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    失礼な言葉のチョイス、あまり動かさない☔の表情により
    「あ、俺きらわれてるわ」って思っていた🦁の話。

    村雨に嫌われてると思ってた獅子神の話真経津に呼び出され、学生間での違法賭博場で知り合ったお医者様は、どうやら俺の事が嫌いな様子だった。




    初対面のとき、当たり前のようにイカサマを仕掛けてくる学生たちを、叩き潰して磨り潰すように返り討ちにする真経津と村雨を見て、知ってはいたが上には上がいると再認識を行っていた。

    「ダイスの癖をあんな一瞬で見抜くなんて、本当にお前ら人間か? サイボーグとかじゃねーよな?」
    「ちゃんと人間だよ。僕も手を貫いて血を流してみようか?」
    「…サラッと俺のトラウマを抉ってくんなよ」

    ファーストフード店で出されたドリンクのストローを噛みながら、きゃらきゃらと笑うトラウマの元をたしなめつつ、注文したサラダのレタスを口に運ぶ。
    付属していたドレッシングの味に、まぁこんなもんだろうなと下し、極力落としていると視線を感じた。
    その視線は値踏みの意味を大いに含ませ、選定を受ける側の居心地の悪さを受けるには十分な不躾なものだった。
    こういう視線は昔から向けられていた。好意であっても嫌悪でもあっても、一定の人間よりも受けやすい立ち位置に自分はよく晒されていた。
    今と昔では含まれるものはだいぶ異なってきたが、素知らぬふりをして受け流せるくらいには大人になった。
    だから化け物を身に宿す村雨についても、受け流すつもりだった。

    「あなた……」
    「ん?」
    「尻がデカすぎないか?」
    「…………」

    無言で真経津に向き直り、殴っていいかと拳を握って見せれば首を横に振られる。

    「座っている椅子の安価なつくりを見ても、はみ出ている肉が私たちの倍以上ある」
    唇の端にあるハンバーガーでついた汚れをふき取りつつ、指を向けてくる村雨に頭を抱える。
    「人間って、耳が聞こえなくなると常識も消え去るのか?」
    「村雨さんは元からこんな感じだよ」
    付け合わせのポテトをつまむ真経津の言葉に、だろうなと返しながら村雨を見る。
    「今俺がこいつに何言っても聞こえないなら、怒っても仕方ねェってことか」
    「聞こえないが、だいたい言いたいことは分かる」
    「分かるのに言っちまう時点で最悪だろうが」

    つまりは、だ。
    わざわざいうほどに村雨は俺のことが嫌いということか。
    別に他のギャンブラーと率先して仲良くなるメリットなんかない。元々村雨は真経津の知り合いであって、俺は今日が初めて会っただけの男だ。……でも。

    真経津に呼ばれたメールの内容を思い出した。
    【今すぐここに来てね。ドレスコードがあるところだから】
    地図のURLが添付された短い文面は、トラウマの元ではあったが、必要とされていることだけは分かった。
    だから期待してしまった。対等よりも上の存在に必要とされていると。
    着いてみれば、自分よりも強いギャンブラーがいて、悲しくなる気持ちを誤魔化すように叫び、惰性で近くで卓を見ていた。
    そこで初めて会った確実に上の存在であるこいつに、他の奴よりマシだと言われてみろ。
    喜ぶなというほうが難しいだろ。

    でも、あんな掃き溜めみたいな奴らと比べたら、そりゃカラス銀行のギャンブルに正式に参加している者は誰でもマシに見えるものだ。
    右手の薄くなった皮が引っ張られるように感じて、机の下でさする。
    今後会うこともなさそうだなと、付け合わせのトマトを口に運んだ。











    支援していた事業団の打ち合わせに呼ばれ、コンサルとまがいのような事を求められ、素人意見だが……と述べつつ思ったことを伝えていると、スラックスのポッケに入れていたプライベート用の携帯が震えた。
    そこに表示された文字にすぐに出るべきか、打ち合わせ後に折り返すかを数秒考えて、目の前の相手に断りを入れてその場を離れた。
    3コールで切れた着信の履歴を辿って折り返す。

    「……よぉ、どうした村雨せんせ」
    「遅い、何してるんだ」
    「普通に仕事だよ」
    電話口でも不機嫌丸出しの男に、眉を顰められないやつはいるのかと疑問に思う。
    村雨は初めて会ったあの日から、予想に反して定期的に電話を架けてくるようになった。

    初めて電話が架かってきたとき、教えていないのに何故知っているんだと聞いたら、真経津に聞いたと何の感情も載せない声で返された。
    人の個人情報を簡単に渡した真経津を、今度殴りに行くことを心に決めて村雨の話を聞く。
    曰く、耳の治療が終わり、ちゃんと話ができるようになったことを伝える為だったらしい。
    「な、なるほど? 完治、おめでとう」
    言いたいことは分かる、ただそれを教えてくれる理由が分からなかったが、一応返事を返せば相手の期待した言葉じゃなかったようで、溜め息をつかれてしまった。
    いや、溜め息ならこっちがしてーんだけど?
    なんて返せる訳もなく、言われるがままに電話帳に登録を命じられてしまった。

    それからは、何かあれば3日に1回の頻度で架かってくるようになった。

    「仕事……、あなた今日の内容は午前中に終わると言っていなかったか?」
    「よく覚えてたな。いや、話すことが出来たからまだ終わってないだけだ」
    「…………チッ」

    舌打ちをされた意味が分からなくて、思わず携帯を耳から話して文字盤を見てしまう。
    この男はずっとこうだ。初対面から失礼なことを言う割に、勝手に電話を真経津に聞いてるし、電話を架けてくるくせに、出てもちっとも楽しそうではない。
    相手の気持ちがひとつも分からなくて、どう対処をすれば分からずに頭を抱える。

    でも、こういう嫌いな人間にかまってしまう心理は前に情報として見たことがある。嫌いだからこそ相手が何をしているか気になるし、自分を脅かす可能性がないか探りたくなるらしい。
    好きと嫌いは表裏一体ともいうし、どちらの感情も相手の行動が何かしらチラついて落ち着かなくなると言えば、同じということになるのだろう。

    真経津は俺に懐いて……、たまに馬鹿にされてるなって思うが、大まかには懐いてくれてると判断できる事を伝えてくれているので、真経津と会うことが多くなった。
    その際に村雨もいることもあるので、あっちとしては真経津に近づく俺が気に食わないといったところかなと検討を付けていた。
    自分自身、まともな交友関係を築いているかと言われると目を逸らしたくなるので、同じように村雨も友達が少ないと勝手に思っている。
    その中でできた真経津の横にいる弱い俺が不愉快と思われてしまったら、納得せざるおえないとも思っている。

    でも、嫌いなら関わらないほうが、精神的にやばくないかと逆に心配になってきた。
    ニュースなんかも、嫌いな奴だからこそストーカーになったとか、嫌いな奴だからこそSNSの内容を監視してしまうだとか、苦手なものを見ようとしてしまう人間は大勢いる。
    そんな人間の心理がまっとうかと言えばにべもなく、不安定でもろいものだ。
    村雨は嫌なことを言ってくるだけで、昔俺が関わってきたやつらよりも実害は少ないのでましだと思っている。なので電話に出るだけで村雨が落ち着くならまぁいいかと出続けていた。

    「舌打ちされても、しょっちゅうあることだぜ」
    「あなたの仕事は時間が定められているものでは無いからな。だが、マヌケな相手に付き合い続ける義理もないだろう」
    「逆に時間が定められているはずの村雨は、今、何連勤目?」
    「……まだ9連勤だ」
    「現時点での月の残業時間は?」
    「……見ていない」

    もう、この時点で働き方に対して注意を受けるべきはどちらかか、おわかりいただけただろうか。
    成人して1,2年の真経津に、こんなことを言えない大人の考えも分かる。だからこそ嫌いでも俺に電話を架けてくるのだろう。
    たぶんこの人、兄か姉が居たタイプかなぁと検討を付けている。

    「それならせんせ、俺に電話架けてないで、少しでも休みなよ」
    貴重な休憩時間であろうこのタイミングに、電話を架けてないでさ。という気持ちで提案をしてみただけである。

    「……電話は迷惑か?」
    何十回目にして電話を架けられて今更な単語に、開いた口が閉じられない。
    「私は、楽しいゲームや遊びを知らないし、出かけることもないから、そういう場所を知らないから誘えない」
    びっくりしすぎて村雨の言葉が、耳を通って脳を滑っていくので理解ができない。
    俺がマンガのキャラなら、漫画家の利き手じゃない方で描かれた落書きレベルに作画崩壊してそうな気がする。
    咄嗟に太ももを強めに抓って現実かどうかを確認する。……イテェ…ッ

    「電話も、登録を促したが架けるのは私ばかりだ。たまにはそっちから架けてくれてもいいだろう」
    「ぽあ……」
    まるで拗ねたように聞こえる声に、口からおよそ言葉とは言えない言葉が出る。
    この電話口の相手は誰だ? 村雨の声色を似せた真経津と言われた方が納得する程の言葉たちに、変な汗が額や背中を流れる。

    あ!もしかしてこいつ。
    「もしかしてお前、そんな連勤の中でギャンブルに行ったんじゃねーだろうな⁉」
    あり得るのは、銀行のギャンブルを行った代償が村雨の身体に出ているのではないかということ。
    真経津もこいつとの脳破壊の音楽を聴いた代償のせいで、聴覚は大丈夫だが、脳への損傷のせいで鼻血が出やすくなったと言っていた。

    俺が説教をせんばかりに聞けば、電話口の村雨は今まで聞いたことないくらい笑っていた。
    相手の笑いが引く20秒間くらいに、見当違いなことを聞いた自覚だけを理解して耳が赤くなるのを感じた。

    「笑いすぎだろ……」
    「いや、すまない。大丈夫だ。銀行の招集も今のところ無いからな」
    言葉の端にまだ笑いが含まれていることに気が付いて、唇を噛む。
    「今のせんせ、嫌いだわ俺」
    「無理だな。やっと攻略法を見つけたからな」
    俺は知らないうちに、村雨の診療台に乗り上げていたことを知った。

    「とりあえず、本日の19時以降の予定を聞いても?」
    今の時間が午後二時で、どう頑張っても仕事の話し合いを五時間も引き延ばすのは難しい。
    でも、素直に頷くのは癪なので、知らねぇと吐き捨てて電話を切ったのだった。


    (つづく)
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