御伽話のその先で中央の国の王都は平日でも休日でも人で溢れかえっている。厄災の傷が少し弱まったといえ相変わらず触れないと人が見えないカインにとっては喧騒は聞こえるのに姿が見えないというなんとも不可解な光景だった。気配だけでなんとか人にぶつからないように歩くのにも慣れたものだ。前は触れて一日経ったらリセットされていた視界は数日ぐらいの感覚に和らいでいる。それでも厄介な傷に変わりないがひとつだけ気にいっていたところがあった。だが今ではそれはないに等しい。
ふと、甘いものがたくさん並んだ屋台が目に入る。周囲をくまなく探して魔力の痕跡にも目を凝らす。だがやはりあの白い魔法使いは影も形も残り香さえも残ってない。
狂いそうだ、と他人事のように思う。
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