羽虫の一生「すみません、ライオス。今日は用事があって」
カブルーは申し訳無さそうに眉を下げると、一礼をしてからあっという間に執務室を去っていった。今日中に片付けておくべき案件は無い。加えて、カブルーは明日休暇の予定であったので、タイミングが良いかと食事に誘ったのだが、結果はこの通り撃沈に終わってしまった。ライオスにとってタイミングが良いということは、つまりカブルーにとっても同じことが言えるので、直前で誘えば彼の予定が既に埋まってしまっていることは、よく考えれば当然であった。
しょうがない。仕方ない。都合が合わなかっただけ。そう言い聞かせてはいるが、実は今のようにカブルーがライオスの誘いを断ったのは、今回で三回目となる。しかも、連続しての三回だ。これは流石に、鈍いと言われるライオスにも分かる。カブルーの都合が合わないのは偶然ではない、故意だ。
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