失敗した、と冒険者は内心で呟いた。
声に出したところで、勢いづいたエメトセルクはおそらく言葉を止めはしないだろう。
ことの発端は街角で小耳に挟んだ噂だ。恋人の愛情は互いに言葉にするほど長続きするものだという、よくある些末な話だった。素直さを遥か古代に置き去りにしたらしい、元・闇の使徒の顔が浮かんだのも致し方あるまい。愛情表現が率直な言葉になることはほぼないと言っていい人種である。行動や表情でこれでもかと受け取ってはいるが、どう考えているのか知りたくないと言えば嘘になる。更に言えば、冒険者は好奇心一つで国を越え海を越え、果ては世界さえ越えてしまうような人間である。一度気になってしまった以上、放ってはいられなかったのだった。
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