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    p0tep0teTKt0X8t

    @p0tep0teTKt0X8t

    創作話置き場

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    p0tep0teTKt0X8t

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    ファム・ファタールのダンスホール街灯り一つ届かない夜さりの倉庫街。海に程近いこの場所は夜の帳が降りると、現世で最も黒く濃い闇の世界になり果てる。何が起ころうが、静寂な闇は強固な檻のように、ここでの全てを包み込む。数多の人々が暮らす安寧のまほろばには決して届かない、黒の世界にだけ反響する悲鳴と破砕音。

    「うわあッ!な、なんだっ!?何が起きたッ!?」
    「うがッ…!!」
    「ぐは…ッ、かっ…!」
    「うわあああっ!」

    男たちの絶叫する声が倉庫街の一角で重なり合う。互いの顔さえ認識できないほどの暗闇の中で、男たちは叫ぶ。スーツに身を包んだ十人ほどの集団、そのうちの一人が突然の衝撃に叫び、痛みに悶絶する声を上げたのを契機に、仲間たちは懐から取り出した銃を構え、そして。今。
    一人一人が、次々と、得体の知れない「何か」に襲われている。
    天井まで届く棚に所狭しと並んだ木箱がこの混乱で倒れ、落ちる。遥か高い天窓を塞いでいた荷物も落ちて、窓からは満月の光が淡く差し込んだ。
    男たちは僅かな月影を頼りに「何か」の姿を探る。と同時に、ひどく恐怖した。己の場所がより鮮明に相手に見えてしまう。既に数人は絶命し、薄汚れた床を血でさらに汚している。
    数人?いや、違う。
    ぶわり、と全身の汗腺から冷や汗を溢れさせながら、リーダー格の男は、まさか、と戦慄する。最早体は強張って、一歩も動けない。なぜなら。月光が天窓から入り込んだ際に聞こえた悲鳴が最も新しい、新鮮なもの。それを最後に絶叫は、断末魔は、止んだ。どころか、今は物音一つ、衣擦れの音一つ、まして吐息一つも聞こえない。
    あぁ、そんな。そんなことがあるのか。
    自分以外、誰一人の気配も感じない。

    「…全員、死んだ、っていうの、か…?」
    「ええ、そうです」

    そして、あなたも。
    背後にぴたりと纏わりついた気配と、ぞっとするほど落ち着いた声に全身が恐怖した。指先が震える。呼吸さえうまくできない。思考が混乱に陥る。金縛りにあった体は持ち主の言うことを何一つ聞かず、ただ背中に当てられた銃口の感触に神経を研ぎ澄ましていた。後ろを振り向くことはできそうになかった。

    「『裏切り者にはそれ相応の制裁を』」
    「…直轄の、暗殺部隊……まさか、実在するなんて…そんな…知ってたら、俺は…っ」
    「残念ながら、もう遅いです」

    年端のいかない少年のような声だった。にしてはひどく落ち着きのある、抑揚一つない口調はアンバランスでいっそ不気味にも感じられた。紛れもなくこれは、命をひっそり刈り取ることに慣れた、殺戮者の声。
    終わりだ、もう、終わったんだ。俺は、ここで。男がそう直感した直後、一発の銃声が夜闇の静寂に小気味よく響いた。







    「…レインくん、終わりましたよ」

    銃撃に倒れた男になど目もくれず、マッシュは後ろを振り向いた。倉庫の奥、闇に溶けた人影が静かに現れる。足音を立てない歩き方が染みついているのだろう、倒れた男たち同様、黒スーツに身を包んだ男は死体と血だまりを気にもせず、静かにマッシュへと近寄った。ふたいろの髪色のうち、一色はあんなに明るい金糸なのに、闇に紛れても悪目立ちすることなく一体化している。

    「…マッシュ」
    「はい、何ですか?あ、上手にできたってお褒めの言葉ですか?」
    「ちげぇ。お前途中までまた銃使うの忘れてたろ」
    「あ、すみません、つい」

    男は、レインは、マッシュの胸倉を掴み上げて凄む。マッシュは冷や汗をかきながらあわあわと慌てた。

    「つい、じゃねぇだろ。毎回毎回素手でやりやがって」
    「だって、そっちのほうがやりやすくて」
    「何遍言わすんだ。誰に殺られたか悟られないように、痕跡や特徴が残るような殺し方はするな。拳銃をメインに使え」
    「うす」
    「銃の扱いは問題ないんだ。適切に距離を取ってやれ。近接は顔が知られるリスクがでかすぎる」
    「うす」
    「お前本当にわかってんのか?」
    「わかってますよ」

    はぁ、とため息を吐いて、レインは胸倉から手を離した。こちらの指導を理解はしているのだろうが、おそらく次も同じことをするに違いない。毎回毎回、任務の度に同じことをしでかすばかりに、教育係の任を終了することもできず、いつもマッシュの任務に帯同し、自分の任務にも同行させている。
    腕は立つ、それはもう十二分に。けれど、お頭が弱いというか規則や決まり事が苦手なのか、性に合わないのか、こちらの想定や作戦を無視し自由に振舞うことが多く、レインはしょっちゅう頭を悩ませていた。
    こちらは顔どころか部隊そのものを知られるわけにはいかないというのに、どうしてこう毎回肉弾戦で挑もうとするのか。体術に自信がある組員は多いが、それでも誰の犯行か特定されないよう、扱う人間を選ばず、裏社会で一般的に流通している小銃での遂行がここのルールなのだ。それを、刃物でも毒でもなく拳とは。こと暗殺においては異質な手法である。今日は六人目から銃を使い始めたが、それでも遅い。

    「この人達、何しでかしたんですか?」
    「それくらい覚えとけ。横領した武器の密売だ。今夜の商談含め三回。商談相手はマーカスファミリー、向こうも正規の取引ではなくうちと同じようだが」
    「裏切り者同士の取引ってことですか?」
    「そうだ」
    「どうせバレて僕らに殺られちゃうんだから、裏切りなんてしなきゃいいのに」

    可哀想に、とマッシュは倒れた男たちの顔を見やった。

    「どこのファミリーでもよくあることだ。うちほどの大所帯なら尚更な。だからこそ、俺たちの部隊が必要とされる」
    「おーかっこいい。さすがセンパイは言うことが違いますなぁ」
    「馬鹿にしてんのか?」
    「してません」

    手をぱちぱちと叩き、飄々と答えるマッシュにレインは再度ため息を吐いた。
    本当に生意気で、手のかかる後輩だ。けれど、腕は立つし、なんだかんだ任務に失敗はない。だからこそ、厄介なのだが。

    とあるマフィアのとある部署。所属するマフィアの中でも首領と幹部の中でもごく一部の上層部しか知りえない、首領直轄の秘密裏の組織。通常の構成員がこなす任務とは一線を画すそこは、敵対する組織を屠る為でも、政治経済を裏から牛耳る為でもなく。組織そのものを守る為に、存在している。
    『裏切り者にはそれ相応の制裁を』
    組織内の裏切り者の排除。ただそれを目的につくられた、特殊暗殺部隊。戦闘や殺しに特化した超精鋭たちが集うそこに二人は所属しており、半年ほど前に入ってきたマッシュの教育係を務めているのがレインだった。

    「…とりあえず任務は終わった。早いとこずらかるぞ」

    天窓からは月の霜が降りている。仄々とした月影は暗殺者に不向きだ。人気がない、街灯りさえ届かない黒そのものの場所であろうと、いつ誰が見ているかわからない。不要な痕跡は何も残らないほうがいい。レインの革靴が踵を変えて、ぴちょん、と血だまりを踏んだ。そのわずかな物音に反射した、別の物音一つ。生まれながらのセンスと、訓練と経験で培った五感。そのうちの一つである聴覚が聞き取った。虫の羽音でさえ聞き逃さない超感覚。鼓膜を叩いた微かな物音に、二人は揃って窓の外へ視線を向けた。先に動いたのはマッシュだった。

    「誰ですか」
    「おい待て…!」

    レインの静止は間に合わず、足元に転がる男が手にしていた拳銃をマッシュは勢いよく窓に向かって投げた。エースピッチャーが投げる野球ボールよりも速く、威力に満ちた剛速球は、バリィンッ!とド派手な音を立てて窓を突き破り、外から様子を窺っていた男の脳天へ直撃した。おそらく一命は取り留めているだろうが、頭部から鮮血を噴き出しながら男は倒れた。

    「馬鹿野郎、いきなり殺しにいく奴があるか。あれじゃ情報一つ聞き出せねぇじゃねぇか」
    「あ、確かに。すみません」

    こりゃうっかり、と頭に手を当てて謝るマッシュにレインのこめかみが一瞬うごめいた。説教したい気持ちを抑えて、レインはマッシュを引き連れ倉庫の外に出て、倒れた男の姿を確認した。サングラスに黒スーツ、おそらくこちら側の人間。それに、ジャケットの襟元に付いた時計を模したゴールドのバッジ。これは。

    「…マーカスの奴か」

    レインは呟いた。おそらく今日ここで行われるはずだった取引の相手、マーカスファミリーの構成員。彼もまた利益を得ようと画策した、組織の裏切り者。手にはスマートフォン。既に音声は終えているが、通話中のようだった。この倉庫内で行われた殺しを一部始終見て、どこかに伝えていたのか。連絡を取るとすれば。一人のこのこ商談に来るとは考えにくい。おそらく、仲間。共にこの取引に来るであろう仲間。マーカス側の裏切り者が何人ほどいるのかは調べがついていない。そこは重要な情報ではなかったからだ。こちらは自組織の裏切り者だけを抹殺すればいい。そこに絡む他組織は暗殺の対象外だ。
    こちらの正体を勘ぐられることがない限り。こちらの命が危ぶまれない限りは。

    「…早くここから撤退するぞ。見つかったら厄介だ」
    「あー、もう遅いみたいですよ」

    倒れた男から視線を上げて声を掛けると、マッシュは遠くを見つめていて。その視線を追ってすぐ聞こえてきたのは数人、いやもっと、少なくとも十人以上の駆ける音。こちらに向かっている。
    遅かったか。レインはちっ、と舌打ちをして、懐から出した銃で倒れた男の心臓目掛けて躊躇いもなく一発。発砲音が夜闇に響き、銃口から上がる細く白い狼煙と地面に広がる血は同じ速度で流れる。微かな硝煙の匂い。

    「いいんですか?今の銃声で僕らの位置丸わかりでは?」
    「いい。どうせもうバレてる。口封じだけでもしておく」
    「なるほど。じゃあ敵さんはこのままここで仕留めるってことですね」
    「ちげぇ。逃げる」
    「え、なんで」
    「馬鹿か。裏切り者っつっても停戦協定中の組織だ。無用な戦闘は避けたほうがいい」

    マーカスファミリーとはここ数年停戦協定を結んでいる。いくら組織の裏切り者同士といえど、こちら側がおいそれと簡単に殺していいわけではない。

    「え、でもたった今レインくん殺しましたよね」
    「俺らの顔おそらく見られてるからな。仕方ない」
    「えー、じゃあ他の連中も逃げるより倒しちゃったほうが手っ取り早くないですか。僕らの容姿、電話で伝わっちゃってるかもしれないですし」
    「それは隠れて奴らの様子を窺ってからの判断だ」
    「まどろっこしいなぁ。僕、さくっと殺ってきますよ」
    「は、おいマッシュ、待て…!」

    なんだってあいつは人畜無害な顔して好戦的なんだよ。
    静止の声も、伸ばした手も払いのけて、マッシュは足音のする方向へ走り出した。ちっ、と飛び出る舌打ち。マッシュの本気の脚力には追い付けない。暗闇の向こうからは、いたぞ!あそこだ!と男たちの声が聞こえてくる。
    向こうの人数も所持している武器も何もわからないのに、いきなり戦闘に持ち込むのは早計すぎる。
    レインは銃をホルスターに閉まって、腰に忍ばせていた鞭を取り出した。

    「あの問題児…」

    鞭の持ち手を力強く握り、幾重にも巻かれた輪をマッシュに向かって投げ飛ばした。輪は解け、鞭の先端は数十メートル先を走るマッシュの体に勢いよく巻き付いていった。

    「へ?およ?」
    「上官の言うことは聞け」

    あっという間に首の下から足首までぐるぐる巻きにされたマッシュの体。組織の科学力を持って作られた特殊素材のこの鞭はマッシュの怪力を持っても破れないと特別製だ。動きを封じたマッシュの体を自分の手元まで引っ張ると、レインは右腕を腹部に回してマッシュを肩に担ぎ上げた。

    「おわ。何するんですか。下ろしてください」
    「うるせぇ。大人しくしてろ」

    担いだマッシュの腰に腕をしっかりと固定して、レインは敵がやってくる方向とは逆方向に走り出した。右肩に米俵が如くマッシュを担いで。それなりの重量ではあるが、走れない程ではない。まずは身を隠せるところまで走らなくては。

    「レインくん、下ろしてくださいよー」
    「だめだ」
    「ちぇー」

    不満を表すようにマッシュの体が肩の上で跳ねて、両足がレインの前腿を蹴った。

    「おいやめろ、いてぇ」
    「じゃあ下ろしてくださいよ」
    「黙ってろ。舌噛むぞ」
    「あ、レインくん」
    「なんだ」
    「敵さん、僕らに気付いて追って来てます」

    追え!あそこだ!と後方からの照明が微かに自分たちを捉えた。向こうがはっきりとこちらの姿を視認する前に、倉庫の物陰に入り込む。だが、最早遅かったかもしれない。何者だ!捕まえて情報を吐かせろ!追え!と矢継ぎ早に聞こえてくた指示に。足を休めることなくレインは走り、倉庫街の中を駆けた。おそらく出入り口は塞がれているはずだ。

    「レインくん」
    「なんだ」
    「僕背負ったままだと走りにくくないですか?」
    「お前に独断専行されるよりはマシだ」
    「あ、レインくん」
    「今度はなんだ」
    「敵さん、銃構えてます」
    「ちっ、何人だ」
    「うーん、五?いや八?あ、十五?」
    「てめぇは数もまともに数えられねぇのか」

    青筋浮かべながら言ってすぐ、銃弾は足元に飛んできた。銃撃が次から次へと背後から飛んでくる。数十メートルの距離、こちらも向こうも動きながらでは照準は合いにくい。銃弾が当たる確率は低いが、生憎と今はマッシュを背負っている。身動きが取れない状態でがら空きの背中にはマッシュの頭がある。跳弾の可能性も鑑みて、早いところ身を隠したい。

    「あ、レインくん、また来ますよ」
    「指示ぐらいまともに出せねぇのか」
    「えーっと、じゃあ右の人は弾を装填してるので左からの攻撃避けるの頑張ってください」
    「わかっ、ッ、おいっ、右から銃弾来てるじゃねぇか」
    「あ、僕から見て左ってことです」
    「先に言えッ」

    尚も止まない背後からの銃撃。全くと言っていい程役に立たないマッシュの指示に、レインはもういい、と時折背後に視線を送りながら、弾丸が当たらないよう、一直線ではなくあちこちに蛇行して走った。右に左に、飛んだり跳ねたり、照準が一秒でも定まらないよう器用に動いた。マッシュを担いでいるにも関わらず、息一つ乱さずに走り、倉庫と倉庫の間の細い路地へ入り込むと、近くにあった錆びたドラム缶の一つを後方へ蹴り飛ばした。銃弾がドラム缶に当たる音、驚愕する男たちの声を聞きながら、レインはもう一つのドラム缶へ足を掛けて跳躍した。おわ、とマッシュの戸惑う声が背中から聞こえる。飛んだ先、二階の窓のサッシに足を掛けて掴まり、左肘で窓の硝子を割って中に入り込んだ。飛び散ったガラスの破片を踏みつけながら周囲を見回す。明かり一つない暗闇だが仕事柄夜目は利く。すぐに屋上へ続く階段を見つけた。敵が追ってくる足音が倉庫内に響くよりも先に、屋上へとたどり着いた。ふう、と微かに上がった息を整えながら、端に寄り下の様子を眺める。

    「ここにいたら格好の的では?隠れるんじゃなかったんですか?」
    「人数と配置を把握しておきたい」
    「なるほど。で、僕はまだこのままですか?」
    「あぁ」
    「なんと」

    街灯はないが、足音や話し声などである程度の人数は把握できる。こんな目立つ場所ではすぐに気付かれるだろうが、把握には十秒もあれば十分だ。目が届く範囲全てに視線を送り終えた頃、マッシュが言った。来ますよ、それから二秒後、屋上の階段の扉が派手な音を立てて飛んだ。

    「いたぞっ!あそこだ!」
    「殺すな!生け捕りでいい!」

    七人の男が銃を構えながら走り寄ってくる。その声に、地上にいた彼らの仲間も気づき、下から銃口を向けた。見たところ手榴弾などの武器はないようだ。敵の人数と配置も粗方把握できた。ならば、よし。

    「マッシュ」
    「はい?」
    「お前、三半規管は強いか?」
    「まぁそれなりに。弱かったらこの体勢とっくに酔ってますよ」
    「そうか、そのまま酔うなよ」
    「へ?お?わ、わわっ」

    レインは飛んだ。屋上を囲む塀の手摺に足を引っかけて、屋上のない隣の倉庫の屋根へ。飛び移った。傾斜のある屋根上だったが、レインは危うげもなく着地して、マッシュは突然のことに目を見開きながら今起こったことを確認した。

    「え、今飛びました?すご」
    「しばらく飛ぶ。舌噛まないよう気を付けろ」

    背後から追手の驚きに満ちた、悔しがる声が、地上からの銃撃と合わさって聞こえる。レインはそのまま屋根上を走った。暗闇だろうが、遮るものが一つもない屋根の上は目立つ。あっという間に敵勢力の全てがレインらを捉えようと地上に集中した。無数の弾丸が屋根上を軽やかに駆けるレインに向けられる。硝煙弾雨の攻防を繰り広げながら、レインは倉庫から倉庫へ、屋根から屋根へ飛び移り、倉庫街の中でも奥まった建屋まで来ると、何の躊躇いもなく飛び降りた。隣接された小屋のトタン屋根を中継地点に難なく地面に着地すると、衝撃にマッシュは、ぐえ、と潰れた蛙のような声を上げた。構わず、レインはさらに敷地の奥へと走る。最早マッシュは何も言わず、大人しくレインに体を預けていた。
    そうして、一番端の倉庫前、突き当りまでやってくる。暗黒色の海に面したここはより一層日なたの俗世とはかけ離れた、静寂の闇。何をしようが決して漏れ出ることは、ない。

    「おい、マッシュ」
    「はい」
    「お前、頭突きと蹴りならどっちが得意だ?」
    「え、んー、どちらも得意ですけど、楽なのはやっぱり蹴りですかね。動きに色々融通利きますし」

    突き当りで足を止めたレインの問いに首を傾げながらマッシュは答えた。程なく追手の声が近づいてきてた。足音からして屋根上と地上にいた敵全員、おそらく数十人が一斉にこちらに向かってきている。レインは逃げることも隠れることもせず、追手と相対するように、くるりと振り返った。

    「わかった。なら、頼んだ」
    「はい?」
    「足に力入れとけ」

    そう言うや否や、レインは担いでいたマッシュの脇腹を両手で掴み、頭上に持ち上げた。顔を向けていない状態のマッシュには見えていないが、追手が目の前に迫ってきているのはわかる。姿を見られた今、敵をここに集中させて一網打尽にし、一掃しようとしているのもわかる。だが、なぜ今自分は持ち上げられてる?

    「独断専行しようとした罰だ。行ってこい」
    「へ?レインく、おわあっ」

    レインは掲げた両腕を振りかぶって勢いよくマッシュを投擲した。向かってきた敵に向かって。戸惑いの声を上げつつも、瞬時に着地先を見極めたマッシュの揃った両足は真正面にいた男の顔面に入った。砕ける音と潰れた悲鳴が踏んづけた靴底に吸収される。骨が折れる感触を足裏に感じたのも束の間、身体がぐい、と強く引っ張られ、無重力に体がふわりと浮く。力の方向に目を向ければレインが文字通り鞭の手綱を握っていた。あの細身の体のどこにそんな力があるのか、レインは鞭を振り上げて、ふざけた攻撃に相手が呆気に取られている間にマッシュの体をぶつけた。まるでマグロの一本釣りみたいだなぁ、なんて呑気に思いながらマッシュはただされるがまま、器用にも銃撃を避けながら、鞭の動きに合わせて向かってくる敵の体を踏みつけた。

    「…そろそろいいか」

    十人ほどやった頃、呟いたレインは鞭を振り上げてマッシュを手元に戻し、鞭の拘束を解いた。やっと自由になった体。伸びをしたり、肩を回したりするマッシュにレインは言った。

    「全員殺る。仕留め損ねるなよ」
    「ガッテン」

    返事と共に、マッシュは駆け出して意気揚々と拳を振り上げた。
    敵は銃を所持した数十人。こちらは二人。とはいえ戦力に何ら不足はない。自分と、マッシュ。十分すぎる。消耗した鞭を腰に仕舞い、レインはホルスターから銃を取り出し、構える。
    銃声が一発、向かってくる男の頭部に命中する。続けざまにもう一発、さらに一発。弾は全て命中する。心臓、もしくは頭に。鮮血が飛ぶ。苦悶の表情を浮かべ、短い悲鳴を上げて一人、また一人が沈む。精度の低い弾丸の雨などものともせず、怯むことなく、レインは弾が尽きるまでその場から一歩も動かず仕留めた。その間、マッシュも無数の弾丸を軽やかに躱しながら、跳ね踊る。自慢の拳で次々と相手の体を変形させていく。見るも無残な姿に。何かが折れる、何かが砕かれる、何かが飛び散る音がひたすら響く。

    「ひいッ…!な、何者なんだ…っ!お前らはッ!」
    「知る必要はない」

    弾切れした銃を仕舞い、ナイフを突き付けてきた男の手を逆手に取って、流れるような動作で男の胸にその鋭利な刃を突き立てる。鮮血がレインの頬を掠めた。
    たった二人の一方的な暴力。最早戦闘ではなかった。圧倒的な殺戮。敵勢力の悲鳴と絶叫。間近に迫った死の恐怖に圧倒されながらも、男たちは二人に向かった。
    尚も銃弾を降らせる連中に、さすがに丸腰では心許ないとレインは足元に転がる男が扱っていた武器を咄嗟に手に取る。

    「え、レインくん、そんなの使えるんですか?」
    「武器は一通り訓練を受けている」
    「すご」

    一通りの武器って、あれだいぶマイナーな気がするんだけど。マッシュは肘で相手の鼻先を潰しながら呑気に考えた。よそ見してんじぇねぇ!と別方向からやってきた相手のナイフを左足で蹴り飛ばしながら、レインを見た。金属製のトンファーを器用に扱い、向かってくる敵のみぞおちを先端で突いて、側面で顔面を容赦なく打った。弾丸を防ぎ、その跳弾で相手の足に当てる。痛みに悲鳴を上げた相手へ、トンファーを逆向きに持ち、突き出た持ち手部分を関節に絡めて頭から投げつけた。
    お見事。マッシュは顔色一つ変えずに澄ました顔で敵を沈めるレインに小さく笑みを零して、己も目の前の敵に集中した。放たれた弾丸をわずかな首の動きだけで躱し、鼻先潰した相手の頭を鷲掴み地面に沈める。小さなクレーター、破片が飛び散り周囲の敵に刺さった隙に全力の拳を放った。頭蓋骨が軋み、砕ける感触が振動して伝わる。足元に散らばるナイフをダーツの要領で周囲の男に投げる。
    無駄のない動きに、迷いも容赦もない力。表情一つ変えず飛び回るマッシュの身体は未だ一撃も受けていない。軽やかに舞うように敵を沈めるそのしなやかさを視界の端に捉えながら、レインは目を細めた。
    あれは修羅の化身なのだ。闇夜にひっそり耀る、血だまりに赫くただ一人の。
    心臓を流れる血流の温度が上昇するのを感じた。なのに背筋を撫で上げた何かは冷たくて。興奮にも似た動悸に突き動かされるように、レインもトンファーを振るった。

    絶叫が、悲鳴が、止まない。血しぶきが、鮮血が地面を彩る。頬を染める。布地に染みこむ。
    無双、熾す。無双、舞う。
    程なく、静寂が再び落ちた。









    「終わったか?」
    「うす」
    「処理班に連絡した。俺たちはここから引き上げる」
    「了解です」

    血だまりを踏む。この暗闇では赤も黒と見分けがつかないが、靴はおろかスーツにも顔にも赤が飛び散っている。頬に付いた血を手で拭って、ふう、とマッシュは一息ついた。

    「怪我は?」
    「ありません」
    「ならいい」

    端的なやりとりを終える。何事もなかったかのような黒い夜。足元には無残な亡骸。見慣れた光景、これが二人の日常だ。一仕事終えた開放感にマッシュはうーん、と伸びをして首を回しながらレインに言った。

    「今日はもうこれで終わりですよね?」
    「あぁ」
    「じゃあ帰っていいですよね。もう眠いんで」
    「だめだ」

    出入り口に足を向けようとしたマッシュの手首を掴み上げ、レインは熱の籠った声で静かに告げた。

    「この後付き合え」

    有無を言わさぬ声に、視線を合わせたマッシュの黄金色が燿り方を変えた。口の端がゆるり、と上がったのを見て、レインの胸の内が粟立つ。

    「…またですか?戦い終わっても興奮冷めないの、いい加減どうにかなりません?」
    「うるせぇ、付き合え」
    「毎度付き合う僕の身にもなってくださいよ、まったく」

    やれやれと肩を竦めるマッシュも満更でもないことはとうに知っている。黄金色の奥、陽炎のようなものがゆらゆらと揺れている。抗争や激しい大立ち回りをした後はいつもこうだ。修羅の如く美しい戦いに魅せられ、沸き立ったこちらの昂ぶりを知ってか知らずか、挑戦的な視線をひっそりと見せつけてくる。普段は人畜無害な顔をして、一切の隙がない立ち振る舞いをして。なのに、こうして血に塗れた闇夜にだけ見せる妖しい色。ぞくぞく、と背中が震えた。燻りが膨らむ。

    「…お前も人のこと言えねぇだろ」
    「んふ、どうでしょう?」

    黄金色の虹彩が妖しさを纏う。零した笑みに手首を掴む力が強まった。
    人畜無害、自由奔放。おそらくこいつの正体は修羅ではなく、人を誑かす何か。だから逃がさないよう捕まえておかないといけない。どこにも行かないように。誰かに奪われないように。自分のそばに縛っておかないといけない。置いて行かれないように、追っていかないといけない。

    「まぁしょうがないですね」

    マッシュが小さく嗤って、空いた手でレインの顎を掴んで口づけた。血と硝煙の匂いに紛れて、口内に流れ込む吐息の味に脳髄が痺れた。熱い舌を緩く絡め取られて、わざとらしく、くちゅりと音を立てれらる。弛緩した手を振り解いたマッシュはレインへ体を向けて、足の間を膝で押し上げた。堪らず重くなった腰に、レインの呼吸が大きく熱く吐き出された。唇を離したマッシュは目尻を下げる。とろり、と甘い蜜を眦から零しながら。

    「…ふふ、今日もレインくんにお付き合いしてあげますか」

    あどけない普段とも、修羅のような戦闘中とも違う瞳に今夜も魅せられて。
    あぁ、たまんねぇ。
    煮え立つ衝動に突き動かされるまま、レインはマッシュの体を掻き抱いて、新月の闇空の下、深く深く口づけた。


     






    寝に帰るためだけのレインの自室は簡素で殺風景だ。広いワンルームの部屋には必要最低限の家具しかなく、角に置かれたベッドと脇の出窓だけはどこかムーディーな雰囲気を醸し出していた。

    「情報ありがとう、ドミナくん」

    明かりを消した部屋の中、マッシュは耳に当てたスマートフォンへ小声で話しかけた。深夜も深夜。どっぷり暗闇に浸かった時間帯にも関わらず、電話口の相手は気にすることなく、慣れたように答えた。

    『いや、こっちも助かった。商談と抗争のダブルブッキングでそっちに人員を割けなかったから』
    「ふうん、大変そうだね」
    『無関係みたいに言うな。元は自分のファミリーだろ』
    「そうでしたな」
    『お前な…』

    ドミナの呆れ声を耳に入れながら横に視線を向ける。セミダブルベッドの左半分、横たわる男の深い寝息に固く閉じた瞼。
    よく寝ている。最近忙しそうだったもんな。
    ベッドの上でシーツに隠れた膝を抱え、マッシュは寝顔を眺めた。端正に整った顔も、覆われたシーツから覗く引き締まった肢体も、出窓から差し込む満月の光に淡く照らされ、肌は陶器のようにまろく美しい。
    本当、綺麗な人。
    この人が自分を求めてくれるのが、ひどく嬉しい。心底、たまらない気持ちになる。恋焦がれるよりももっと鮮烈で、もっと激しい、この情動は未だ尽きない。初めて見た時から、ずっと。

    『おい、聞いてるのか?』
    「あ、ごめん、何?」
    『お前、こっちに戻る気はないのか?』
    「またその質問?別に僕、そっちに必要ないでしょ?代わりなんていくらでもいるし、マフィアのあれそれとか全く興味ないし」
    『…まったくお前は…困った弟だ』
    「家族のつもりもないよ」

    マッシュがそう言えば、お前なぁ!と咎められた。だって本当にそうだもん。僕の家族はじいちゃんだけだよ。ドミナが嘆息する声が聞こえた。

    半年ほど前までマッシュはマーカスファミリーにいた。理由は簡単、実父と異母兄弟たちが組織するファミリーだったから。マフィアの中でも新進気鋭のマーカス、それを率いている首領こそマッシュの実父、異母兄弟のドミナは若き幹部で、他の兄弟四人もそれぞれ組織の重役に就いている。
    マッシュは単独の暗殺部隊だった。レインが所属する部署同様、一般の構成員には存在すら知られずにひっそりと、暗殺など人目に付かない荒事専門の任に就いていた。
    今はその任どころか組織そのものを抜けて、停戦協定中のファミリーに鞍替えしている。そのことを知っているのはドミナをはじめとした実父と異母兄弟、それに一般人として暮らすマッシュの育ての親。

    『…まぁいいさ。これまで通り、秘密裏にこっちの仕事も請け負ってくれればこちらとしても助かるし、お前が不必要に情報を売るとも思っていない。お父様が静観してる間は好きにすればいい』
    「言われなくとも」

    僕、ここ抜ける。あっけらかんと言ってのけたマッシュに兄弟たちは大層驚いたものの、拒否することはなかった。末っ子のゴーイングマイウェイな気質は今更だったし、本気を出して戦えば末弟に敵う者などいない。止めようがなかった。停戦中とはいえ、さすがに敵勢力へ加入したいと言った時は考え直せと説得もしたが、頑として聞き入れない末弟に兄弟たちはある条件を出した。
    今後もこちらの仕事を引き受けること。素性を隠し一切の情報を漏らさないこと。
    マッシュの実力を知る兄弟たちは、有事の際は手を貸してほしいと秘密裏に助力を求め、末弟がマフィアの序列や組織の運営に興味がないことにある種の信頼も寄せ、情報漏洩を口約束だけで禁じた。家族と言えど、お互い絆や関心、まして情もない。必要以上に干渉しない関係性が功を奏したのか、実父も兄らもマッシュに放任気味だった。

    『今日の報酬はまたセルに届けさせる』
    「わかった。あ、限定シューも付けてって言っておいて」
    『はいはい』

    今日の倉庫街での戦闘。レインとの任務に乗じて、マーカス側の裏切り者の殲滅もドミナから依頼されていた。適当に振舞って自由を装って、戦闘に持ち込めばいいだけのこと。単独行動が染みついており、ルールや規律に習うのが苦手なのもあるが、独断専行で突っ走れば血の気の多いマフィア同士の接近などすぐさま戦闘が始まる。任務に紛れてマーカスからの依頼をこなすのも比較的楽だった。

    『じゃあ、また何かあれば連絡する』
    「うん、じゃあまた」

    そう言って、マッシュは通話を終えスマートフォンを下ろした。途端静かになった空間にドミナの言葉が蘇る。
    『こっちに戻る気はないのか』
    うん、ない。ないよ。これっぽっちも。だって、そっちに彼はいないもの。
    横たわるレインの髪をそっと撫でて、ふふ、と一人小さく笑みを零す。

    今日のように新月が綺麗な夜だった。
    外で標的を殺した後、たまたま他組織同士の抗争にかち合った。騒動が落ち着くまでひっそり物陰で身を潜めて様子を窺っていた時、彼を見つけた。
    美しい、月の化身のような、彼を。
    数十人を相手にたった一人で応戦する彼の鬼神が如き強さと姿に、目を奪われた。心が湧きたった。
    清廉潔白で凛とした顔立ちの中で、冷えた月の瞳にはドロドロに溶かした鉄のような熱が宿っていた。それはまるで獲物を前にした獣のように獰猛で、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。どれだけ返り血を浴びようが、命を刈り取ろうが表情一つ変えない彼が心底美しかった。戦場でそんな人間、一度も見たことがなかった。
    満月浮かぶ夜闇の中、血を浴びて一人佇む姿に、なんて綺麗なんだろうと思った。殺す側であるはずの彼は、どれほどの屍を積み上げようが清廉なままで。まるで、月の獣のよう。彼が欲しい、そう思った。退屈で空虚な日々の隙間、空っぽの心が埋まる感覚がした。胎の奥底が疼くような、そんな卑しい感覚さえ。
    だから、彼の組織へ入った。貧民街で育った逞しい孤児を装い彼の元へたどり着けば、そこからはもうあっという間。新人と教育係の壁なんて早々に取っ払ってしまった。なまじ頭が切れるせいか、元来の忍耐強さなのか、案外理性的ではあったものの、本来は好戦的で衝動的な性格なのだろう。挑発するかのように誘えば彼はあっさり自分に手を伸ばした。自慢の体は戦闘だけでなく、男女問わず魅了し篭絡することにも長けている。回を重ねるごとに、煮えたぎった顔で溺れていくレインに求められると、これ以上ないほど満たされた。
    あぁ、たまらない。レインくん。僕だけの、美しい人。
    こんなに綺麗で凶暴な獣はここにしかいない。
    彼がここで生きるというのなら。自分もここで息をしたい。

    「ん…」
    「およ」

    髪を撫でていた手を払われる。僅かに身じろいだレインの瞼がゆるりと開いて、ぼんやりとマッシュを捉えた。

    「…電話…だれとだ…」
    「じいちゃんです」

    ひどく眠たげな声。顰めた顔で億劫そうに瞼を上げたり下ろしたり。起き抜けの今なら苦手な嘘もすんなり言える。育ての親のことはとうに話していた。スマートフォンをサイドチェストに置いて答えると、そうか、といつもより低い声が返ってきた。

    「起こしてすみません」
    「いや、いい……爺さん、変わりねぇか」
    「うす、元気です」
    「それなら、いい…」

    窓から差し込む月明かりでさえ眩しいのか、片腕で目を覆ってレインは言った。

    「カーテン閉めますか?」
    「いや…平気だ」
    「もう少し寝たらどうです?最近寝不足でしょう?」
    「あぁ…お前は?」
    「僕も寝ますよ」

    ふあ、と欠伸を一つして横になる。本当はまだ余韻も燻りも消えていない。けれど、実際眠気もあるし、睡魔に後ろ髪引かれているこの人に強請るのも些か気が引ける。今日のところはひとまず。

    「おやすみなさい」

    ちゅ、と幼子にするようにレインの頬へ唇を送った。こんな子供騙しのような、付き合いたての十代のような触れ合いで満ち足りるわけがないのだが、おそらくきっとこれが正しく「らしい」振る舞いなのだと思う。
    本当はまだ、もっと。この人を。この人と。
    体にわだかまる熱を感じながらも、マッシュは視界を閉じようとして。

    「マッシュ」

    名を呼ばれた。なんですか、尋ねると首だけを捻った彼はただ静かにこちらを見つめ、目だけで僅かに笑った。

    「物欲しそうな顔してるぞ」
    「え?」
    「お前は…本音の一つも言わねぇな」
    「レインくん?」
    「お前が何を言おうが、今更離れる気はねぇぞ」

    掴まれた手のひらにちゅ、と唇が落とされる。こちらを射抜くような瞳は金の矢のようで、ぞくりと背筋が震えた。
    何をどこまで知っているのかなんて、わからない。けれど。
    マッシュは笑った。うっそりと。本当の色を眦に滲ませて。
    リネンを捲り、露わになったレインの腹部へ跨る。じゃあ、と懇願するよりも、もっと甘く、命じた。

    「もっと欲しがって、僕のこと」
    「…上等だ」

    月下の獣は獣らしく、噛み付くようにキスをして。二人の体が白いダンスフロアに舞う。
    胎の奥よりも。空いた胸の隙間を、空っぽの心を、全部全部。あなたで埋め尽くして。あぁ、ほら、もっと。
    手懐けた月の獣の腕の中、幸せと愉悦を織り交ぜて、天女の如くマッシュはゆるりと微笑んだ。


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