日々ふ、と意識が浮上する。
目を開けると、部屋は薄暗くて、まだ朝では無いのだとわかる。
寝袋の上で寝返りを打てば、がさりと何かがどこかから落ちるような音がして、ものだらけの散らかった部屋にため息をつく。
ぼんやりと開けた視線の先には、線の細い背中が縮こまって小さく上下していた。
なんとなくその背に手を伸ばし、肩に手をやり、無理矢理こちらを向かせると、うう、と眉根を寄せ小さく唸った。
つ、と大瀬の目尻から涙が伝い、頬を滑り落ちていく。
それを親指で拭ってやると、大瀬は薄く目を開けた。
ぼんやりと俺を見て、特に何か喋ることも無く、すり、とその手に僅かに擦り寄ってまた目を閉じてしまった。
すうすうと寝息をたてだした大瀬に、俺もつられて目を閉じる。
手探りで大瀬の骨ばった手を探しだし、強く握りこむと、弱い力で握り返される。
すこし荒れた爪を親指の腹で撫でて、俺は意識を手放した。
こんこんこん、とドアが控えめにノックされ、ふみやさん、起きてますか?と聞き馴染みのある声がする。
あの声は天彦だろう。
すぐに開けてこないので、特に急ぎの用事では無いだろうが、勝手にゼリーを食べたことがバレたのだろうか。
俺の膝の上で体育座りをしてぼんやりしていた大瀬がもぞ、と動いた。
目を隠すように降ろされた前髪の隙間から、金色の目が俺を伺うように覗き込む。
バツが悪そうな顔をして、少し悩む素振りを見せた後、大瀬はふるふると小さく首を振った。
俺はそれに返事も頷きもせず、読んでいた本にまた視線を落とし、読書を再開した。
すると、大瀬はほっとしたように息を吐いて、くたりと肩を落としてまた俺の腕の中に収まった。
ドアの前の気配は、おやすみなさい、と穏やかに告げて、静かな足音と共に消えた。
ごろごろ、と雨雲がぐずる、未だにおそろしいその音に、はっと目が覚める。
すぐ側で丸くなって眠っている大瀬を起こすように肩を乱暴に掴み、縋るようにしてその肩口に顔を埋めた。
ぐっと息を詰めて、ぐずつく雨雲の音に黙って耐えた。
時折、近くで落ちたそれが、唸り声のような、怒鳴り声のような音を轟かせ、その度に、捕食者に睨まれた被食者のように体を縮こまらせた。
かっ、と一瞬光る瞼の裏が、思考を許さない間隔で鳴る轟音が、酷くおそろしかった。
そのおそろしさは、大瀬からする染み付いた油絵の具の匂いを感じることも、意外とあたたかい肌の感触も、全て麻痺させるようで、なんの凌ぎにもならなかった。
耳だけが過敏に音を拾い、いやに響くその音を、頭の中で何度も反芻してはきつく瞼を閉じる。
何時間ともとれるような、地獄のような時間だった。
ふと、がちがちに緊張していた肩に、あたたかい手のひらが触れる。
その手は俺の肩に迷いながらも優しく触れて、おそるおそる撫でた。
俺はその薄い肩口にぐいぐい顔を押し付けて、遠ざかった雨雲のかわりに、ぐずってやった。