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    fnmhyf

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    ファウネロ週末ドロライ遅刻です。すみません。22時くらいに思いつきました。お題は「宴」「大好き」です。

    それにしたって「んじゃ、ファウストがくじ引きで一等をとったことを祝して、乾杯」
    「乾杯」
     今日も今日とて二人で晩酌をしている。透き通った紅色の綺麗な葡萄酒を手に入れたから、翌日に予定のないこの日に飲もうと少し前から話していたのだ。魔法舎の子どもたち主催の魔法舎パーティが昼間に開かれることにはなったが、夜は空いているはずだからと、特に予定をずらすことはしなかった。
    「君は何等だったっけ?」
    「俺は五等。おっきな景品は四等までだから、参加賞だな」
    「キャンディか。君も作るのを手伝ったの?」
    「そう。だからミチルが申し訳無さそうにしてさ。一緒に作ってもらったのにって。別に良いのにさ」
    「良い子だな」
    「な」
     二人は和やかに笑みを浮かべ、グラスを傾ける。優しい話題で飲むのに相応しい、どこか可愛らしい味の美酒だった。どちらともなく美味いなと言って、相手へ注いでいく。
     作ったと言っても、キャンディは溶かして固めただけだった。色の鮮やかなお気に入りのキャンディを持ち寄り、砕いて寄せて模様を作るのだ。ネロは場所を簡単に整えて、子どもたちが火傷をしないかどうかを気にしていたくらいだった。その他にもクッキーやケーキを作ったが、それだってほとんどの作業を子どもたちが担った。
     子どもたち主催の魔法舎パーティというのは、見た目には普通のお茶会とほとんど変わらないものだった。しかし実は、子どもたちが授業や生活で学んだこと、成長したことを披露する場を設けようという賢者とルチルの提案により催された「発表会」でもあったのだった。魔法で大きなものを動かして会場を整えたり、丁寧な字で招待状を書いたり。ここ数日は主にリケとミチルがいきいきとしていた。
     くじ引きというのも「発表会」の一環であった。これまでの経験を活かして素敵な景品を作ろう、ということなのだ。
     今も二人の座るテーブルへ、一等の景品が飾られている。
     白い鳥の形をしたオーナメントで、幸運操作の魔法が掛けられている。持ち主にささやかな幸運をもたらす作用がある。手渡された景品を見て、感心げに「よく出来ているな」とファウストに褒められたミチルとリケは、頬を紅潮させて喜んでいた。
    「ほんとによく出来ているよ。ミチルもリケも真面目で優秀だ」
     ファウストはネロのつまみに手を伸ばしながら、しみじみと言う。
    「先生の得意分野だっけ」
    「そうだ。以前少しだけ、彼らに教えたことがある」
    「なら、あんたに渡すのは緊張しただろうな」
    「ふふ、そうだな。およそくじ引きの景品を渡す顔ではなかった」
    「あはは。賢者さんもルチルも、良いこと考えるよな」
    「まったくだ」
     準備して、成功させる。頑張ったことを褒められる。それはとても良い経験になる。ネロは、真剣な表情でお菓子作りをしていた二人の姿を思い出す。数日前、二人は厨房のネロを訪れ本を開いて見せた。
    「この魔法のお菓子を作ってみたいんです」
    「僕たちで作ります。ここを使っても良いですか?」
     それは魔法のビスケットだった。「気持ちを伝えるビスケット」という名前のレシピである。クリームを挟んだビスケットで、見た目は普通のお菓子なのだが、食べると製作者の声でメッセージが伝わるという。
     ビスケットで挟むクリームの上に、魔法をかけたチョコレートでメ伝えたいッセージを書いて蓋をする。そんなに難しいレシピでもなければ魔法でもない。二人はきちんと、自分たちで作れるものを探してきたのだ。もちろんネロは快諾した。厨房は広いので、自分も作業をしながら二人を適度に見守ることにして。
    「君もお疲れ様」
    「ん?」
    「パーティのクッキーやケーキ。あと、手土産のビスケットも。君だって手伝ったんだろう?」
    「ん〜いや。そんなにしてないよ」
     二人は自分たちで頑張っていたから。
     とはいえ、ちょこちょこ手助けはしたし、質問には答えたし、危険がないか気を配りはしたが。
     ファウストはそれを見抜いているらしく、優しく労いに瞳を細めてネロを見た。
    (この人のこういうとこ、好きなんだよな)
     子どもたちからもお礼は言われていたし、そう負担だったわけでもない。けれども、こうして些細な労を気遣って貰えるのは、やはり嬉しい。
    「チョコレートで文字を書くのがさ、思いの外難しかったらしくて」
    「うん」
    「ああいう料理本って意外と親切じゃないんだよな。溶かして絞り出す……くらいにしか書いてないわけ。さも簡単そうにさ。それで出来るんだと思ったら、熱すぎたり冷たすぎたり、手早さが必要だったりするんだよな。そういうのってやったことないと難しいよな」
     二人は数種類の菓子を作ったが、手際が良いとは言えないまでもほとんどなんとか自力で作り上げていた。ネロはメレンゲの固さやオーブンの癖についてアドバイスしたくらいである。しかしチョコレートの字の工程だけは少々長めに付き合うことになった。
    「ネ、ネロさん。お手本見せて貰えませんか?」
     そう言われて、いくつかの言葉をトレーの上へ絞り出して見せた。チョコレートの湯煎温度も監督した。
    「う……ネロ、ビスケットのクリームの上へ描くのが難しいです。見せてください」
    「はいはい」
     ビスケットの上へも描いて見せた。
    (あれ? ちょっと待て)
     葡萄酒を片手に、リケとミチルとの作業を思い返していて、ふとあることに思い当たった。顔に出ていたらしく、ファウストが首を傾げてみせた。
    「どうかした?」
    「いや……」
     ネロは空いた手を口元へ寄せる。
    (待て、待てよ)
    「ネロ?」
     ネロはスッと顔を青ざめさせてファウストを見上げる。
    「ファウスト、不味いかもしれない」
    「何があった?」
    「あった……」
    (俺が描いてみせたビスケット、最終的にどこやった? まさか捨てはしないし、あの二人は食べてないし俺も食べてないし)
    「死ぬかもしれない」
    「は? 死?」
    「いや死にはしないかもだけど」
    「いいから何があったか言え!」
     普通に考えて、可愛い子どもたちの声で「いつもありがとう」「良いことがありますように」「大好きです」と聞こえてくるのを期待してビスケットを喰み、可愛げのない大人のネロの声が聞こえてきたら驚くはずだ。面白がる者が大半だろうが、怒る者もいるかもしれない。
    (ミスラとか。気持ち悪いっていって殺しにくるかも)
     それでなくとも恥ずかしすぎる。
     ネロは青くなったり赤くなったりしながらファウストに説明する。身を乗り出して真剣に聞き始めたファウストは、中盤から腰を降ろし呆れた顔になった。
    「君が死ぬなんて言うから何事かと思えば」
    「ごめんて……でもきつくない? ほんと無理。今すぐ全部回収したい……」
     ネロはグラスを置いて頭を抱えている。ファウストはため息をついて、一口酒を含んだ。確かに、自分がネロの立場なら同じようになっているかもしれないと思った。
    (でも、僕じゃないからな)
     他人事だと思えば、正直なところ少し、面白い。
    「なんて書いたの?」
     ネロが押し黙るので、これは相当恥ずかしいことを書いたのだろうなと察した。とはいえ悪い言葉を書くわけがないので、死ぬなんてことはないだろう。喜ばれるのも恥ずかしいだろうが、酷くてせいぜい冷笑される程度ではないか。
    (僕が聞きたかったな)
     ファウストは機嫌よくグラスを眺めた。揺らめく透き通った紅色の向こうに、しょぼくれたネロがいる。
    (だって、可愛いじゃないか)
    (君からのメッセージを聞いたよ、嬉しかった、ありがとう、と言えば、きっと照れて可愛いネロが見られる)
     明日、どの時間にか、どの魔法使いからか声を掛けられて赤くなったり青くなったり照れたりするネロ。
     ファウストはそんな光景を想像して、少しだけ不快を感じた。
    (僕が見たい)
    「あ」
     互いの心の内はさておき、静まり返っていた室内にファウストの声がポトリと落ちた。ネロが顔を上げる。
     ファウストはテーブルの上の白い鳥を見つめている。
    (あるいは)
     ファウストはネロへ向いた。
    「君の話を聞いて、僕は君のが僕に当たれば良いと思ったのだけど」
    「な、なんで……?」
    「可愛いと思って」
    「……あんた結構酔ってるだろ」
     ファウストはふふと笑った。ネロがテーブルを見ると、ボトルはほとんど空いていた。
    「手土産のビスケットを貰ったのは、この白い鳥を貰った後だったろう」
    「うん?」
    「とすれば、すでに幸運操作が働いていた可能性がある」
    「ううん」
    「だから……」
     ファウストは白い鳥に並べて置かれている小さな包を手に取った。美酒に酔ってはいても、中身を取り出す所作は丁寧だ。
     ビスケットが二人の間に置かれた。
    「これが当たりかもしれないよ」
    「ええ……それって」
    「うん?」
    「……いや、なんでもない」
    (それってつまり、俺のビスケットがあんたの幸運にあたるって言ってんの?)
     ネロはいやいやと首を振った。
    (ありがとうとか、良いことがありますように、とかならまあ、あれだけど)
    「あ」
     考えている内に、ファウストがビスケットの包を剥がし、口を開けていた。
    「ちょ、早……」
    (だって、よりにもよって、「大好き」って書いたんだし、それってさあ)
     サク、と音を立ててビスケットが欠けた。ほんのりと甘い香りがした。
     ネロは固唾をのんでファウストを見ている。
     ファウストは無音で咀嚼し、目を見開き、ネロを見返した。じわじわと顔が赤くなる。
    「……おれのだった?」
     恐る恐る聞くネロに、ファウストはただもぐもぐと口を動かす。飲み込んでしまったら、ネロの問いに答えなければならない。ファウストはもぐもぐと口を動かす。脳内には咀嚼音と、木霊するようにネロの声が響いている。

    (ここで頷いたら、つまり僕は、)
    (ここで頷いたらつまりファウストは)

    (ネロ(俺)から大好きだって聞きたかったということになるんじゃ?)

     いやいやいや。

     とうとう飲み込んでしまった。ファウストは口元を抑え、小さく咳払いをした。なんとなく、ネロももう察していた。
    「……君のだった。いや、そう、“君の担当したビスケットを引きた”かったわけだから、よく出来た幸運操作魔法だな」
    「……ああ、俺の担当した、やつ、うん。あいつら凄いな」
    「良い子たちだ。真面目で、優秀で……」
    「うん、可愛いし、」
     大好きって言葉じゃなくて、ネロが担当したということが重要なのである、と協力して話を持っていく。
     なんとか子どもたちの話題にかえて、残りの酒を干して、つまみも空にして、手を振ってお開きにした。
     相手の姿が見えなくなって、くたくたと力が抜けた。
     翌日は二人して寝不足の体だったという。

    「それにしたって」


    《完》


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