月夜恋歌《ツクヨミレンカ》 少女は、夢を見た。幼少の頃、幼なじみの青年と将来を約束した光景だった。
『⋯⋯ゆいのう? お兄さんとわたしはふうふになるの?』
『ああ、君と一緒になることだ。でも、その前に俺はこれから国のために外国に行くよ。戻ってきたら、また会おう』
『いっしょに遊べなくなるのは、さみしいな。でも、まっているわね』
少女と青年は指切りを交わした。夢は朝焼けの光と共に終わった⋯⋯
◆◇
少女の名前は朔夜(サクヤ)。朔夜の国は侵略され、領主の父重護は敵国に囚われ投獄の末、獄中で亡くなった。朔夜は命からがら逃れ、幼少の頃に亡くなった母方の臣下の元へ亡命し、生活を送っている。臣下の家系で友人の奈多理阿(ナタリア)の経営している喫茶『狐』(シュマリ)で従業員の木苺(ラズベリー)として、名前と身分を偽り日々仕事に励んでいた。同じく喫茶『狐』で一緒に働いているのは、親友の愛(メイ)だ。マスターと三人で店を切り盛りしている。
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