夏に至る扉 立海大附属中の校舎の中、照明を受け鈍く銀色の光を跳ね返すエレベーターの扉は、通り過ぎる者の注意を引く。独特のものものしさと静けさを放っていた。
例外的に、学校行事などで重たい荷物の運搬に使用されることを知ってはいたが、本来は階段を上るのが困難な者や教職員のための乗り物であり、テニス部の自分には縁がないだと感じていた。
しかし俺は、一度だけそのボタンを押し、箱の内へ足を踏み入れたことがある。
中学三年の夏だった。もうじき突入する長期休暇への期待と、関門のように立ちはだかる期末テストへの焦り、そしてうんざりするほどの暑さき校内の誰もがだらしなくそわそわしていた。
かく言う俺もこれから始まる全国大会で頭をいっぱいにし、あろうことか体育で負傷した。得意科目だという自負の分、衝撃は強い。
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