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    Sasasasana_1101

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    Sasasasana_1101

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    兄弟初心者のK快
    公式設定も時系列もバラバラしている
    黒羽海斗という兄がいます
    まだ出会いだけ

    兄弟初心者のK快「怪盗キッドの予告状ぉ?」
     学校帰りにコンビニで買った、吸うタイプのアイスクリームを啜りながら寺井の言葉を繰り返す。期間限定と銘打たれたチョコレート味は、定番より少し氷が多いだけで、味自体はあまり大差がなく期待外れだった。
    「イタズラじゃないのか?」
    「そう思いますが、似ていると呼ぶにはそっくりすぎると言いますか……」
     じぃっと白い紙に印刷された黒い文字を睨む。

    『今夜零時、運命の紫水晶を頂きに参ります——怪盗キッド』

     そう書かれた紙に使われている金色の縁取りデザインも、シルクハットのマークも、よくよく知っている見慣れたものだ。細かいことを言えば、この紙も文字のフォントも同じだろう。
    「それに、わざわざぼっちゃまの家に予告状を置いていくのは、かなりこちらを知っている人物ではないでしょうか」
     学校から帰宅して、何気なく家のポストを覗いたところ入っていた封筒。宛名もなにも書いていないそれを怪しんで寺井のところに持ってきて、今開封したところ。
    「中森警部のところにも来てなかったらしいしな……」
     警視庁に飛ばした鳩が持って帰ってきた情報を並べ、さらに首を捻る。怪盗キッドが狙うビッグジュエルに目立った動きはなし、挑戦状を叩きつける厄介な爺さんも今はバカンス中、事件吸引体質の小さな名探偵も珍しく今日は大人しい。
    「紫水晶って、アメジストだろ? そんなに高価な物なのか?」
    「それこそ物によりますが……現在の展示品にも個人のものにもそんな情報はないかと」
     だよな〜と窓の外へ目を向ける。春先に芽吹いた街路樹が濃くなり、最近は日差しも強くなってきた。まだ半袖の人は少ないが、冷たいものを食べたいと思えるくらいの気候。
     黒羽快斗の父親、黒羽盗一は怪盗キッドと呼ばれる泥棒で、彼が死んだのは事故ではない。そんなファンタジーのような話を聞き、真実を知るために自分も怪盗の道を選んだのはつい最近のこと。それでも、復活した怪盗キッドには中森警部をはじめ、かつての『ファン』から様々な贈り物が届けられた。
     捕まえてやると意気込む親愛なる捜査二課の皆様や、イタズラで身に覚えのない予告をされていたり、人殺しの冤罪だったり、それくらいなら生ぬるくて可愛らしい。
     問題なのは、父親の死の原因と考えられる組織からのものだ。顔を合わせた日からは容赦なく命を狙われる。それが自分だけでなく寺井や、幼馴染の青子に向けられたらたまったものじゃない。
    「とりあえず警戒するに越したことはねぇな」
     今晩は夜通し青子の家を監視……ではなく観察すると決める。寺井にも気をつけるよう伝えてこの話は終わり、次のショーに使いたい仕掛けへと話題が移った。


    「あと3分」
    『何も起きなければいいのですが……お気をつけて』
    「わぁってるよ」
     例の予告状が告げる時間まで、そう心に決め、外を睨んだ。自室のカーテンの隙間からは青子の部屋が見える。すでに暗くなってからかなり時間が経った。
     こちらも電気をつけていない部屋の中。真っ白なシルクハットやマントが小さなスマートフォンの光を眩しいくらいに反射させる。
    「宣戦布告なら、ちゃあんと受けないと、ね」
     父親のポスターへつぶやく。
     内ポケットの仕掛けを再確認し、息を薄く吐く。快斗が「ショー」をするときは選ばない、月の出ていない夜。自分は歓迎されていないと身体のどこかがわかっているのだろうか、何故か呼吸がしにくい。
    『ぼっちゃま、まもなく時間です』
    「おう」
     寺井のカウントダウンが始まる。
     30、立ち上がってきゅっとネクタイを締め直す。
     20、目を閉じてモノクルの位置を戻し、深呼吸。
     10、閉じていたカーテンと窓を握りしめて開け放つ。
    「……どっからでもかかってこい」
     緊張と興奮で熱った頬が、ひやりとした風で冷やされていく。

     3、2、1

     ゼロ。その声と共に、街灯と、スマートフォンの光が消える。
    「……っ」
     ぐっと、目を凝らす。暗闇なんて慣れたものだが、不自然に作られたものへ気楽に構えてられるほど平和ボケしていない。
    「ごきげんよう」
     突如、視界にひらひらとしたものが舞う。それが見知ったマントと同じものだと気がついた時、街灯が再び光を取り戻す。
    「お出迎え嬉しいです」
     そう告げるのは、飽きるほど聞いた声。そして目の前には自分と同じ、暗闇からは程遠く、そこだけ異世界にいるような衣装。
    「怪盗キッド……?」
     ロイヤルブルーの差し色が目を引く真っ白なシルクハット、同じく白い上下のスーツ、夜を思わせる青のシャツに映える赤のネクタイ、おまけに時々空気を混ぜる風を受けてひらめくマント。
     どこを見ても快斗の身につけるものと同じだった。情熱的なファンが真似をして着る、薄っぺらいものとは違って、上質でそいつのために作られたような衣装。
    「……まあ、キッドではありますね」
     そう答えた白い影ははベランダの手すりからふわりと快斗の前へ降り立つ。快斗の右手を取り、恭しく手の甲へ口付けをする動きは手慣れていた。
     ドッペルゲンガーと言われればそのまま信じてしまいそうだった「彼」は、その方がずっとよかったと思うくらい衝撃的なことを口にした。
    「お久しぶりです、快斗。会いたかった……」
     わたしの、愛しの弟。
    「へ……?」
     取られたままの右手を引かれ、彼の胸元へと導かれた快斗は、言われたことを何も理解できないまま抱きしめられていた。


    「……離れろ!」
     時間にして十数秒、だが快斗にとっては何十分にも感じられた抱擁から暴れるようにして逃げ出す。
     今できる最大限の距離を取り、トランプ銃を構えた。
    「あんた、何者?」
    「先ほど言った通りですよ」
    「俺が、あんたの弟ってこと?」
     ふざけるな、と吐き捨てる。……はじめから口調を作ることも忘れていたとどこか冷静な頭で考えた。
    「まあ、予想はしていましたが」
     白い手袋に包まれた人差し指を片頬へつけ、うーん、と芝居がかった動きで相手は考える。そこで一瞬、寂しそうに目を細めたのも演技なのだろうか。
    「おや、携帯、出なくて大丈夫ですか?」
     指差したのはスマートフォン。街灯が消えた時に切れたが、今はうるさく存在を主張している。
     指摘されてしまった以上無視することはできなくて、通話のアイコンを指で叩く。
    『ぼっちゃま! 聞こえますか?!』
    「うん、聞こえてる」
     寺井の声に答えつつ、目線は相手を睨みつけたまま。変なことをされてはたまったものではない。例えば、幼馴染の家へ上がり込むとか。
    「電話先は、寺井ですか?」
    「……」
     無言で視線を鋭くする。こいつは寺井のことも知っている、トランプ銃へかけていた指に力を込めた。
    「……懐かしい」
     そんな快斗の警戒など気にせず、一気に距離を縮めたそいつは、ぱっと快斗のスマートフォンを取り上げた。この手に慣れていた快斗にもいつ取ったのかわからない、鮮やかな手口。
    「ちょ、あんた!」
    『快斗ぼっちゃま?』
    「お久しぶりですね、寺井ちゃん。わたしです」
    『え、まさか……』
    「かいとです、うみの方」
    『……海斗、さま』
    「ええ、快斗に会いたくて、来てしまいました」
     電話先の声が、少し揺れている。そういえば寺井は、快斗と再会した時も涙ぐんでいた。
     ひとことふたこと会話をし、海斗と名乗った男が大丈夫、と何度か繰り返すのがわかった。
    『……どうか、お気をつけて』
    「ありがとう。また改めてご挨拶に伺います」
     そう告げると、通話が終わったことを伝える画面を目を細めて確認し、スマートフォンを投げてこちらへ返す。
    「寺井ちゃんの知り合いか?」
    「えぇ、まぁ、そうですね」
     正確には……と続ける彼の表情は先ほどとは違い、「無」だった。何かを耐えているのか、隠しているのか、考えていることがこちらにはわからなかった。
    「黒羽盗一、貴方の父親繋がり」
     そして、わたしの、と付け足す。
    「……どういうことだよ」
     父親の名を出されて冷静でいられるほど、快斗は大人ではなかった。ぎゅっと手のひらを握りしめて、なるべく声を平坦にするのだけで精一杯だった。
    「そのままの意味です」
     それだけ言って、薄く笑う。何かを諦めたような、失望したような、自虐的な笑み。それもすぐなくなり、『怪盗キッド』の表情に戻る。
    「……そうですね、今夜は貴方に逢えただけでよしとしましょう」
     彼の顔が近づき、額がぶつかるほどの距離になる。
    「紫水晶……良縁を呼ぶ石、ですね」
    「……ひっ」
    「明日17時、ブルーパロットでお待ちしております」
     快斗が動けないのをいいことに、彼はそれだけ言って煙幕と共に姿を消してしまう。快斗がよく使う手だ。それなのに、タネも仕掛けも思いつくのに、追いかけることができなかった。
     自室へ逃げるように戻り、窓にもたれてずるずると座り込む。
    「……兄弟、いたのか?」
     いつもの癖で父親のポスターへ声をかける。もちろん応えがくることはないが、今回はそれがとても苦しかった。


     こんなに学校にいるだけなのがのがもどかしい日は初めてだった。
    「ちょっと快斗、ぼーっとしないでよ」
    「わぁってるよ……」
     昨日心配していた幼馴染は、何もなかったかのように席についていた。さりげなく探ってみたが、本当に何も知らないらしい。
     退屈なだけの授業も、いつもはマジックについて考えてたり、次の予告の準備をしたり、時々真面目に勉強してみたりで時間を過ごすのは苦ではなかった。
     それが今日だけは違う。昨晩の兄を名乗る男……だと思う、のことしか考えられない。待ち合わせは17時と言っていたし、朝から寺井のところにいてもよかったが、その寺井に学校に行って欲しいと言われてしまえば従わざるを得ない。
    「何なんだよ……」
     小さくつぶやく。いけすかない探偵も、しつこい赤魔女も、今日は無駄には構ってこない。怪盗キッドの予告を出していないのだから当然ではあり、こちらの考え事に集中できるから都合がいい。
    「兄、ね……」
     シャーペンを指先でくるくると回す。生まれてから今まで兄弟はいないと信じて生きてきたし、性格も自由気ままだと言われる。自他共に認める一人っ子。
     強いて考えられるのは父が母と会う前に女性と関係を持っていたか、母のボーイフレンドの連れ子か。
     ……どちらもお互いしか見ていないあの両親だと考え辛いし、できれば考えたくない。
    「わっかんね」
     がしがしと頭をかいて、大袈裟にため息をつく。どうにか授業をやり過ごして、下校の合図であるチャイムが鳴り始めたと共に窓から教室を飛び出した。


    『あら! あらあら、もう見つけ出しちゃったの?』
     上がった息を飲み込みながらブルーパロットのドアを開けると、聞き慣れた明るい声が響く。
    「それならとっとと教えるべきだったかしら」
     小さな画面にはふふ、といたずらっ子のように笑う女性が映し出されている。
    「早いって……母さん、こちとら1年探してたんですよ」
     呆れた声を出しながら画面を覗き込んでいたのは自分とそっくりな声の男性だった。黒髪の癖毛、濃い青の瞳、どこか幼さを感じされる柔らかそうな頬。チェーンがついた銀色でスクエア型の細縁眼鏡が照明の光を受けて光った。
    「俺と同じ顔じゃん……」
     時計を見ると17時の15分前。どう見ても昨日快斗の前に現れた男。
    『あら快斗! 元気してた〜?』
     カメラに映ったらしい。画面の中の母親がこちらに話しかけてくる。その声と共に、持ち主である男もくるりと後ろを向く。
    「あぁ、お帰りなさい!」
     ぽい、とスマートフォンを手から離し、快斗に近づくと当然のようにハグをする。
    「ちょっ、あんた、また!」
     じたばたと暴れるが、その力は相当強い。
     背丈は快斗より数センチ高いくらいで、5センチ差あるかないか。なのにその抱擁から抜けられず、うわーと声をあげることしかできない。快斗と変わらず華奢で細身なのに。
    『ちょっとぉ? 感動の再会を母さんにも見せなさいよ』
    「ああ、はいはい」
     彼は快斗を解放すると、スマートフォンを拾い上げる。画面に自分と快斗が映るようにカメラを動かす。
    「おい、どういうことだよ。兄弟なんて知らないぞ」
     隠してたわけではないんだけどねぇ〜と悪びれず言う母親。夫婦揃って泥棒だったことを言わずに過ごしてきた人間だ。隠し事の基準がわからない。
    『だって快斗、忘れちゃってたんだもん』
    「は?」
    『その様子だと忘れたまんまっぽいわね』
     あはは、と何でもないことのように笑い飛ばす。隣の今さっき兄になった男は苦笑いだ。
    『んじゃ、母さんはこれからパーティだから。愛してるわよ、息子達♡』
    「おい、ちょっ……」
     止める声も虚しく、通話が切られたことを告げる画面に切り替わる。頬が触れるほど近くにいた男をぐいっと引き離す。ほぼ初対面の人間に対して至近距離を許し続けられるほどパーソナルスペースは広くない。
    「お二人とも、コーヒー入りましたよ」
    「ありがとうございます、寺井ちゃん」
     当然のように声をかける寺井に、それに応える男。快斗もそれに倣ってカップを用意された席につく。
    「え、なに、ほんとなの」
     コーヒーへ砂糖とミルクを適当に入れて混ぜる。黒が薄い茶色になったことを確認して口をつけてから、やっと口を開いて出た声は、思っていたよりずっと間抜けだった。
    「本当ですよ。まあ、色々複雑だけど」
     こちらもまあまあな量の砂糖とミルクを投入したコーヒーを啜りながら男は言う。
    「わたしは黒羽海斗です。漢字は『うみ』に北斗七星の『斗』」
    「同じ」
    「黒羽盗一と千景の子供です。こちらも貴方と同じ」
     はい、と出されたクリアファイル。恐る恐る覗くと、誰でも知っている大学の学生証、自動車の運転免許証、保険証になるカード、兄弟であることを証明する戸籍謄本が入っていた。
    「今年22歳。貴方を探す為に1年休学していたので今は大学3年生です」
    「ああ、そう……」
     写真の入った学生証。眼鏡をかけていないその顔は、快斗自身にもわかるくらい瓜二つだった。
    「まあ貴方なら偽造できるでしょうから、簡単に信頼はしないでしょうが」
     その言葉を待っていたかのように、快斗のスマートフォンが着信を告げる。相手はヘボ探偵こと白馬探。
    「出てあげてください」
     なにかを企んだ笑顔。仕方なく応答する。
    「……なに」
    『ああ黒羽くん、先日叔父の研究所にとある依頼が来ていたんだ。自分の兄弟を知りたいって』
    「はぁ、何でオレに」
    「調べた結果、君に近い遺伝情報だったんだ。だが、全く同じではない。つまり、君自身や一卵性双生児ではない。僕の記憶が正しければ、君は兄弟いなかったよね?」
    「……そいつの名前は」
    『君と同じ、カイト・クロバ。ええと、漢字が少し違うらしくて』
    「……ご心配どーも。それ、こっちで解決できそうだわ」
     訝しげな白馬の声を無視して通話を切る。髪の毛一本で自分と怪盗キッドを結びつけた研究所の言うことなら間違いないのだろう。
    「信じていただけそうですか?」
    「……なんか、怖いよ、ちょっと」
     いくら快斗に信用して欲しいとは言っても、準備周到すぎやしないだろうか。
     兄弟ならもう少し穏やかに会いに来ても許されるだろうし、予め言っておいてくれたら、快斗だってある程度受け入れたはずだ。
    「まあ、また拒絶されるほうが辛かったので」
    「……また?」
    「ええ。……覚えていないだけだし、仕方ないのですが」
    「その、覚えてないとか、忘れたままとか、なに?」
     そう聞くと、ほんの少しだけ目を伏せる。眼鏡のレンズが光って、その視線はよく見えない。次に目が合った時は、その表情には何も感じられず、無、だった。
    「黒羽盗一の最期のショー、覚えてますね」
    「ああ」
     忘れる訳がない。敬愛するマジシャンであり、自分の愛する父親。そんな人が命を落とすなんて、信じられなくて。その日より、その後しばらくどう生きていたかの方が覚えていない。
    「その時、貴方は私のことを記憶から消してしまったみたいなんですよね」
    「……え」
    「仕方ないとは思います。幼い精神には強すぎる刺激だった。そんなことは誰にだってわかること」
     自分のことではあるが、他人事のように聞こえる。忘れられることはきっと辛いことなのに、淡々と話す彼に、何を言えばいいかわからなかった。
    「……じゃあ何で今会いに来たんだ? 事故のあとずっと暮らすことだってできたはずだろ?」
    「あの時はわたしもかなり参っちゃって。そんな中で弟に忘れられたなんて聞いたら多分、それこそ死んでしまってたかも」
     ふふ、と茶目っ気を見せるように無理やり作った明るさ。慰めの言葉は思いつくが、原因の一つである自分に声をかけることは許されるのだろうか。
    「快斗は事故に巻き込まれて亡くなったと言われていたんです」
    「そう……なんだ」
     黙って話を聞いていた寺井に目を向けると、こくりと頷いた。嘘はないようだ。
    「オレが生きているって知ったのは?」
    「それは、おやじが怪盗キッドだと知ったからですね」
     一年前、快斗より少し早い時期に父親の秘密を知った兄は、快斗と同じように母親へ報告した。その時にしれっと弟は生きていると告げられたのだ。
    「もう、大変でしたよ……周りの人にはバレないように動かないといけないし、母さんは何も教えてくれないし……」
    「んで、大学も休んでたと」
    「そう。しばらく探してたら、怪盗キッドの噂が流れてくるから見に行ってみれば、どう見ても快斗で、本当にどうしようかと……」
     はぁーと深く息を吐いて、テーブルに突っ伏した。かなり心配させてしまったらしい。
    「……えっと、ごめんなさい?」
    「わたしの知らないところで危ないことをするのはやめてください……」
     ごめん、ともう一度言って、その癖毛を撫でてみる。自分よりちょっと硬いだろうか。
    「……これからは一緒に住みます」
     母さんにも許可は得てますし。突っ伏したまま兄は突然とんでもないことを言い出す。
    「はい?」
     海斗にとっては感動の再会で、離れたくないのかもしれない。だが、快斗にとっては突然現れた男に情報の雪崩。もう少し整理する時間が欲しい。
    「嘘だろ……?」
    「嘘じゃないです。快斗の側にいます」
     いやいやと首を振る22歳を窘める方法がわからず、いつのまにか二人で帰路についていた。
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