「そうだ、サイトウくん。先にお風呂へ入りたいですよね?」
「はい?」
いきなり背後からリョショウに話を振られ、振り返ったサイトウは上擦った声を上げた。
どうかと問われれば今すぐ風呂に入りたい、というのがサイトウの希望だ。追手から逃げる道中で汚れた服も着替えてしまいたい。
口を開いたサイトウの返事を待たずしてリョショウが今度はシンパチへと向き直った。
「シンパチくん、庭で薪を割ってお湯を沸かしてきてくれますか?」
「分かった、俺に任せろ!」
ぐるぐると肩を回して廊下を走り去っていくシンパチに、サイトウの口からは「えっ?」と戸惑った声だけがこぼれた。
状況に付いていけないサイトウを置き去りにして次はツタンへ顔を向ける。
「ツタンくん、あなたの小川までそう遠くはありませんよね? 僕は朝ご飯を釣ってくるとしましょう」
「いや、ちょっと」
「いやあ、腕が鳴りますねぇ。こう見えて釣りには自信があるんですよ、僕」
はははは、と笑いながらリョショウも廊下を駆けて屋敷を出ていく。引き留めようとして持ち上げたサイトウの手が行き場なく墜落した。
「……あのさ、ツタン。あの人いつもあんな感じ?」
「あんな感じでござりまする……」
申し訳なさそうに縮こまるツタンと屋敷の中へ取り残され、サイトウは仕方なくため息を吐いたのだった。