しんと静まり返る天高き陰の下。互いの呼吸まで聞こえてくる静寂はかすかな音でさえ逃さず吸収し、やがて消えてなくなる。等間隔でつるされるシャンデリアは、ともるささやかな明かりを火のようにちりちりと揺らめかせている。
厳かな空気がつつむ中、中央にまっすぐ敷かれた赤い絨毯の上をしずしずと奥へ進みゆくふたつの姿。腕を組んで歩くふたりはどちらも真白い衣装を身に纏い、片方はブーケを手にし、片方はジャケットの胸ポケットにブートニアを差している。それはともに淡いピンク色をした薔薇の花。
やがて歩みを止めたふたりを照らしだすは、四方の天井高くまでほどこされた見事なステンドグラスからそそぐ光。青や赤を基調としたそれは、何百年も昔に作られたとは思えないくらい繊細な作りをしている。聖書にちなんだイエス・キリストの物語を描く壮大な連作は、背から差しこむ天からの光を受け、あざやかな色を地上にもたらす。息を飲むほどに美しいその情景は『聖なる宝石箱』と呼ばれる所以にふさわしい。
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