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    ※うらあかちゃんネタ

    蛍よ、こい「随分と月島くんは古い歌を知ってるのね」

     口ずさんでいた歌を音楽の先生に聞かれて、月島は思わず、恥ずかしさのあまりに顔を赤らめてしまった。「誰かに教えてもらったの?」と聞かれて、首を横に振る。

    『蛍こい、あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ』

     この歌は親に教えてもらったわけでもなく、テレビで聞いたわけでもなかった。ふとした瞬間、月島の頭の中でこの歌が流れるのだ。物心ついた時から、薄らと聞こえていたその歌は最近ではちゃんと歌詞がわかるくらいには聞こえるようになっていた。特に風邪を引いた日など、意識が朦朧としている時にはより近くに聞こえる。

     あまりにも昔から聞こえるせいか、不思議と怖い気持ちはなかった。しかし段々と近くに聞こえ、遂にはっきりと自分の後ろにいるような距離で聞こえるようになった時、流石に恐怖を感じるようになり、歌をシャットアウトするようにヘッドホンをするようになった。

     それでも夏の時期になると、この歌を思い出す。さすがに合同合宿で四六時中ヘッドホンをつける訳にはいかず、事情を説明しても馬鹿にされるだろうと思い、つけずに廊下で一人歩いていると、最近では聞こえてなかったと言うのに、ふとあの音楽が聞こえた。すぐ後ろにいる。振り返ったらダメとわかっているのに、勝手に顔が後ろを向こうとする。

    『蛍こい、あっちの水は苦いぞ、こっちの水は____』
    「あ! チョットそこの! 烏野の! メガネの!」

     ふと歌が止んだ。月島は声がした方を向く。そこには音駒のキャプテンと梟谷のキャプテンがいた。

    「ちょっとブロック跳んでくんない?」

     これ以降、夏合宿であの歌が月島の耳に入ってくることはなかった。夏合宿の時だけではない。黒尾と出会ってから長らくあの歌が聞こえてくることはなくなっていた。

     一種の思い込みや状況が重なって起きていたただの事故だと思うことにした。以前テレビで色んな出来事が重なり、銀歯を介してラジオの音源を拾ってしまい、幻聴のように耳鳴りし始めたなど、人体は思いもよらないところで奇跡を起こす。“あの歌”もそのような類だったのだろうと思う。

    「蛍、今日は通り道しようか」
    「こっちから行った方が近いじゃないですか」
    「いや〜そうなんだけど、もう少し外でデートしたくて。夜だから人通りも少ないし堂々と手を繋げるなんて機会、昼じゃあないじゃん?」

     月島は黒尾からそう言われ、頬を赤らめて「仕方がないですね」と通ろうとした道から逸れていく。黒尾はありがとうと言って、月島の後ろに一瞬だけ目を移した。

    『あゝ、をしかった』




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