。
    転がっている肌色のマネキンに赤い水溜まり。漂ってくるのはびしょ濡れになったコンクリートの匂い。あと花の香りもする。意識も機能も馬鹿になっているみたいだ。
    「れ、んで…?」
    「っ、」
    「…これ、は…」
    ぬめりとした感触が手のひらを包んでいる。彼の着ている服の朱は、こんなに濃くなかったはずだ。
    顔面から跳ねた血を垂れ流す彼は言葉を詰まらせながらも、目の前でひっくり返ったように怯えた顔をするシンデに駆け寄った。酷い姿をしているがそれすらも気に留めていない。後から遅れてやってくる雨音の遅さに、シンデの意識が淡彩の靄に奪われていく。
    「君が、やったのか。」
    とっくに正気に戻れない意識が、思わずそう口走った。魚のような目がしゃがみ込む彼と目線を合わせている。
    「なぁっ…こ、こんなの、」
    弾ける雨水で徐々に洗われていく顔の奥から酷く歪んだ表情が垣間見えた。何も言わずとも肯定しているような素振りだ。いつもは必ず目を合わせてくれるのに。動揺し自分から、世界から逸らそうとする視線が酷く血腥く感じてしまって。シンデは思わずその疲労しきった肩にしがみついた。
    「うそっ、うそっだ、よな?うそだ、そうだうそだ!」
    レンデが、俺の知るレンデがこんなことをするはずがないもの。
    どこでスイッチが切り替わってしまったのだろう。蓋をなくしたダムのように堰を切って、稚拙にも聞こえる戯言が溢れ出す。
    「…こ、答えてくれ。」
    かぱりと開いた口を閉じられない。それはお互い様だ。
    「答えてくれよ、」
    ざらざらと耳の中まで雨が入り込む。気が動転した体にはその冷たさも通用しない。口に入るのは生臭さとその地獄のような気配だけだ。
    「レンデ!!」
    肩を揺らされてもその体に手を添えられても、彼は頑なに口を開かなかった。否、開かないのではない。開けなかったのかもしれない。目の前のことを何も知らない、知るはずのないシンデに事の説明をするのは、多少であっても気後れするものだったのかもしれない。
    「…っは、は…ははっ…」
    さっきまでの饒舌を思い出せなくなったように、シンデの口から乾ききった笑いが溢れる。熱はとっくに過ぎたようだが、彼の心はその全てを忘れられるほど器用に作られてはいない。不意に力強く掴んでいた腕がパッと離れ、覚束ない足取りがよろよろと後ずさった。
    「なんだこれ…」
    その一言を呟くと、彼は逃げ出した。どことも言えない狭い路地裏から飛び出して、後ろは一切振り返らない。二重に映る背景の向こうに足が向かっている。最後の断片にレンデの顔なんて見もしない末だ。ただ、あの死体になってしまった溝の化身がこびりつく前に静かな世界を取り戻したかった。あの塗炭の苦しみに焼けた喉をこの雨水で冷やしたかった。
    開けた通りに出ようとも、その場に夜のように暗い何かがあることには変わりない。どす黒く濁った雲ががさがさとした鉛筆で世界を描いている。この現実の輪郭を描いている途中なのだろう、霧のように細かい雨粒のせいで、何もかもが薄らぼんやりとしてしまっている。
    目はちゃんと開いているはずだ。しかし瞼が重い。手足はちゃんと動くはずだ。しかし頭は動かない。
    古いビデオの画質の悪さに向けるような苛つきが永遠と自分の内側を取り巻いている。テープが回っていてもおかしくない。カメラのボタンを押されていてもおかしくない。そんな現実の中を、宛てもなく歩いた。それしか出来ないのだ。足元を食われそうなまま闇の鯨に乗り、静かにその波が治まるのを待つことしか。
    「…どうしよう…」
    唸り始める空の顔色を伺いながら、彼は家から反対方向へと踵を返した。
    ーーーーーーーーー
    濁った水の中よりも汚い世界の片隅。がびがびに錆びた鉄臭い板の上にちんまりと座っている人影がある。風のようにざわめく荒波の中、その飛沫を一切振り払わず長い髪の端からぴちゃぴちゃと雫を滴らせている。景色に相成り、その表情が晴れることはない。
    行く先も宛てもなくなってしまった。家に帰ろうと思っていたのに、自分の中の何かがそれを拒絶した。このまま帰って一人でいる方が悪いだろう。これ以上悪いことはないはずなのに、わざわざ逃げようとする自分に腹が立った。
    迷い込んだ公園の中のベンチに腰を下ろしている。あまりにも静かで煩い、綺麗で汚れた世界。一点に集中して見ると、ぼんやりあの光景を思い出す。つい数分前のことなのか。信じられない。
    まるでシャワーを浴びた後のように、再利用された水溜まりを頭から被っている。追えずに消えていく雨水を見つめていると、不意にその滝の勢いがぴたりと止んだ。
    「大丈夫か。」
    目の前に迫る赤い色彩。ビニールの上でぼよんぼよんと踊り回る音の隙間から誰かの声が聞こえてくる。聞き馴染みはないが、聞き覚えはある。
    「…あなたは…」
    後ろから差し出されたそれに振り向くとそこには自分と同じ、いや、少しだけ明るい紫の髪をした人間が立っていた。双葉が湿って垂れているが、その眼差しも表情の冷静さも見たことがある。
    「君は…シンデか。」
    「さ、んでさん…?」
    「サンデでいい。こんなところで傘も差さずにどうしたんだ。」
    …どこから話そう。どこから、いや、話さなくてはならないのだろうか。これは勝手に人に話していいことなのか。答えなきゃ。聞かれた空間の間に挟まるよう、彼への躊躇がきゅうっと喉を締める。
    「何か、帰りたくない理由があるのか。」
    俯いたまま動けなくなってしまったシンデの表情を覗き込むよう、傘と共にその顔が降りてくる。動揺する瞳の中央に灯る弱々しい焔が、網膜の裏をじりじりと焦がしていく。
    「…来い。」
    「っえ、」
    ぐい、と強く腕を引かれた。引かれたのは腕だけではない。その細い腰でさえも逞しい腕に引かれ、一瞬目を瞑ったうちにふわりとその両腕の中へ包まれてしまった。所謂お姫様抱っこだろうか。辛うじて傘は無事であるものの、成人男性をこんなにも軽々と持ち上げ抱えるだなんて。腕が心配だ。しかし平然するサンデに思わずぎょっとしてしまう。
    「おわ、ぁっ!?」
    「このままだと風邪を引いてしまう。」
    「ちょ、ちょっと!あの、」
    「安心してくれ。取って食おうなんてしない。」
    「いやそうじゃなくて!そうじゃないんだ!お、降ろしてくれ!怖いっ!」
    両足が地面につかない恐怖がぞわぞわと背筋を撫でる。耐えられない息苦しさに喚くよう声をあげると、意外にも素直に降ろされた。靴底に濡れた砂利の塊が埋まる音がする。
    「すまない。大丈夫か。」
    「…ん。」
    またしても心配そうに見つめる目に、シンデの片手が伸びた。なんだか今にも泣きそうな顔をしている。気に障るようなことをしただろうか。その割にはあまり嫌そうな気配は見てとれないが。
    「…手なら…大丈夫、だ。」
    「そうか。じゃあこっちで。」
    サンデは躊躇なくその手を引くと、二人で傘の中に収まり歩幅を狭くして歩き始めた。

    続くぞ〜い
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