常ならば曲者と言いつつ此方を追い掛けてくる可愛い子は、然し今日は些か勝手が違うらしい。学園長の部屋から出て廊下を歩いている此方に気付くも、軽く頭を下げるだけで行ってしまった。それが何だか無性に面白くない。燻る胸の奥が気持ち悪くて、あの子の後を追うべく庭に出るとそのまま歩き始める。背後から山本の制止の声が聞こえたが、今はあの子の事を優先すべく歩みを進めると程なくして見慣れた忍び装束の後ろ姿に追い付いた。
「今日は追い掛けてこないの?」
「追い掛ける必要がない」
「どうして?」
「学園長の客として来ているなら、正規の手続きを踏んでここにいるんだろう?」
だったら、曲者じゃあない。追い掛ける必要がどこにある。
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