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    kikan_rira

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    Twitterで呟いてた「もしもロロ君とララちゃんを失っていたら」というif世界の出ロデのネタバレメモ。

    盛大にネタバレを盛り込んでいく後半戦(途中)

    ローバーハーバー(後編)※ローバーの盛大なネタバレですが、このロデ君はソウル姓を手放すべくとっくに戸籍を売り払っており、本当に公的には存在しない人間になってます。


    戸籍がないから家も携帯電話も買えないし、偽名に使う「ジェーン・ドウ(身元不明の死体)(日本語でいう所の名無しの権兵衛)」も強ち嘘ではないっていう。
    ローバーの出くんは、隠す気のない偽名を教えられたり、「アンタの好きなように呼んでくれ(それぞれの客に『アンタが考えた名前がほしい』とか言ってるので呼び名が沢山ある)」と言われたりするので、ロデ君の口から名前を教えてもらうまでは、頑なに「君」と二人称で呼びかけ続けています。
    そのため、街中でロデ君を見かけた時、ここで捕まえておかないと次会えるのがいつになるか分からず、咄嗟に呼び止めようとして「君!」って叫ぶんだけど、当然ただの二人称なのでロデ君も自分の事だと気づかず、どんどん先を歩いて行っちゃうため、慌てた出くんが「そこのハーフアップがめちゃくちゃ似合ってて、ネイビーのロングカーデがすっごく決まってる長身イケメンの君!」とやたらと説明口調になり、周囲の通行人の目線が思わずロデ君に集まってロデ君も普通に恥ずかしくなる珍騒動が何度か勃発します。
    「~~っ!アンタ、いい加減にしろよ」
    「だったら君こそいい加減名前を教えてよ!」



    そのうち、客の一人のツレが寝泊まりするために転がり込んだロデ君を「財布の中身を取られた!」と盗人に仕立て上げようとするひと悶着が起こり、最初の方こそ「知らねぇってば」「アンタの数え間違いじゃねぇの」と濡れ衣を主張していたものの、警察を呼ばれた時点で、職無し住所不定の自分じゃどう考えても信用度がなくて、何を言っても無意味かと諦め、まぁ食事は出てくるし、寝床も提供してもらえるんだから、ちょっとの間牢屋のお世話になるのも悪くはないかって自嘲したところで、たまたま居合わせた出くんが「それ、本当に彼が盗んだんですか?」とロデ君の無実を信じて証明してくれます。
    「どう考えても俺が怪しいってのに、よく信じる気になったな?」と驚くロデ君に、「だって、君、現金主義から最も遠いところにいるじゃないか」と不思議そうに指摘するし、「僕が知っている君は、屁理屈はこねても、一本筋は通す人だから、人の物を盗むようなことはしないよ」と事も無げに言う。
    「それに」と出くんが少し拗ねたように何かを言いかけて、言い淀むので「それに?」と聞き返したら、「それに、正式に聴取を取られたら、供述調書に君の名前が書かれるんだよこんな形で本名を知るのは、不本意というか、悔しいというか…!」と予想外の返事が返ってきて、爆笑するロデ君。
    それで、「オーケー、出」と今までヒーローと呼んでいたロデ君が出くんのヒーロー名を呼び、「お礼に、客じゃなくて親から授けられた名前をアンタに委ねるよ」と改めて自己紹介をするんだ。流石に姓は言えないけど、「俺の名前はロデだ」と捨てた姓と共に手放したはずの名前を、久しぶりに声に出す。
    弟妹からは「お兄ちゃん」と呼ばれてきたし、父親失踪後は偽名を使ってたから出くんが嬉しそうに「ロデ」と呼んだ時、そういや誰かに名前を呼ばれるのは何年振りだろ、最後に呼ばれたのっていつだっけと思い返してみたら父親で無性に泣きたくなってくる。初めて戸籍を売ったことを少しだけ後悔した瞬間。

    そんなことは露知らず、やっとロデ君の名前を知ることができて、浮かれていた出くんは、オセオンのヒーローと警察が共同捜査で設置したヒューマラの事件に関する特別捜査本部に本格的に参加することになり、顔合わせに警察本部に出向いたら、そこで「ヒーロー出ですね。お待ちしておりました。ヒューマラによる事件の早期解決のため、警察とヒーローの垣根を越えた捜査にご協力いただけるとか。非常に心強いです」と出迎えてくれた警官がいて、「ああ、自己紹介が遅れました。本官はロデ・ソウルと申します」と名乗るところで、ようやっと長いプロローグが終わり、本編に突入する感じです。




    オセオンだとロデって名前はよくあるのかなって調べてみたりするけど、寧ろ少ないということが分かったり、まぁ、同名なんて確率が低いってだけで絶対にありえないって訳じゃないしと言い聞かせてみるものの、何か心に引っかかる出くん。お分かりだと思いますが、この警官がロデ君の戸籍を買った人です。
    出くんは、先にロデ君の名前を知ったので、「ロデ」と言えばロデ君という刷り込みがあるし、その呼び方しか教わってないので、警官の方を「ソウルさん」って呼んでたんだけど、この警官は戸籍上の名前だけでなく、ロデ君の生い立ちをそのままトレースしているので「すみません、実は父がヒューマラの団員だったせいで、ソウルの姓は悪目立ちするというか、あらぬ誤解を生じてしまうので、できれば名前で呼んでもらえませんか?」とお伺いを立てるし、そういう事情があるなら無闇に名字で呼ぶ訳にはいかなくなるので、出くんも「ロデさん」とか「ロデ巡査」と呼ぶことにします。呼び捨てはロデ君専用。

    ある日、ロデ君と偶々街中で鉢合わせして、そのままご飯を一緒に食べてたら、出くんのスマホに電話がかかってくる。「緊急要請かもしんないし、取れよ」というロデ君の言葉に甘えて画面を見て、思わず「あ、ロデさんからだ」と漏らす出くんの呟きを拾ったロデ君は当然「俺」ってなる。
    出くんと「ロデさん」とやらの電話が終わったら、早速ロデ君は「それで?一体どこの平行世界の俺と電話してたわけ?」と尋ねる。
    「実はヒューマラ捜査本部担当の警官に、君と同じ名前の人がいるんだ。初めて名前を聞いたときは、ロデと同じだからビックリしすぎて、思わず挙動不審になっちゃった」
    凄い偶然だよね、と朗らかに笑う出くんに合わせて「まぁ、世の中同じ顔の人間だって三人いるって言うくらいだし、名前くらい被るっしょ」と飄々と返すんだけど、内心心臓バクバクしてる。自分の名前が一般的でないことは、誰よりも知っているから。
    それでさり気なく「ちなみに名字は何て言うんだ?」と聞き出そうとしたら、出くんが「えぇっと、凄く今更なんだけど、その、プライバシーがあるから僕が勝手にフルネームを教える訳には……いや、ロデのことは信じてるんだけど!」と下手くそな誤魔化し方をするので、ただの偶然ではなくなるべくしてなった一致だと確信を得る。
    「その『ロデさん』ってさ、もしかして、『ソウル』さんだったりする?」と聞いてみたら、「え、な、何で」と分かりやすい反応が返ってきて、何だか身構えていたのが馬鹿らしくなってきて笑えてくるロデ君。
    「アンタ、本当に嘘つけねぇな!」
    「いや、だってまさかノーヒントなのにピンポイントで言い当てられると思う」
    言い当てるも何も、ただ自分の名前を名乗っただけだ。
    とは言え、その名前と戸籍はとうに他の人間のものになっているけれど。戸籍の売買には間に何人もブローカーを挟んでいるため、誰が買ったのかは知らないが、貧乏籤を引かされた可哀想な奴もいるもんだと人事のように思うロデ君。
    新しい戸籍を買うくらいに今の人生から逃れたいと思っている人間が、ようやっと手に入れた第二の人生だというのに、転生先がまさかのヒューマラの団員の息子だなんて。「少なくとも南欧じゃ買い手がつかねぇな」とブローカーに安く買いたたかれた戸籍の新たな持ち主が、よもやオセオンにいるとは。
    しかも警官という立派な職にまでついているらしい。ソウルの名でよくぞそこまで這い上がったものだと純粋に尊敬する。少なくとも、自分には無理だった。だから、縁を切るために戸籍ごと名を捨てた。
    本当は自分の名前だけど、それを公的に証明するものは何もない。父親との写真だって手元にない。
    こうしてみると、自分がロデ・ソウルであることも、エデ・ソウルの息子であることも何一つ証明できないんだと思い知らされる。だったら、せめて公的に本物の『ロデさん』の生活を脅かす真似だけは止めておこうと思い、「「そりゃ、こっちは、あの『エデ・ソウル』の息子と同じ名前なんだ。しょっちゅう人違いされて、散々な目に遭ったよ。そんで偽名を使うようになったってわけ」と事もなげに嘘をつくロデ君。
    出くんに「その、エデ・ソウルって人は有名なの?」と訊かれ、「個性関連の科学者だか研究者だかで、その分野じゃ一廉の人物だったらしいよ。そんな有能な人間がヒューマラに加担してたんだ。数年前のテロに使われたトリガーボムだって、ひょっとするとソイツが開発したんじゃねぇの?」となるべく当事者にならないよう、気をつけながら伝聞体を意識して話す。
    「身内に犯罪者がいると警官になれないって聞くけど、息子さんもよく頑張ったな?」
    「ちゃんと罪を償っていれば、その限りじゃないよ」
    「エデ・ソウルが捕まったってニュースは聞いた覚えがないんだけど?」
    「父親が失踪したとき、彼は未成年だったって聞いてる。それに、警官を希望したのも、誤った道を進んでしまった父親を探し出して、更正の道を歩ませたいからだって話してた」
    まるで映画の主人公のような立派な志に、大賞でも取れそうなハートフルストーリー。このあたりから、ロデ君は『ロデさん』に違和感を抱く。戸籍を買い取ったことで、ヒューマラの団員の家族という柵から逃れられなくなったとはいえ、ここまで忠実に再現するものだろうか。それこそ、同姓同名だと言い張って、赤の他人だと主張すればいいのに。警官になりたかったのなら、なおのこと。実際、エデとは戸籍上の繋がりだけで、面識すらない間柄なんだろうし。そもそも、買い取った戸籍で警官になれるものなんだろうか。よく知らないけど、身辺調査とか一通りされるものじゃないのか。
    戸籍を手放した自分のことは棚上げになるけど、違法な手段で戸籍を買って、言い方は悪いが他人の人生を乗っ取ったわけだ。犯罪に手を染めてでも、それまでの人生から抜け出したいという気持ちは分かる。しかし、生きにくい『ロデ・ソウル』の生い立ちを律儀になぞる意図が分からなくて、不気味だった。
    「なぁ、」と言いかけて、ロデ君は口を噤む。本当にソイツのこと、信じて大丈夫なのかよ、と問いかけたところで、何になる。出くんの中で『ヒューマラの団員を父に持つロデ・ソウル』は自分じゃなくて警官だ。しかも、親の罪のせいで苦労している哀れな被害者という立場。自分の質問はきっと親が親なら子だってろくでもないに決まっているという偏見にまみれたものとして受け取られかねない。出くんに軽蔑されるのは嫌だった。濡れ衣を着せられそうになったとき、助けてくれた出くんのまっすぐな正義感が、『ロデさん』の名誉を守るために今度は自分に牙をむくとしたら耐えられない。
    いっそのこと、本当のロデ・ソウルは自分で、その警官は自分の戸籍を買い取った偽者だと言ってしまおうか。でも、自分の証言を裏付ける証拠が何もない。全部手放したのだから、自業自得だ。今回ばかりは、出くんだって、身許がしっかりしている『ロデさん』の肩を持つに違いない。何せ自分はまだ出くんに、個性どころか、本当の名字すら打ち明けられていないのだから。
    不自然に止まったロデ君を心配した出くんに「ろで?」と気遣われ、「悪ぃ、実はピノの調子が朝からあんまり良くないんだ」とぐったりしているピノをポケットから出すロデ君。「気晴らしになるかと思って外の空気に当たりに来たんだけど、ご覧の通り。もう少しゆっくり話したかったけど、そろそろお暇するわ」と立ち上がる。いつも楽しそうに飛び回っているピノ(ロデ君のペットだと思ってる)を見てきた出くんは「えぇピノ大丈夫、じゃないよね」と慌てる。
    「早めに本日のお客さんの所に行ってピノを休ませっからそう心配すんなって」と軽い調子で応えて、去り際に「そうだ。ランチ代ゴチになるお礼に教えてやるよ。『エデ・ソウルの息子は無個性説』」と精一杯のSOSを出す。
    「え、無個性?」
    「まぁ、警官になってるくらいだから、眉唾モンなんだろうけど。『ロデさん』と間違われたときに、言われたよ。父親がヒューマラの団員で、個性終末論を信じてる訳だろ?そんで、近所の人は誰も、その息子の個性を知らないんだよ。実際に見たことはおろか、どんな個性なのか噂でも聞いたことがないってさ。だから、無個性に違いないってな」
    本物のロデ・ソウルは、誰かを守れるような強い個性は持っていない。それは本人しか知らない事実。それを知っている証人はある日突然消えてしまったから、本物のロデ・ソウルであるという証拠にはならないけど、でも出くんにだけは知っておいてもらいたくて、「ま、個性が発現すんのが遅かっただけかもな」と世間話を装って伝えるロデ君は足早に立ち去っていく。



    一方、出くんは、ピノのことが心配で(動物も病院に駆け込むときって保険証みたいなのが必要なのかな)とつい調べちゃうんだけど、でもそれ以上にロデ君の様子がおかしかったことが引っかかる。ピノのことがあるからかなとも思ったけど、思い返せば、ロデ君がどことなくぎこちなくなったのは電話以降の気がする。
    やっぱり自分と同じ名前の人がいるっていうのは驚くものなんだろうかと解釈していたけど、又聞き状態で目の前に当人がいるわけでもないのにと違和感がない訳でもない。ただ、今まで間違えられてろくでもない目に遭ったと話していたから、体が反射的に強ばっただけかもしれない。
    気になるけど、住所不定でその日暮らしをしているロデ君を捕まえるのは至難の業で、やっぱり確固たる連絡手段を確立しておかないとこういう時不便だと痛感する出くんが、仕事の合間に「携帯 プレゼント 重い」で検索してうんうん唸っていると、「また『ロデ君』絡みですか?」と休憩室に例の警官が缶コーヒー片手にやってくる。
    「仕事関連ならわざわざ休憩室に来る必要はないし、ヒーローグッズの抽選会にしては呟きが少ない。プライベートであなたがそんなに真剣になるなんて、ヒーローオタク抜きで考えれば、オセオンでできたという、自分と同じ名前のお友達くらいでしょう」とスラスラ根拠を並べられ、「すごい、探偵みたいだ」と拍手する出くん。
    「探偵も警察も、推理を生業としているという意味では同じですからね」と拍手を軽くいなす警官は「それで、自分の推理は当たっていたと思っても?」と答え合わせをする。
    「その、友達に携帯をプレゼントするのってどう思います?」
    「恋人だとしても、独占欲が強すぎて引かれると思います」
    「やっぱり?」
    「携帯を買ってあげても不自然ではない間柄なんて、親子関係くらいでは?」
    客観的な正論に、うぐ、と出くんは言葉に詰まる。実際、ロデ君が受け取ってくれる未来予想図が全く描けない。一応、自分のスマホの番号は伝えてあるし、いつでも気軽に電話してねとも念押ししているけど、一度もかかってきたことはない。何より、自分からロデ君に連絡する手段がないというのが、こんなにも大きな痛手になるとは思わなかった。住所不定となると手紙もできないし、と悩む出くんに「喧嘩でもしたんですか?」と警官が尋ねる。
    「喧嘩じゃないんだけど、この前会ったとき、ちょっと様子が変だったから何かあったのかなって」と答える出くんに、「それは心配ですね」と親身になってくれる警官。「会ったことはありませんが、同じ名前ですし、あなたからよく話を聞くものだから、何だか知り合いのように思えてきて」
    「一度、自分も『ロデ君』に会ってみたいです」と続く言葉は会話の流れとして至って普通のはずなのに、一瞬警官の瞳に、獲物を狙う蛇のような冷たい光が宿ったように見えた出くんは、咄嗟に「ロデと会えるかどうかは運試しみたいなところがあるから、君を紹介できるかは確約できないや」と無難にかわす。
    そう言えば、警官と間違えられて迫害されたことがあると語ったロデ君は、「エデ・ソウルの息子は無個性説」が蔓延っていたと言っていた。
    以前、ホテルのシャワーを貸したとき、足の関節をさりげなくチェックしたら、ロデ君は個性保有者だった。だけど、個性について尋ねたら「それは、俺の名前よりも高い情報だ。教えてほしけりゃ、百万ユール現金一括払いな」と茶化された。「お金は要らないんじゃなかったの?」と聞けば、「一生で一回くらいは、金風呂ってのに浸かってみるのも悪くないだろ」と意地悪く笑ったロデ君曰く、大したことのない個性で、殆ど使い道がないそうだ。そんなだから、個性を使いたがらず(もしくは使ったとしても、傍目には個性の使用が分かりにくいのかもしれない)、彼自身は多くを語らなかったけれど、同じ名前というだけでなく、無個性だと勘違いされて、ますます迫害に拍車がかかったのだろう。
    しかし、目の前の警官の個性は、風を操るもので、個性を使えば誰だって、彼が無個性なんかではないとすぐに理解できる。根も葉もない噂というのは確かに存在するけれど、それでロデ君は実害を被ってきたわけで。少なくとも、何かしらは現実とリンクしている情報があるはずだ。そうでなければ、ロデ君の言葉と警官の言葉の間に齟齬が生まれてしまう。
    つまり、どちらかが、嘘をついているということになる。
    「ロデさんって、風を操る個性でしたよね?」と意を決して尋ねる出くんに、「そうですけど、またお得意の個性分析で何か新しい必殺技でも思いついたんですか?」と朗らかに受け答えする警官は、到底悪い人には見えない。
    「実は僕、個性の発現が人より遅くて。ロデさんはどうでしたか?」と質問したら、「奇遇ですね。自分も遅かったんですよ。それで、無個性なんじゃないかって不安でした。父親がヒューマラの一員だったことが発覚してからは特に」と矛盾のない、それこそ模範解答のような返事が返ってくる。「足の関節はちゃんと個性発現型だっただけに、ヒューマラの実験によるものじゃないかと周囲から薄気味悪がられましたよ」と話す警官に、「じゃあ、個性が発現したときの感動は人一倍ですよね」と出くんが訊けば、「本当に。この個性のおかげで、こうして誰かを守れる職に就けた訳ですし」と同意される。
    しかし、「出遅れた分、個性を使いこなすのに時間がかかりませんでしたか?特に、僕は不器用だから、中々コツが掴めなくて難儀しました」という質問には、「最初は戸惑いましたけど、やっぱり自分の体の一部ですし、案外勝手が分かるもんだなと思いましたけど」という返事が返ってきて、嘘をついている可能性が高いのはこっちかと察する出くん。警官の意見は、あくまで六歳ギリギリに個性が発現した人の感想にすぎない。父親が失踪したときの年齢は、十歳を越えていたはずで、それまでの年月を個性がないのが当たり前の状態で過ごしてきた人間が、突然個性が使えるようになったときのぎこちなさは、出くんは身にしみて知っているので。
    すると休憩室に他の警官も入ってきて、「あ、ロデ!お前、もうすぐ誕生日だろ?いいよなぁ、バレンタインのついでにお菓子もらえるの。俺なんか、『おめでとう』って声かけられるだけだぜ?」と話しかけてくる。
    「え、誕生日そろそろなんですか?」
    「はい。2月13日。バレンタインの前日です」
    その瞬間、出くんの中で違和感が決定的なものへと変わる。
    以前、ヒーロー免許証をロデ君に見せたとき、ちゃっかり誕生日を把握され、自分もロデ君の誕生日を知りたいと駄々をこねたことがある。秘密主義で中々自分のことを話したがらないロデ君相手に粘りに粘ってようやく「あー、もうしつこいな。バレンタイン・イブだよ!」と聞き出せた。
    そりゃ、同名の人はいるだろう。一年間は365日しかなくて、人間の数はもっと多いのだから、誕生日が重なることだって珍しいことではない。だけど、同名かつ誕生日も同じというのは、流石に出来すぎじゃないか。
    ロデ君と同じ名前で、同じ誕生日。そもそも、ロデ君が頑なに名字を隠そうとするのは、それこそソウル姓だからだと考えれば辻褄が合う。でもその場合、どうしてロデ君は自分の名前を勝手に騙っている相手を庇うように、自身は蚊帳の外の人間だと振る舞うのかわからないし、目の前の警官が何を考えて、何を目的としているのかは現段階では謎のままだ。それでも、彼をロデ君と会わせてはならない気がしてしょうがない。
    しくじった、と出くんはヘマを踏んだことを自覚する。今、自分が彼を怪しむに足る情報を得たことを、恐らく推理力に優れた警官は気がついている。深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいている。警官の方も、出くんが警官を疑っていることが警官本人にバレているという自覚がある、と察しているはずだ。
    こうなってくると、何が目的にせよ、どちらが先にロデ君を見つけられるかにかかってくる。返す返すも、ロデ君と連絡を取る術がないのがもどかしい。次、ロデ君と会ったら、何が何でも携帯電話を押し付けると出くんは心に決めるし、何ならヒーロー協会の方で保護して、安全が確保されるまでこちらが用意する部屋で滞在してもらうつもりだった。



    その頃、ロデ君はというと、店が閉まっている昼下がり、久しぶりにおっちゃんのバーに顔を
    出していた。顔を合わせるなり、「お前なぁ!ヒーローにうちを紹介するなんて何考えてやがる!この店を潰す気か」と飛んでくる店主から怒号を、(あぁ~、この感じ。懐かしいね)と聞き流すロデ君。
    「よっぽどの事がない限り、小遣い稼ぎの小悪党には目を瞑るよう言い聞かせてるって」
    悪びれず、「相場のイロハも知らず、値引き交渉だっえ覚束ないジャパニーズだ。どうせ、情報料ぼったくって懐ホカホカなんだろ。寧ろ、いい鴨を連れてきたって感謝してほしいね」と減らず口を叩くロデ君。オセオンという不慣れな土地では、伝手もなく、裏社会の情報を入手するのに苦労していた出くんに「アウトローを取り締まらないっていうなら、信頼できる情報屋を教えてやるよ。俺からの紹介って言えば、一見さんでも話くらいは聞いてくれるはずだ。ま、お高くつくから、金の準備だけはしっかりしとけよ」とおっちゃんとの間を取り持っであげた。
    口は悪いが、世話焼きな人だ。実際、ロデ君も弟と妹が生きていた頃は、運び屋の仕事の大半をここで斡旋してもらっていた。独りになって、今の生き方をするようになってからは、この店に来る頻度もだいぶと落ちたけれど。何せ、金目のものを持たない奴は、この店では客として扱われないので。
    「なぁ、おっちゃん。アンタの腕を見込んで、人捜しを頼みたいんだけど」
    「あぁ?お前、金はあんのかよ?」
    「いや?相変わらずの文無し」
    「ハッ!話になんねぇな。さっさと今夜の止まり木に帰った帰った」
    「生憎、その止まり木として目を付けてんのが、ここなんだよなぁ?」
    ニコニコと笑うロデ君に、顔を顰めるおっちゃん。「年々可愛げがなくなってきやがる…」というボヤキは無視して「依頼料と宿泊費分はただ働きすっからさ」とお願いすれば深いため息と共に「こき使ってやるからな」と了承の言葉が吐き出される。
    「それで?誰を探してほしいって?」
    「俺の戸籍を買ったバイヤーか、俺の戸籍をエンドユーザーに売りつけたブローカー」
    「なんだぁ?自分の戸籍が惜しくなったか?」と笑うおっちゃんですが、今までなら「縁を切れて寧ろ清々してるね」や「惜しむ程価値のあるもんじゃねぇって」と返してたロデ君が「ん~?ちょっと恋しくはなったかも」と言うので片眉をひょいと上げる。
    「取り戻そうってか?」
    「別にそこまでは言っちゃいない。取り戻せるもんでもないし。ただ、自分の戸籍がどういう扱いを受けてんのか、ちょっと気になっただけ」
    ロデ君の中に心境の変化があったことを察したおっちゃんは早速「まずは店内の掃除!それ終わったら、買い出しに行け!」とこき使うし、余計な感傷に浸る間を与えないおっちゃんのぶっきらぼうな気の使い方に、「はいはい。相変わらず、人使いが荒いこった。そんなんだから従業員にすぐ逃げられちまうんだよ」とロデ君も苦笑しながら言われた通り、掃除を始める。


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    kikan_rira

    DOODLE───鬼さん、こちら。幸せ叩く手の鳴る方へ。


    緊急要請が入り、デートが中断・中止になり、異国の地で放置プレイされる度、出くんが「いつもごめんね」と申し訳なさそうな顔をするのが気にくわないので、出くんの帰りが遅くなりそうだったら、一人で気ままに観光を始め、東京を満喫するようになるロデ君のお話。もしくは任務を片づけた出くんとの追いかけっこのお話。出くんに見つかってからが追いかけっこ本番幕開けです。
    My hero is Mr.Seek!(前半戦)フィクションでもリアルでも、ヒーローが追いかけるのはヒールと相場が決まっている。
    例えば街中でヒーローの追跡を振り切ろうとする奴を見かけたならば。何も迷うことはない。十中八九、そいつの正体は敵と断定できる。ベーカー街に住む世界で唯一の民間諮問探偵でなくたって導き出せてしまえる初歩的で簡単な推理だ。
    しかし、時代を超えて受け継がれている先人からのありがたい教えの中には、こんな諺もある訳で。
    ───"Every rule has its exception."
    何も悪いことをしていないのにヒーローから付け回される。それは、十人いれば十五人が「酷い目に遭ったね」と声を揃え、うち三人くらいはコーヒーを一杯奢ってくれるほどの災難だ。
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    kikan_rira

    MEMOTwitterで呟いてた「もしもロロ君とララちゃんを失っていたら」というif世界の出ロデのネタバレメモ。

    盛大にネタバレを盛り込んでいく後半戦(途中)
    ローバーハーバー(後編)※ローバーの盛大なネタバレですが、このロデ君はソウル姓を手放すべくとっくに戸籍を売り払っており、本当に公的には存在しない人間になってます。


    戸籍がないから家も携帯電話も買えないし、偽名に使う「ジェーン・ドウ(身元不明の死体)(日本語でいう所の名無しの権兵衛)」も強ち嘘ではないっていう。
    ローバーの出くんは、隠す気のない偽名を教えられたり、「アンタの好きなように呼んでくれ(それぞれの客に『アンタが考えた名前がほしい』とか言ってるので呼び名が沢山ある)」と言われたりするので、ロデ君の口から名前を教えてもらうまでは、頑なに「君」と二人称で呼びかけ続けています。
    そのため、街中でロデ君を見かけた時、ここで捕まえておかないと次会えるのがいつになるか分からず、咄嗟に呼び止めようとして「君!」って叫ぶんだけど、当然ただの二人称なのでロデ君も自分の事だと気づかず、どんどん先を歩いて行っちゃうため、慌てた出くんが「そこのハーフアップがめちゃくちゃ似合ってて、ネイビーのロングカーデがすっごく決まってる長身イケメンの君!」とやたらと説明口調になり、周囲の通行人の目線が思わずロデ君に集まってロデ君も普通に恥ずかしくなる珍騒動が何度か勃発します。
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