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    今回は友人として楽しむ日突然カラス銀行の連中に連れてこられたのは、南の島。
    日本のように湿度ある暑さではなく、カラっとした空気で海から流れてくる風も気持ちがいいものだった。
    まぁ連れてこられた際のやり方は、人さらいのような感じではあったが、話を聞く限りはもてなしの意を組んだものらしい。
    「日々命を懸けてギャンブルを行ってくださる皆様に、ひと時の休暇をお楽しんでほしいのです」
    ここに連れてくるために、目隠しと後ろ手で縛ってきた銀行員は、朗らかな口調でそう言ってきた。

    解かれた目の前には、真っ青な輝くばかりの海が広がり、照りつける太陽も負けじと輝いていた。腕の縄も解かれたところで、横から声をかけられた。

    「あなたも連れてこられたのか」
    聞き覚えのある声に振り向けば、見たことのない恰好をしている村雨が立っていた。
    「お前、その恰好どうしたんだよ?」
    涼しげなテーラードジャケットのセットアップに、首に揺れる王冠をモチーフにしたネックレスが嫌に目についた。

    「途中で無理やり着せ替えられた。あなたもだと思っていたが、その洋装は自前か?」
    そういや途中着替えさせられたなと下を見れば、連れてこられる前に着ていた服装と様変わりしていた。
    「なんだこれ!? 何の柄だ?」
    ただのワイシャツなのだが、上下の色が違っていて、青空と砂漠のようにも見える。
    背中側も見れないかと首を動かすが、まったく見えなくて諦めてしまった。すると、陽気な声とともに首に軽い感触が乗ってきた。

    「獅子神さんは王冠モチーフの服なんだね」
    「真経津じゃねーか」

    ニコニコ顔の真経津が、俺たちと同じように見慣れない恰好をして現れた。
    「他にもいるのか?」
    「村雨さんも着いたんだね。うん、あっちで叶さんも天堂さんもいるよ」
    真経津の指さす建物を見れば、確かに二人の姿を確認できた。
    手を振れば返してくれたので、少しだけ場の雰囲気にテンションが上がっているのもあるが、嬉しく感じた。

    「でも、よく彼の着ている服が王冠だと分かったな」
    「だって獅子神さん以外のみんなは、アイテムとして王冠モチーフのアクセサリーを身に着けているんだ。だから分かったんだよ」
    「へ~、なんで俺だけ違うんだろ?」
    「そりゃ、メインが獅子神さんだからでしょ?」

    当たり前のように話す真経津と、普通に納得している村雨に、また一人だけ思考が置いてぼりになる。
    「なんで俺がメインなんだよ」
    「そんなの決まっているじゃない! だって今月は獅子神さんの誕生日がある月でしょ?」
    「!?」
    確かに今月の8月に誕生日を迎え入れるが……そんなはずないだろうと横を見れば、眠たそうな目をした村雨が微かに笑みを浮かべだした。

    「信じていない事をありありと顔に出しすぎだぞマヌケ」
    「いや、だって、銀行がなんでそんなことするんだよ」
    「それは僕たちが、たーーーーっくさんお願いしたからだよ」
    純粋そうな真経津の笑顔に、人間性を少なからず知っている俺からしたら裏が読み取れてしまい、少しだけ銀行側に同情した。

    「南の島に来る事態はいつでもできるけどね」
    「ギャンブラーとして呼びつけられない保証がなかったからな」
    なるほど、だからお願いをしたのか。

    「ちなみにこれって日帰りか?」
    「ううん、五泊六日!」
    「……他の奴らはともかく、先生よく休めたな」
    「他の人間だったなら、まず来ようとも思っていないな」
    村雨は手を伸ばして俺の頬を掴み、強い力で急に引っ張られて前のめりになる。

    「あなたを祝うときに、私が居ないほうが不服だからな」
    「……そうかよ」
    思っていなかった言葉を貰い、顔に熱が走る。
    そんな時に後ろから衝撃を食らい、見れば真経津がしがみついてきていた。
    「村雨さんだけずるいよ! 僕らも獅子神さんをお祝いするためにいろいろ準備したんだからね!」
    分かりやすく怒っている真経津を見てから横目で村雨を見れば、考えていることが伝わったのか、しぶしぶという風に手を離してくれた。
    村雨から離れることができた俺は、真経津に向き直って軽く抱きしめてから背中を叩いた。
    「ありがとうな。俺ダチに祝われることあんまりないから、嬉しいわ」
    俺の言葉に一気に機嫌のよくなった真経津は、先に二人のところに戻ると駆け出してしまった。

    「……こう見るとあいつって犬みてぇで可愛いよな」
    「なんだ? 犬のような愛らしさが好きなら、私も犬らしいことができるが?」
    「なに年下に張り合おうとしてんだよ」
    村雨の不機嫌そうな顔に笑っていると、腰を撫でられる感触がして、ビクリと固まってしまった。
    「今回はやつらに譲ろう。本番さえ私と二人っきりなら文句はない」
    まるで舐めまわすような目と触り方に、先ほど過ぎ去った熱がまた顔に集まりだす。
    「祝って……くれんの?」
    浅ましい俺は、確実な言葉が欲しくて、ねだるように腰に置かれた手の上に、自らの手を置いて強請る。
    「ああ、あなたが望まなくても、全身全霊で祝わせてもらう」
    まるで可愛い子犬のワガママを聞き入れるように、とろけた目で見られてしまい、きゅっと喉が鳴ってしまった。

    目をそらせずにいると、遠くから三人の呼ぶ声が聞こえて、逃げるように村雨の元を離れた。
    後ろから揶揄うように村雨もついてきて、振り返れない俺は耳を赤く染めながら、先に三人の元へと辿り着いたのだった。

    (おわり)
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