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    総ちゃん

    @mougen_musou

    左馬刻に狂ってる人間の妄言などのあれそれを供養する場所です。

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    総ちゃん

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    出戻り初期に書き殴った左馬刻の幻覚小説があったことを思い出していい機会なので公開します!

    本当に幻覚なのでご注意ください。
    高校の同じクラスのモブ女子視点です。
    燐火聞いてたり色々考えてたらこうなった。
    恥ずかしくなったら消すかもです。

    #ヒプノシスマイク
    hypnosisMike
    #碧棺左馬刻

    同じクラスの碧棺くん私のクラスには俗に言う不良と呼ばれる人がいる。席替えで彼が前になってからその姿を見たのはたった数回しかない。実際に話したことはないけど、たまに学校にくるといつもどこかケガをしている。みんなあいつはやばい奴だって言うけど、私は少しだけ違う印象を持っている。
     確かに教室にいることは少ないけど、授業を受けている時に彼が皆の邪魔をしたりすることは今まで一度もなくて、ただ静かに、そしてどこか退屈そうに静かに座っているだけだということを最近になって私は気づいた。


    「それでは出席を取ります」
     担任の月見里先生は毎日一人一人の名前を呼んで出席を取る丁寧でまじめな先生だった。思春期を少しだけ過ぎたこの年頃の生徒たちはそんな真面目な先生を馬鹿にするところがある。実際私のクラスでも数名の人が先生の態度を茶化すことはよくあることだった。
     五十音順でいつも初めに名前を呼ばれる男の子それが彼の名前だ。
    「碧棺左馬刻」
     一番初めに呼ばれる彼の返事を聞いたことはほとんどない。
    「は、まだ来てないか。じゃ次」
     次々に呼ばれる名前にそれぞれ返事を返す。その中に微かに混ざるヒソヒソと小さな声がやけに大きく聞こえた。
    「昨日、碧棺街で見たぜ」
    「また別の高校の奴とケンカしてたらしいぜ」
    「えー、私他校の生徒をカツアゲしてたって聞いたよ」
    「実はヤクザと繋がってて色々やべーことしてるって噂だぜ」
    「えぇ、こわー」
     きっと話している本人たちもその噂の信憑性なんて気にしていない。ただこの場にいないというだけで、好き勝手言って皆で怖いから関わらないで置こうという共通認識を植えつけあっているだけだ。
     本当のことなんて何も知らないのに、他人のあることないことを言うこの無責任な感じが私は唯一この学校で嫌いなことだった。こんなことは世の中にごまんと溢れているし、私も気が付いていないだけで同じことをしているかもしれない。
     結局自分をどんなに繕ったって私も皆と同じよくわからない人というレッテルを張って碧棺くんを遠ざけている一人に過ぎない。
     ホームルームを続ける月見里先生の声はいつでも穏やかで、朝の陽気とあいまって眠くなる生徒もいる。そんな穏やかな雰囲気を荒々しいドアの音が破った。
     真っ白な髪の隙間から除く鋭い血の様な瞳と首元を緩めた皺だらけのワイシャツに学ランに腕だけを通して羽織っただけの着崩したという言葉では片づけることができない格好の彼が先ほどまで話題の中心になっていた人物だ。
    「碧棺おはよう」
    「……っす」
     声変りをした低く少しかすれた声で小さく挨拶を返した彼はクラスの誰とも目を合わせずに私の前の席の椅子を乱暴に引くと、思いのほか静かに腰を下した。
     薄い鞄の中には教科書もノートもほとんど入っていなさそうだけど、いつもしっかり持ってくるところが意外と律儀だな、なんて思っている。
     ホームルームが終わると教室内は喧騒に包まれる。
    「碧棺ちょっといいか」
     月見里先生の呼びかけに彼は大きなため息を漏らして席を立った。教室を出て二人で何かを話している。先生はいつもと変わらずにこにことしている。眺めの髪で碧棺くんの表情を伺うことはできないが、ほとんど動きのない彼が教室のドアを開けて戻って来たので咄嗟に視線を外した。
     戻ってきた彼はまた大きなため息を吐いて先ほどよりも乱暴に席に座った。


    「今日は学校祭の担当決めをします」
     夏の息吹を感じる少し暑い日差しに緑の葉が揺れるこの時期は学校全体が熱を上げて盛り上がるイベントの準備が始まる。まずはクラスでの出し物とそれに伴う役割分担を決めていく。
     もう二年も同じことを繰り返してきたので皆慣れたもので順調に物事が決まっていく。私は人前に出るのが得意じゃないから、裏方の教室の装飾など制作担当だ。クラスのほとんどがこの担当に振り分けられるのだが、話し合いに殆ど参加していなかった、碧棺くんも同じグループに入っていた。前に座る彼は顔を伏せて寝ているのか一人関せずにいる。それをクラスの人も気にしていない。思えば二年間彼を学校祭で見かけたことがなかった様なきがする。こういうお祭りイベントに意気揚々と参加するような感じには見えないが、ふと今まではどうしていたんだろうかとそんなことを考えた。だからといって私がどうこうするわけではないけれど。
     それから学校内は日に日に熱気を上げていく。すっかりお祭りムードになりつつある構内の雰囲気に対して、私の前は空席が増えた。最後にあの少しけだるげな背中を見たのはいつだろうか。
     このまま学校祭が終わるまでその姿を見ることはないのかもしれない。





     生徒が授業を受けている静かな時間が僅かに心の休まる時間である。保健教師をしていると基本的にあまり休みの時間という感覚も少ないが、一番はなにもなにことが一番だ。
     基本的に救護室のドアが開くことは少ない方がいいと思っている。
     ガラッと開いた扉の方を見るとよく見る男子生徒が立っていた。勝手知ったる場所だということもあるのだろうずかずかと室内に入ってくると真っすぐに空いているベッドに向かう。
    「碧棺くん、保健室の扉はもう少し静かに開けましょう」
     いつもの決まった言葉を掛けると、舌打ちでも飛んできそうな顔ですんませんと謝罪の言葉が返ってくるのではじめこそは驚いたが今ではそれが微笑ましい。
    「最近は寝れていますか」
     その問いかけに対してすぐに返事が返ってことないことが何よりも現状を明確に教えてくれている。
     担任の月見里先生からは彼の家の事情を聞いているし、初めて会ったときの荒々しい態度に比べれば今は随分と丸くなった。両親を早くに亡くした彼はまだ小学生の妹と二人だけ暮らしている。生活の主をまだ高校生である彼が支えるには大変だろうことは誰にも容易に想像できることだ。どこか大人びて達観した考えを持っているのはその家庭環境があってのことだろうと思っている。本来学校の教師である私が一人の生徒と深く関わることはあまりいいこととは言えないが、ここで放ってしまってはきっと後悔することになると僅かな教師経験で思った。
     だから彼がこの場所に来ても怒らないし、少しでも居場所になっているのならそれでもいいのだが近頃はその頻度が特に高い。
    「そろそろ学校祭の季節ですね」
    「……」
    「碧棺くんのクラスは何をするんですか」
    「さぁ知らねぇ」
     ベッドに寝ころんだ彼の方に向き直って表情を伺いつつ尋ねる。
    「準備とか参加していないんですか」
    「俺がいなくても勝手に進む」
    「それはそうでしょうが……」
     参加しないことが当たり前になってしまっている彼にとってはこの現状が悲しいという気持ちはないのかもしれない。それでも全体的にお祭りムードになりつつある空気はやはり居づらいものなのだろう。だから最近保健室にくることが多いのか。
     良かれと思って提供しているこの場所はいい意味で逃げ場所になっているが、それがクラスや本来参加するべき権利のある事柄からも遠ざかる言い訳になるのは本末転倒だ。
     せめて学校という閉鎖的になりつつあるこの空間の中で一つでも楽しかったかもという思い出があれば、後々彼が思い返したときに悪くなかったと言えるものになればいいと思う。
    「これは三十路のおばさんからのお節介だけど、たった三年しかない高校生活一度くらいこのお祭りに参加してみる気はありませんか。楽しい思い出ばかりではないかもしれませんが、君が大人になったときに思いかえせば悪くなかった、そう思えるだけでいいんです」
    「今日は、よく喋るな」
    「えぇ、そうですね。ところで碧棺くん、あなた歌は好きですか?」




     学校祭まで一週間をきるとみんなの熱量も最高潮になりつつある。それと同時に締め切りが迫る漫画家のごとくありとあらゆる準備がうまく進行していないという現実が背中に迫ってくる。
     名前の羅列だけを見るとたくさんいる制作担当で実際に作業をしている人は殆どいない。教室装飾は殆ど完成していない中で、全く間に合う気がしない。
     私だけが焦りに駆られている。
     必要な材料を両手に抱えて運びながらこれからどうしたものかと頭をぐるぐると回して廊下を歩いていた。
    「わっ」
     角を曲がった時に考えことをしていたのもあって人がいることに気が付かずにぶつかってしまった。手にもっていた荷物が崩れて落ちてしまう。
    「わぁ、ごめんなさい。ぼーっとしてて、ケガは……」
     相手のことを見て言葉の続きが尻すぼみしていく。今まで一度も話したことのなかった、私が最近勝手に気にかけている彼その人だった。
     鋭い瞳はかなりの身長差が私から見ると睨まれているようにも見えた。もしかしたらこのまま殴られるかもしれいなんて体が強張る。
    「あ、あの」
    「悪りぃな。俺のほうこそ前見てなかったわ」
    「え」
    「これ全部一人で持っていくのか」
    「え、はい。そうです」
    「一人じゃ重いだろ。俺も持っていくわ」
    「え、でも」
     おどおどとする私に、何も言わずちらばった荷物を適当にかき集めて持ち上げると廊下をスタスタと歩いていく。その姿に唖然としていたが、急いでその背中を追いかけた。
     騒ぎ声が聞こえてくる教室になんてことのないように入ると、先ほどまでのざわめきが一瞬にして消える。
    「あ、ここで大丈夫。運んでくれてありがとう。あとぶつかってごめんなさい」
    「いや、それは俺も悪かっしな。じゃ」
     色々なことがあって頭の整理がつかない中で、その背中が消えて少し経つとまた教室内に喧騒が戻ってくる。友達が数人集まって、私のことを心配してくれたが、どんな返事をしたかも覚えていない。ただやっぱり思っていたよりも悪い人ではなかった。それだけが強く私の記憶の中に残った。

    文化祭当日なんとか形だけは整えた教室の装飾にて私の仕事は殆ど終わりを迎えた。ゆっくり学校祭を楽しもうと配られたプログラムを昨日部屋で眺めていた時に、有志発表の欄に碧棺左馬刻という名前を見つけて大きな声を出して母親に怒られた。
     有志発表は体育館のステージでバンドを組んでいる人が歌を披露したり、ダンスを披露したりと各クラスの展示と肩を並べる盛り上がりを見せるイベントの一つだ。
     そこにたった一人の名前が乗っていて、まさか歌を歌ったりするのだろうかと考えたがなんとも想像することができなかったが、気になって体育館に足を運んでいた。
     彼の出番はお昼近くの時間だが他に行くところもなくて、文化祭が始まってからずっと体育館で学年も毛色も違う歌やダンスをずっと聞いていた。
    「あ、次だ」
     体育館の中はかなりの人でごったがえしていて、人の熱気とライトの熱でかなり蒸し暑かった。司会の生徒が次のプログラムの紹介をする。
    「次は三年生、碧棺左馬刻さんによる発表です」
     一度暗くなったステージの中心がパッと照らされる。マイクが一つとパイプの椅子が置かれていた。袖からアコーギターを抱えた彼が静かに出てくる。いつもと違って学ランは羽織っていなくて、ワイシャツの袖をまくって見える腕が思いのほかしっかりとしていることに驚いた。
     わずかに起きた拍手に私も精一杯手を叩いた。
     ギターを足の上に乗せてうつ向きがちに弦を弾いた。普段の彼からは想像もできないような優しい音色にその場にいた人がたちまちに引き込まれていく。
     息を吸い込む動作すら目を奪われる。
     そっと零すように出された声は今までに一度も聞いたことのない優しさと寂しさを含んでいた。手元に落とされた視線がこちらを向くことはない。それでもただ一人を照らすライトの落とす光と浮かび上がる影がその存在を強く、強くその場にいる全員に知らしめる。低く、丁寧に紡がれるワンフレーズに命を吹き込むように紡がれるメロディに全員が彼に釘付けになっていた。
     私は彼の抱える事情も生い立ちも、何が好きなのか嫌いなのか、何一つ知らない。それでも今彼が全身で表すこの歌にフレーズに今までの全てが乗っているそんな気がした。
     少し静かになった後に、底から這い上がってくるように盛り上がりに肌が立つ。ギターの音と低くでも雑音のない綺麗な伸びのある力強い声が体育館に響く。
     あぁ、彼は歌が好きなんだ。そして言葉を大切にする人。
     一つ一つの音に、文字に命を乗せるようなそんな歌だった。
     最後まで一度もこちらを見なかった瞳が、演奏を終えてちらりとこちらを見た。それは不安と少しの気恥ずかしさを感じさせる等身大の彼自身だった。
     どこからともなく、響いた小さな拍手は次第に大きくなっていく。割れんばかりの大きな塊となってびりびりと鼓膜を震わせた。
     少しだけ安心したように小さく笑った彼は礼もせずにギターを持って袖へと消えていった。


    「ねぇ今度中央区主催のラップバトルが開かれるんだって」
    「見たよ。どこのディビジョンもいいよね」
    「ねぇ、どこ応援してる?」
    「私はMADTRIGGERCREWかな」
    「えっ、意外だね」
    「そうかな? 私、憧れている人がいるの」
    「へぇー、なんかいいね」
     高校を卒業したあと彼がどこで何をしていたのか、私は何も知らない。次にその名前を見たときにただ、あの頃と何も変わっていない彼があの時よりもとても楽しそうにのびのびと言葉を音に乗せる姿に学校祭の姿が重なった。
     それからずっと私は碧棺左馬刻のファンなのだ。
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