虹色の箱庭①「——よし。」
開け放ったベランダから初夏の少しぬるい風が吹き抜ける午後、ジャンはダイニングテーブルを占領するジップロックの作り置きの料理を段ボールへと詰めてガムテープを貼り終え一息吐き出す。
宛名は地方へ単身赴任中の夫の住所、ぺたりと貼り付けたそれに「食品」とだけ書いて換気扇の轟々と音を立てるキッチンでぼんやりその箱を見下ろす。きっと冷凍庫の隅で眠りに眠ってゴミ箱行きのそれをせっせと形だけ詰める自分の馬鹿らしさにジャンは一人、先程よりずっと深く深く息を吐いた。
ジャンは26歳、大学卒業と同時に年上の恋人と結婚してもう4年、夫が単身赴任を始めてもう2年経っていた。まだ新婚と言ってもおかしくない筈の自分達は既に熟年夫婦の様にどこか、隙間風が吹いている。
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