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    9bambam18

    @9bambam18

    ホ常ホをかく。すれ違いを好む。

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    9bambam18

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    ガマズミいただいたんだけど、よかったら貰ってくれる?そう言われて手渡されたのは、大きく立派な赤色のチューリップの花束。どうやら、街で助けた人が偶然公安近くの花屋を営んでおり、お礼として花束を貰ったらしい。一人でまた無茶をしたのか、という俺からの無言の圧から目を反らしながら、ホークスは自身のスマホを取り出し画面をこちらへと向けた。

    「見て。こーんな立派な花束貰っちゃってさ。全部チューリップなんだって。いっぱいあるんだね」
    「赤や黄色が一般的だが、花びらが特徴的なものもあるな」
    「あれ?花に詳しかったりする?」
    「母がガーデニングをしていたので、少しだけ。…ところで、この花束は赤いチューリップしかないが」
    「君には赤が似合うかなーって赤だけにしたの。ほかの色も欲しかった?」
    「否。あなたが俺に似合うと思ってわざわざ赤のチューリップだけ包んでくれたのなら、それは嬉しいな」

    赤い瞳やチョーカーからの連想だろうか。俺にとっては、赤はホークスの羽の色で、黒と並び好きな色。ホークスが俺を想って花束の中から赤いチューリップだけを選んでくれたということが、とてつもなく嬉しかった。

    「そっか。はは、喜んでもらえてこっちも嬉しい」
    「花をもらったことはほとんどないが、嬉しいものだな。ありがとう、ホークス」

    立派なチューリップだ。寮に飾らせてもらおう。八百万に頼めば似合う花瓶を作ってくれるに違いない。
    どのような花瓶が似合うだろうかと思案していると、ホークスからの視線を感じた。目を細めて、じっと俺を見つめている。

    「ホークス。いかがした?」
    「や?チューリップ持ってる常闇くんかわいいなって」
    「写真なら応じるが」
    「え?いいの?じゃあ黒影くんとピースして!」

    *********

    飛んで帰っては花が痛んでしまうとホークスが静岡までの新幹線を予約してしまったため(普段から往復の鉄道代を出すと主張しているが断っている)、予定よりも遅い帰宅時間となってしまった。休日だから散り散りになっていた皆もすでに帰宅して夕飯までの時間をくつろいで過ごしている。

    「常闇おかえり~。あれ?かわいいの持ってる!」
    「チューリップだ!きれいだね!」

    赤いチューリップは目立つのか、すぐに芦戸と葉隠に見つかった。ホークスから頂いたのだと説明すると、生暖かい目を向けられる。ホークスとの茶会から帰るといつもこうだ。連絡がつかなくてやきもきしているところを側で見られていたのだから、仕方ないのかもしれない。

    「八百万、少しいいか」
    「まぁ!素敵なチューリップ!花瓶が必要ではありませんか?」
    「ああ。なのでお願いしたい」
    「お任せください!なにかご要望はありますか?」
    「デザインは八百万に任せるが…一輪だけ飾れる花瓶も作ってくれないだろうか」

    さすがに全部のチューリップを俺の部屋に飾るのは似つかわしくないが、せっかくいただいたのだから部屋にも飾っておきたい。花束のほとんどは談話室に置き、一輪だけ部屋に飾ることにした。

    「部屋に花があると明るくていいな!」
    「おいおい常闇…お前ほいほい男から花束を喜んでもらってきてどうすんだよ。勘違いされっぞ。まぁ世の中からモテイケメンが一人減るってのは喜ばしいことだけどな」
    「ホークスから花束貰っただけだろ?そんな変な意味なんてないって…たぶん」
    「いや!絶対あるだろ…ホークスだぞ?」
    「お前たちは師にどんなイメージを持っているんだ…」

    なぜか上鳴と峰田は少しばかりホークスへの警戒心がほかの者たちよりも強い気がする。峰田は単純にいつもの「イケメン滅ぶべし」なのだろうが…。上鳴はどうやら以前ホークスに無言で微笑まれたらしく、「目が笑ってなかったんだけど俺なんかしたかな!?」と恐怖におびえていたのが原因かと。上鳴と一緒に映画に行ったとホークスに伝えた数日後の出来事だった気がする。

    「味を占めたホークスが大量に貢いできそうな予感がぷんぷんすんぜ」
    「今回は偶然花をいただいただけと言っていた。次はないだろう」
    「わかってねぇ~な、男をよ~」
    「俺も男だが…」

    *********

    「はい。あげる」

    峰田よ。あのときのお前の言葉は正しかった。
    にこにこと笑うホークスが差し出してきたのは、またもや立派な花だった。いや、立派すぎる。ひまわりはいくら何でも。

    「季節感…」
    「あはは。ほら、この前話した花屋さん。季節関係なく花を育てられる個性らしくてね。前通ったらひまわりがあったから思わず買っちゃった」

    プレゼント用だからか、少し小ぶりなひまわりが数本。鮮やかな黄色がまぶしい。「黄色もやっぱり似合うね~。ほら、写真撮らせて」と前回と同様に写真撮影会が始まり、周りから生暖かい目で見られるという謎の状況。ここは公安内のカフェであり、公安はこんな和やかな場所ではないはずなのだが。

    「常闇くん、花って感じのイメージじゃないけどさ、花似合うね」
    「ひまわりならばあなたの方が似合うと思うが」
    「あ。じゃあひまわりと俺で撮っていいよ。絵になると思う」
    「事実だが自分で言うのか」

    渡された花束をいったん返せば、少しくたびれた様子だったのが一変、まるでモデルのように顔を作るのだから、さすがだと思う。目の下の隈はいただけないが、やはりホークスは轟と並ぶ「面が良い」男だ。ひまわりの鮮やかさに全く負けていない。

    「さすがだな。面が良い」
    「え?ツラ?常闇くん?」
    「やはりひまわりはホークスに似合うな。俺がいただいていいのか?」
    「もちろん。常闇くんのために買ったんだから」

    手元に帰ってきたひまわりは、月より太陽のようなあなたを見つめていたいと思っていそうな気がするが。

    「迷惑だった…?」
    「否。嬉しい」
    「そ?嬉しい?」
    「ああ。嬉しい」

    花を贈られて困惑はあれど、迷惑だなんて思うはずもない。ましてやホークスからの贈り物なのだから。
    俺の返答に満足したように微笑むホークス。ああ、きっとこれはまた次回に花が贈られるに違いない。

    *********

    その後も会いに行くたびに花をホークスから贈られた。花束だけではない、鉢植えや枝まで。桃の花が咲いた枝、赤いゼラニウム、ブーゲンビリア、パンジー等々。花の名前は必ずホークスが教えてくれる。なるべくメジャーなものを選んでくれているのか、俺でも名前なら知っているものばかり。そして、毎回花を渡されるたび、「嬉しい?」と聞いてくるのだ。嬉しくないわけないとわかっているだろうに。
    だが、そろそろもらいすぎだ。花は枯れてしまうから、2週間~1か月に1回いただくくらいでは寮の中が花でいっぱいになることはない。それでも、せっかくホークスからいただいた花が枯れていくのを眺めるだけなのは辛いのだ。

    「はい。これ今回の花ね。リナリアって言うんだって。かわいい名前だよね」
    「…ホークス。ありがたいのだが、そろそろ花を贈るのはやめていただきたい」
    「どうして?」
    「ホークスも毎度花を買ってくるのは大変だろう。花も安いわけではないのだから」
    「俺の給料、君が思っているよりすごいんだよ?花買うくらいどうってことない」
    「しかし…」
    「いや?俺から花もらうの。いや?」

    子供のような言い方だが、子供のようなかわいらしさはない。明らかにホークスの機嫌を損ねた。
    ホークスは何をそんなに俺に花を贈ることに固執するのか。特別花が好きだったわけではないだろうし、俺自身も花が好きだと言ったことはない。ただ、ホークスからもらう花束が嬉しかっただけだ。

    「…あなたに負担がないのなら」
    「うん。…でも、君が少しでも迷惑って思っているのなら、次を最後にするね」
    「迷惑だとは思っていない!」
    「まぁまぁ。最後の花は、なににしようかな」

    *********

    「これ、最後の花」

    そう言って渡されたのは、白い小さな花が植えられた鉢。両手の上にちょこんと乗る程度の小さな鉢植えだが、心なしか見た目より重く感じた。

    「これは何という花だ?」
    「ガマズミっていう花だよ。あんまり聞かない花だよね」
    「ああ。初めて聞いた。なぜこの花を」
    「んー。なんでだと思う?」

    言う気はなさそうだ。自分で考えてみろということか。ガマズミという花に何かしら意味が込められているのかもしれない。思いつくのは花言葉だが…。寮に帰ったら調べてみるか。ガマズミだけでなく、今までもらったすべての花を。

    「ホークス。いままで花をいただいた礼に何か贈りたいのだが」
    「うん?いいよ別に。俺が贈りたかっただけなんだし。自己満足」
    「ならばこれも自己満足だ。だが、俺とあなたでは趣味趣向が異なるので、なるべくあなたが欲するものを贈りたい」

    ホークスは自身も言っていたがいわゆる「高額納税者」の部類である。欲しいものは全部購入できるだろうし、俺のような学生が贈るものはホークスからしたら安物になってしまう。できることなら「嬉しい」と思ってもらえるものを贈りたいのは、俺だって同じだ。

    「じゃあ…花をちょうだい。なんでもいいよ」
    「花…。承知した。あなたが喜ぶものを見つけてこよう」
    「うん。常闇くんのセンス、楽しみにしてる」

    *********

    寮に帰ってすぐにスマホを取り出し、ノートを開いた。もらった花の花言葉をメモするためだ。花言葉の存在は知っているが、細かく把握しているわけではない。今はネットでなんでも検索ができて助かる。

    「踏陰ェ、今日のホークス、ナンカチョット寂シソウダッタナ」
    「ああ。この花にホークスの気持ちが込められているのだろう」

    検索エンジンに『ガマズミ 花言葉』と入れて検索を押す。サジェストに『怖い』と出てきていきなり不穏だ。一番上のサイトをタップし、ガマズミの花言葉の説明を見て絶句した。
    『私を無視しないで』
    あなたが…それを言うのか…?と言うのが、率直な感想である。理由があるにせよ、あれだけ俺の連絡を無視したあなたが?ふつふつと蘇るあのときの気持ちを、ひとまず横に置いて考える。
    私を無視しないで、ということは、それまでにホークスから何かしらメッセージがあったということだ。
    最初にもらった花は、赤いチューリップ。花言葉は『愛の告白』。…最初からあまりにもかっ飛ばしすぎではないか。否、このときはいただいた花だったのだから、意味はなかったのかもしれない。ただ、色によって意味が異なるチューリップの中で、あえて赤のみを選んだというのは。
    次にもらった花は、ひまわり。花言葉は『あなただけを見つめる』。次にもらった花は、桃の花。花言葉は『私はあなたのとりこ』。赤いゼラニウム『君がいて幸せ』。ブーゲンビリア『あなたしか見えない』、紫色のパンジー『あなたのことで頭がいっぱい』…。深いため息を吐いて、首を触る。熱い。きっと顔色がわかるなら、真っ赤になっていることだろう。

    「どういうことだと思う、黒影」
    「ソ―ユーコトダロ」

    すべてがこの花言葉のとおりだとしたら。つまりは『常闇くんのことしか見えず、常闇くんのことで頭がいっぱいなくらい、常闇くんのことが好き。なのにこの気持ち無視する気』ということだろうか。わかるわけあるか。
    最初に赤いチューリップを貰ったときに感じた視線は。ホークスからの愛の告白まがいを喜んで受けとった俺を見て、思うところがあったのだろうか。毎回「嬉しい?」と聞いてきたのは、花をもらって嬉しいかというよりは、花言葉に込められた意味に対して言っていたのかもしれない。
    もし。すべてが偶然だったとしたら、今俺が贈ろうと考えている花は、かなりホークスを困らせてしまうだろう。だがホークスのことだ、きっとわかって贈ってきている。そうでなければ最後に贈る花としてガマズミは選ばないだろう。
    ホークス。あなたの望む答えがこれであっているかはわからないが、これが俺の気持ちだ。あなたの驚く顔が早く見たいな。

    *********

    「ホークス。こちらをあなたに」
    「え?本当に買って来てくれたんだ?」
    「当たり前だろう」

    公安のカフェに来る前に立ち寄った花屋。そこはホークスの言っていたとおり、季節関係ない様々な花が置いてあり、目当ての花ももちろんあった。といっても、この花は年中置いてあると思うが。
    その店で購入した、山吹色に細い黒のリボンで包まれた小さな花束を受け取ったホークスは、目を見開いたあと、すぐにいつもの表情に戻った。見逃さなかったぞ、あれは動揺したときの顔だ。

    「薔薇かぁ。常闇くんらしいね」
    「そうだろうか」
    「ラッピングと赤い薔薇、もしかして俺イメージ?嬉しいな、ありがとう」

    ホークスは、あえてスルーする気のようだ。あなたが贈ってくれた花束同様、俺もその花に自分の気持ちを表してもらったつもりだ。赤い薔薇、花言葉は『愛』。様々な場面で贈られる花だが、一般的に愛を示すときにプレゼントされる花。
    そして、薔薇は花言葉だけではなく、贈る本数にも意味がある。

    「ホークス。薔薇の本数を数えてほしい」
    「えっと…12本あるけど」
    「3本にするか迷ったが…。あなたなら、この意味はわかるだろう」

    3本の薔薇は『愛しています』、12本の薔薇は『私と付き合ってください』。つまり、ホークスへの告白だ。
    ホークスは口を2、3回閉口して、なんとか表情を取り繕うとして、観念したのかテーブルに額を打ちつけて「降参」のポーズをした。耳から首は、左手に持っている薔薇と同じように真っ赤だ。

    「あ~。常闇くんかっこよすぎでしょ…」
    「あなたにしては随分と回りくどいことをしたな」
    「いやね、最初は出来心だったというか…。花屋の人がチューリップの色によって花言葉が違うって教えてくれて。絶対に気づかないだろうけど、気付いてくれたら嬉しいなくらいの気持ちで渡したんだけど」

    『愛の告白』の意味があるチューリップの花束を嬉しそうにもらってくれて、つい欲が出ちゃって…。顔を上げたホークスは、情けなく眉毛を八の字にして笑った。花束や鉢植えを渡すたびに嬉しそうに笑ってくれるから、まるで自分の告白を喜んで受けてもらっている気持ちになったと。

    「だから、もう花を贈らなくていいって言われたときは、なんかちょっと寂しくて…。八つ当たりみたいにガマズミを贈ってごめんね」

    ちょっと怖い花言葉だったよね、とホークスは笑うが、興味にひかれて閲覧した怖い花言葉の一覧に並ぶ花の中では比較的マシなものであったと思う。アイビーを贈られていたら、どんな反応をしていいのかわからず、相澤先生に相談していたかもしれない。

    「それで。返事はいただけないのか」
    「あ…。そうだね。ここまで来たら花で返事したほうがいい?」
    「お好きにどうぞ。いただける返事はわかりきっているので」
    「なぁに、かわいくない。もっと照れてもいいんだよ」

    あなたのいないところで存分に照れたのだが、とは言ってやらない。かわいくない、というわりにはずいぶんと惚けた顔でこちらを見るものだ。

    「それじゃあ。君が学校を卒業したら、返事の花を贈るよ。だから待ってて」
    「ああ。待っている」
    「ふふ、早く君が驚く顔が見たいな」

    幸せそうに12本の薔薇を抱き込むホークスに、こちらも幸せな気持ちになる。まさか108本の薔薇を抱えてホークスが現れ、学校中大騒ぎになるとは、このときは思いもしなかったが。
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