簪、目簪、目
坤は細長い金属の棒を陽に翳す。
高くなった陽は棒の先端の赤い物をキラキラと光らせた。
「おや、良い品だ」
坤は聞き覚えのある声に驚いて、声の方に顔をやった。
背負子を背負った坤の師が立っている。
「お帰りなさいませ」
坤は言って、ぺこりと頭を下げる。
仕事に出たのは数日前だ。長丁場だから比較的難しいものだったのだろうと坤は師の足から頭までを見つめた。浅葱の衣も頭巾もいつも通りに汚れや破れはなく、指先から顔、足まで見える部分に怪我もなさそうである。
「お疲れですか」
坤は師の化粧の施された美しい顔を見て言う。
「お前こそ、色々と大変でしたか」
「え」
「色々となんというか」
師は言いながら、坤の隣、小さな橋のヘリに座り、櫛を取り出した。
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