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    dailykibic

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    オチがつけられなかったので未完です

    ちょぎゅめ1歳センイルパーティーwithシウォンおにいちゃん(キュヒョンおにいちゃんはお仕事)シウォンが玄関のドアを開けると、白い小さなぬいぐるみが入口で待ち構えていた──キュヒョンの家に来たのだから彼の「弟」であるところのギュメがいるのはおかしくないのだが、かれはてっぺんにキラキラと光る丸い飾りをつけた三角の帽子を被り、シウォンに向かって小さな手を振って何かをアピールしている。シウォンは靴も脱がずにコートを手に持ったまま、首を傾げつつジェスチャーの意味を汲み取ろうとする。ギュメは声こそ発しないがこちらの言うことは理解しているようだし、逆にかれの言いたいこともなんとなく伝わってくる。果たしてぬいぐるみに意志があるのか、こちらがそうだと思いたい答えを勝手に読み取っているのではないかと問われるとシウォンも違うとは断言できないが、そもそもぬいぐるみがこんな風に勝手に動き回っているのを自然に受け入れている時点で真剣に考えるのは無意味だと思う。放棄ではなく受容だ。神がそうあれと願うのではあれば、人の子は首肯するしかないのである、
    さて、ギュメは自分の頭の上にちょこんと乗っているパーティー帽とシウォンを交互に指し、ジャンプして、部屋の奥に誘う素振りを見せている。なにかしらを祝いたいことは見当がつくがギュメに関係があるとするとキュヒョン絡みかギュメ自身のものに違いない。3月、3月、とシウォンは呟きながら頭の中の手帳をめくる。3月8日、と比較的早く今日であるところの日付に思考が及んだところで、暗がりからふらふらと何かがこちらに向かって飛んでくる。小さくて丸いそれは上に下にと空中を移動する様子からして紙飛行機のような落下に伴う推力ではなく何かしらの揚力で浮遊しておりつまるところ翼が生えているようだった。ふらふらと覚束ない足取り──羽取りだろうか?──でシウォンに近づくころにはそれが持っているものが見えてくる。
    それ──便宜上、「御使い」と呼んでいる丸い飛行物体もまたキュヒョンを模したぬいぐるみのひとつだ。自分たちのグループの20周年を祝うグッズとしていつの間にか生まれており(思い出そうとすれば顔のデザインのようなものを提出した記憶までは辛うじてたどり着けはするが)シウォンの家でも真っ赤な鼻と黄色の王冠が縫い取られたマスコットがあるじの不在の間にKorian Heraldを熱心に読んでいるはずである。
    キュヒョンの御使いは円らな瞳と右目の下の黒子、口元にかすかな笑みを浮かべているのが印象的だ。シンプルな描線なのにギュメといいなんだか妙に本人に似ているのでシウォンは無条件にかれらのことも慈しんでいる。
    ギュの御使いはフレームの上部にHAPPYBIRTHDAYとアルファベットとケーキがデザインされた派手なサングラスをシウォンの手の上に落とした。ふう、と疲れて肩から息を吐くかのように丸い体をぎゅっと縮めてから1.5倍ほどに膨らませて戻り、紺色の刺繍糸で縫われた目でじっとシウォンの顔を見ている。
    自分もキュヒョンも、誕生日は2月だった。
    「今日、誕生日なのか。ギュメくん」
    ネ!と極々ちいさい囁きがシウォンの耳に届いた気がする。途端に玄関に他のギュメのバリエーションが集まってくる。灰色のうさぎの着ぐるみを被ったもの、ペンギンを被ったもの、体毛がピンク色のもの……そのどれもがパーティー帽を被ってぴょんぴょんと跳ねている。祝え、と言っているのは明らかで断る理由もないのでシウォンはまずは手を洗わせてくれと丁寧に伝えてやっと家に上がった。
    洗面所から出てきたシウォンは真っ暗なリビングにミラーボールのきらびやかな光が飛び交う光景を目の当たりにして言葉を失う。ビンゴの景品かなにかでもらったというミラーボールはキュヒョンも物珍しさで数回つけてみたきりで部屋の隅に置かれていたはずだ。シウォンの手のひらよりも更に小さくて中身は綿のギュメにおもちゃとはいえ機械を引っ張り出してくるほどの力があるのかと訝しむ間もなく、台所の方からえっちらおっちらと、やっと歩き始めたくらいの子と同じ大きさのシルエットがやってくる。
    大王ギュメはその名の通り、他のギュメたちよりもはるかに大きいぬいぐるみだ。パウダービーズ入りの身体は吸い付くような手触りの布と相まってさわり心地がよく、特に疲れているときなどはシウォンは膝に乗ってきた大王ギュメの適度な重みと温かさでうたた寝してしまうこともしばしばだった。大人が抱えるほどの大きさのかれであれば、ミラーボールを設置してコンセントをさすくらいは余裕だろう。
    そんな大王ギュメが、もちもち、ぽてぽて、と擬音をつけたくなるようなゆったりさで何かを手に持って歩いてくる。ちかちかと忙しなく瞬く光の中でシウォンが目を凝らすと、それはイタリアンでよく見るようなスクエアの白いプレートで、そこには当然、誕生日ケーキが載っているのであった。
    やっとテーブルの近くまで来た大王ギュメからプレートを引き取ってやり、テーブルの真中に置く。ギュメの顔を模したケーキにはご丁寧にローマ数字の1の形をしたろうそくも添えてあり、アルファベットのA、原始のアルファのロゴはキュヒョンが所属する事務所のマークに違いなかった。
    「火を点けるから、ミラーボールを消しておいで。……ああ、こら、近づかない。燃えてしまうよ」
    シウォンはアロマキャンドルを置いている飾り棚からマッチを持ってくると、ギュメが近寄りすぎないように注意しながら蝋燭に火を灯す。
    ギュメたちは歓声こそ上げないものの思い思いに体を動かして喜びを表現しているようだった。シウォンは口角を上げ、スマートフォンを構えてケーキと蝋燭、不思議なぬいぐるみたちを撮影して、ガラス細工を手にしたときのような目の色でかれらを見つめる。1歳の誕生日を誰が祝ってくれたのか、そのときの表情や空気を記憶しておけるのは羨ましい。人間には聞き取れない音量か、もしくは独自の言語かでぬいぐるみ同士こしょこしょと盛り上がっている様子と、やわらかいオレンジ色の炎と軽い煙の匂いに不意に郷愁を誘われて涙が出そうになる。浮かれたサングラスをかけてセンチメンタルな気分を追い払い、ロウが垂れてしまう前に誰が吹き消すのかをギュメたちに問う。われもわれもと名乗りだすかと思いきや、ギュメたちはわらわらとケーキを取り囲み、みんなでシウォンの方を見て、ケーキを見て、同時に青い御使いがぺちっとシウォンの後頭部にぶつかってきたかと思うとぐいぐいと前に押してくる。
    「俺も参加しろって?」
    ネ!ネ〜!のささやかな大合唱。ふーふーと口を尖らせて吹き消す練習をしながらキャッキャと笑っている。
    「……せーので消すんだよ、いいね」
    せーの、とシウォンの合図で蝋燭の炎がくらりと揺られて消える。羽のある御使いが部屋の電気をつけると、自然と拍手が湧いた。
    待ちきれなかったように、一番最初に生まれた──と言ってよいだろう──白い体にカフェオレ色の耳のギュメがケーキにかぶりつく。それを機にみんなが群がり、大きさ故にテーブルの向こうで近づけない様子の大王ギュメのためにシウォンが慌ててフォークでひとくち分をすくい取る。

    ケーキの跡地となったプレートをギュメたちが再び取り囲んでじっとしている。どうしたのかとシウォンが首を傾げると、うさぎの被り物をしたやや大きいギュメが困り顔で──実際に表情が変わるわけではないが、そうとしか思えない雰囲気を強く感じる──シウォンに頭を下げる。周りのギュメたちも心持ち俯いて、言葉にするなら「しょんぼり」といった雰囲気だ。気ままな青い天使がふらりとシウォンの視界に入り、つられて目で追うと空っぽの皿に降り立った。シウォンの前にセッティングされている。
    「…………ああ、俺が食べてないんじゃないかって?」
    こくこく、とうさぎの被り物をしたギュメが頷く。よく見ると口の端に生クリームがついているので、シウォンは微笑みながらそれを拭ってやる。


    (未完)
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