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    u_tn_hobby

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    5/28 COMIC CITY 大阪にて頒布予定の草芹+サダイジン小説のサンプルです。
    A6/全年齢/70ページ

    同棲している草芹の元に突然現れ、しばらく二人と暮らす宣言をしたサダイジン。
    気まぐれな猫の神さまに翻弄されつつのんびり過ごす二人と1匹の日常(ちょっぴりシリアスあり?)です。

    【5/28 COMIC CITY大阪 新刊サンプル】そうたとともやとサダイジンサンプル①

    バイトからの帰り道。途中で合流した芹澤と共に自宅へ帰り、家のドアを開けた瞬間だった。
    いつも通りの、何も変わり映えの無い自宅だと言うのに、玄関のドアの向こうはまるで異世界のような、踏み入れてはいけないような、だけど気を抜けば身体が持っていかれそうな、心をかき混ぜられるような感覚がした。
    そして、俺はこの感覚を知っている。幾度もなく経験したこの空気は、そう、まるで後ろ戸となってしまった扉の前に立った時の、後ろ戸の向こうに広がる常世を覗いた時に纏う空気そのものだった。
    しかし、何故自宅が_?自宅のドアが後ろ戸になっている気配は微塵も感じない。鍵だって反応していない。後ろ戸ではないけど、常世と等しい何かがこの部屋にはある。
    閉じ師としてそれなりの経験をしてきたつもりだったが、こんな現象は初めてだった。じいちゃんからもこんな話は聞いたことない。
    いずれにせよ、この現象に太刀打ちできるのは閉じ師である自分だけだろう。芹澤には申し訳ないがしばらく家から出ててもらわねば。先に家に上がった芹澤に声を掛けようと、少しばかり重たい足を動かし、家の中へ入った。

    廊下を進めば、すぐに芹澤の姿は見えた。リビングの入口に立っている。…立っている?何故中にはいらないのだろう。後ろからでは表情の全てを見ることはできないが、部屋の中のある一点を見つめたままピクリとも動かない。
    ということは、その部屋に何かが…?

    「、芹澤?どうした、部屋に入らないのか?リビングがどうかしたのか?」

    俺は努めて普段通りを装い、芹澤に声をかけた。返答がどうであろうと、あれこれ言いくるめて外に出ていってもらうつもりだった。
    だけど芹澤は俺の声には一切反応せず、部屋の中を指さしながら「あいつ、」と言ったきり口を閉ざした。芹澤のただならぬ様子に、ツゥ、と背筋に冷たい汗が流れた。芹澤は一体何を見たのか。部屋の中は一体どうなってるのか。もうこうなったら、腹を決めて己の目で確かめるしかない。ゴクリと唾を飲み込み、胸元の鍵を握りしめた。意を決して、芹澤の後ろから部屋の中を覗き見る。
    電気の消えた、いつも通りの部屋。
    真ん中にローテーブル。壁際にテレビ、その反対側にはソファ。
    そのソファの上に、黄緑色の目を光らせた、真っ黒な猫がゆったりと座っていた。

    「そうた、ともや、おかえり」

    可愛らしい子どもの声がした。



    サダイジンは体を小さく丸めて、恐る恐るといった様子で俺の顔を見上げてきた。

    「サダイジンといっしょ、いや…?」

    ぺしょ、と耳が垂れ下がり大きな瞳に涙をいっぱい浮かべ、消えそうな声でそう言われて断れる人間がいるだろうか。少なくとも俺は、ぎゅんと縮んだ心臓を抑えながら「嫌なわけない」とサダイジンを抱きしめることしかできなかった。数秒前の俺よ、その葛藤は無駄だ。隣で芹澤も、胸のあたりを抑えながらのけぞっていた。一緒に暮らしてどうこうとか、何のためにとか、そんなことは今はどうでもいい。この可愛い生き物と一緒に暮らす、それだけでQOL爆上がり間違いなしだ。まぁ、お礼のほうはなんだかんだでサダイジンの可愛さに絆される形で了承したので、あともうひとつの理由、お詫びについて聞いてみる。正直なところ、俺を勝手に要石にしたことを詫びに来たのであればダイジンが来るべきではないか?と思う。その事をそのまま伝えてみたら、「ダイジンはすずめのところにいる」と返ってきた。あぁ、なるほど。そういうことなら納得するしかなさそうだ。
    突然のダイジンとの再会に驚きと喜びを隠せず、ダイジンを抱きしめキャアキャアと騒いでいる鈴芽さんの姿が用意に想像できた。

    そんなこんなで、突然男二人暮らしのところに一匹同居人が増えようとしている。


    ーーー


    サンプル②

    「ん、んん…ぅ、いま、なんじ……」
    何となく寝苦しくて目が覚めた。まだぼんやりと視界がぼやけたまま首を捻り辺りを見渡す。どうやら枕から頭が落ちて、変な姿勢になってしまったらしい。窓の方と見ると、まだカーテンの向こうは暗く、夜明けの気配すら感じない。休日にそんなに早起きする道理はない。あと何時間寝れるだろうか、と時間を確かめるべく自分のスマホがあるであろう場所へと手を伸ばした。

    もふっ

    しかし、手を伸ばした先で触れたのはスマホではなく温かく柔らかい毛並みだった。
    芹澤の頭か?と一瞬浮かんだが、芹澤の髪は染色を繰り返した代償でややゴワゴワパサパサしている。こんなにふわふわでは無い。そうとなれば答えは一つ。

    「そんな所で寝ているのかサダイジン……」

    もふもふの毛並みの正体はサダイジンで、俺と芹澤の枕を堂々と占領して気持ちよさそうに眠っていた。枕から追いやられた芹澤はというと、俺と同じく枕から頭が落ち、すっぽりと布団を頭から被るような形になっている。ただ、こちらも気持ちよさそうに眠ったまま起きる気配は無い。まぁ、それで寝れるのならいいけど…

    「え…じゃあ俺のスマホはどこ…?」

    とりあえず手が届く範囲を触って見るが、スマホらしいのもは見当たらない。でも確かに、枕元へ置いていたはずなのだ。そう枕元に…。
    いや待て、その、俺がスマホを置いたはずのその場所、枕元には、今何がある?
    もう一度手を伸ばす。
    もふっ
    うん、間違いない。
    俺のスマホがあるであろう場所には、今サダイジンが鎮座している。まさかとは思うが…。サダイジンの腹の下、俺がスマホを置いていたはずであろう場所に手を突っ込む。
    そしたら、あった。
    手に馴染んだ、無機質な感覚が。
    その筐体を掴み、そっと引き抜く。あぁ、良かった。俺のスマホだ。
    ほんのり温かいスマホの画面にパッと表示された時刻は午前2時すぎ。うん……まだ全然寝れるな。
    残りの睡眠時間が充分に確保できたことに安心し、また寝るための体勢に入る。ところで、当初の問題が解決していないことを思い出した。
    そう、俺が快眠するための枕が無いのだ。
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