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    2017rinrin

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    2017rinrin

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    最後です。ここの文章がどうしても消せなかったので、供養という形でアップロードすることにしました。

    うなななが同居する話3(終)元旦の翌日の晩、僕は大樹より先にもう一つの家に帰った。
    部屋を開けるとひんやりとして少し埃っぽかった。暖房を入れる前に寒いのをしばらく我慢して、窓を開けて換気をしながら湯を沸かす。家で洗濯を済ませた着替えをタンスに詰め、コーヒーを入れたその香りで、そういえば僕は緑茶の方が好きなんだったと思う。この家で緑茶を飲むときは大樹がいつも淹れてくれてたんだった。だから僕はお返しだというようにコーヒーを淹れる。それが癖になっていたようだ。
    たまにはと、砂糖を入れて甘くした。酷く眠くなる。飲み終えて横になり、瞼を閉じた。このまま眠ってしまいそうだ。
    例えば、大樹と二人でこの部屋に閉じこもって鍵を閉めて、ずっと外に出ずにいたらどうなるんだろう。もうどこにも行かないようにしようねと笑って、今日は月曜日火曜日水曜日と、家事分担表を指で指す毎日。困った大人たちは怒るかな。かわいい後輩たちは心配するかな、協力してくれるかな。目を開ける。棚と床の間に見えるホコリ。僕たちはちゃんとそれだけの日数この部屋で二人で生活したんだ。二人で掃除して取り除かなくては。ドンドンと戸を叩かれて、それに耐えられても家賃の支払いがストップして、電気もガスも水道も止められたら。そうしたら、もう無理かなあ。太子くんなら物知りだから何かいい案を出してくれるかも。あぁ、でも新学期が始まったら部室にお菓子を届けないと。あと、卒業式には出たい。でもそうしたら大人になってしまうかもよ?やだなあ、だって大人になったら大樹は……。

    朝起きて大樹がいつも寝ている方に寝返りをうっても、昨日出しっ放しにした折りたたみテーブルだけが置かれている。何か連絡が来ていないかスマホを見ると、お土産でもらったお菓子の美味しい食べ方が一六くんから届いていた。鏡太郎くんがLINEのグループにあけましておめでとうとメッセージを出していて、それを他の三人が遅いよとツッコんでいた。スクリーンショットを撮ってそれを眺めた。大樹からは何も届いていなかった。
    適当な味噌汁を作って、それと夜に炊いておいた米を食べて、太子くんから借りた本を読み進め、それからしばらく少しだけ眠った。
    その間に大樹からメッセージが一件届いていた。ただ一言、『何時に戻れるかわからない、ごめんね。』それだけだった。
    本を読み終えて感想を太子くんに送る。『そうなんですよ、先輩ならわかってくれる気がしていたんです、勧めて良かったです』なんだか彼らしくない勢いのある返信がすぐに返ってきて、つい声を出して笑ってしまった。
    届いていたレシピ通りに、一六くんからのお土産を昼飯がわりに食べた。コーヒーにもよくあいそうだと思ったので、大樹にも後で教えてあげよう。

    大樹と初めて会話したのは、おそらく入学してすぐ。髪に桜がついてるのを取ってもらった時だったか。いや、入学式後にバイバイって手を振られた時だっけ。どちらにせよ確か、掴みにくい男だと思った気がする。
    あまり良い印象がなかったからなのか、アイスクリームを作り終えて、ハイタッチした時に触れた手の温かさとか、楽しそうな笑顔とか、それからは、やけに強く覚えている。この人なら、何年もそばに居られるような気がした。妙な感覚。
    シンクにたまった皿をまとめて洗いながら窓の方を見る。朝はまだ晴れていたのに、パラパラと雪が降り出してきた。大樹は寒い寒いって震えながら頭を少し白くしてここに帰るのだろう、可哀想に。
    コーヒーを淹れるために湯を沸かし彼を待ち続ける自分を想像して、スポンジを持つ手が止まる。
    ここに帰る?本当に?
    大樹の家のことはあまりよくわかっていない。悪く言ったことは一度もなかったし、きっとずっと愛されてきたのだろう。大樹の要求が簡単に飲まれたこの部屋も、きっとそれを証明している。
    そうだけど、そうだけどさ。
    二人だけで初めて寝た初日の晩のことを思い出す。
    大樹、大人になったら、っていつの話をしたの?進学したとして、そこを終えたら?20歳になったら?高校の卒業式を終えたら?もしかして、年が変わったからもう大人になったの?
    そうだとしたら、さっきから僕は何をしているんだろう。大樹が帰らないなら、こんなところにいる意味がないじゃないか。それを僕は温めて綺麗にして、いつ戻ってきてもいいように。
    ふと、監禁されているみたいだと思った。
    鍵を外からかけられたわけじゃない、出ようとすれば簡単に出られる。それなのに、どうしてもここから出られない。部屋の扉を見つめたって開かないし、自分以外に誰もいない。変わらずテレビのニュースが流れて、皿がぶつかったときのかちゃかちゃした音、水道、自分の息、エアコンの機械音が部屋を構成する。大樹、どうしてこんな遊びに僕を誘ったんだ。
    流れ続ける水を手にさらし、冷静になりましょうと自分のことを制する。大丈夫。
    そんなに気になるなら聞けばいいだろと他人になら言う。自分のことになるとそれがどうしてもできないと思う。
    悔しい、何も言えない。何を言っても大樹の気を引きたい言葉になってしまいそうだ。
    ふと、さっき開いた冷蔵庫の中のことを思い出す。そうだ、夕飯。帰ってくるなら夕飯の買い物が必要だ。今日ここに帰ってくるのか、からにしよう。帰ってくるなら大樹の分も作るからって、それだけで十分だ。お皿を洗い終えたらすぐにメッセージを送ろう。思えば未だに1枚も洗い終えてない。
    スマホの画面が光った。
    一度手を洗い、急いで表示されたメッセージを確認する。大樹からだった。
    『帰れそうです。そろそろ着くよ。薔薇を買ったから花瓶を用意して待ってて』
    心が嘘みたいに跳ねて手が震えた。抑えて、素っ気なく一言、『了解』と、それだけ返してスポンジを持ち、皿洗いに戻る。
    ずっと待っていた、欲しかった大樹のメッセージだった。帰ってくるってさ、薔薇を買って。

    本当に馬鹿みたいだ。結局、僕は悔しい思いをしている。嬉しくて、悔しい。
    美しい思い出があれば大人になっても幸福でいられるなんて嘘だ。過ぎた日々は少しずつ角が取れて、当たり障りないものになってしまう。今だけだ、今しかないのに。こんな、ちっぽけな時間。だってもうすでに僕たちは2年前の2人でアイスクリームを作ったあの時間、楽しかった瞬間のことしか頭に残っていない。今、1人で皿を洗ってどうしようもなく大樹だけのことを考えている、この惨めな時間も彼が薔薇を抱えて部屋に入った瞬間無かったことになる。全部全部圧縮されていく。それも悔しい。僕は全部全部欲しいし、手の届く範囲に大切に置いておきたいのに。
    ずっと別に知らなくていいと思っていた。僕だって自分のことを全部話したわけじゃない。3年だけの付き合いだろうと思って、それだけで、春からどこに行くのかも聞けなかった。数日、一緒にいると約束された時間を投げられて、それだけでこんなにも寂しいだなんて思わなかった。
    「聞かなきゃ」
    次に顔を見たら、聞かなくては。大樹、春になったらどこに行くの。今まで何してたの。
    全部聞いてみたいと思っている。何も教えてくれないかもしれないし、今までと違うことをして、もしかしたら嫌がられるかもしれないけれど。
    明日は晴れだとテレビが言ってる。薔薇を飾ったらまだ開けてもいない望遠鏡を出して、星を見よう。それで小さな浴槽にバスボムを入れて、それと、あと、あれと。
    大変だ、二人でやりたかったこと、全然できてなかったみたいだ。聞いてほしい話も、聞きたい話も山のようにある。手元の皿が滑って落ちそうになる。逃さないように力を入れた。
    花瓶なら昨晩から出してたよ。換気して掃除機もかけて、窓も拭いた。帰ってきて寒かったら可哀想だから部屋もあたためたんだ。おままごとに真剣になってるんだ、バカみたいだろ。
    全部、全部、今だけのため。お前のためだぞ。
    チャイムが鳴る。
    早く、七緒、ただいまって聞かせて。
    忘れられない時間を丁寧に作らなきゃ。スポンジを投げて泡だらけの手で玄関まで走った。
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    2017rinrin

    MOURNING最後です。ここの文章がどうしても消せなかったので、供養という形でアップロードすることにしました。
    うなななが同居する話3(終)元旦の翌日の晩、僕は大樹より先にもう一つの家に帰った。
    部屋を開けるとひんやりとして少し埃っぽかった。暖房を入れる前に寒いのをしばらく我慢して、窓を開けて換気をしながら湯を沸かす。家で洗濯を済ませた着替えをタンスに詰め、コーヒーを入れたその香りで、そういえば僕は緑茶の方が好きなんだったと思う。この家で緑茶を飲むときは大樹がいつも淹れてくれてたんだった。だから僕はお返しだというようにコーヒーを淹れる。それが癖になっていたようだ。
    たまにはと、砂糖を入れて甘くした。酷く眠くなる。飲み終えて横になり、瞼を閉じた。このまま眠ってしまいそうだ。
    例えば、大樹と二人でこの部屋に閉じこもって鍵を閉めて、ずっと外に出ずにいたらどうなるんだろう。もうどこにも行かないようにしようねと笑って、今日は月曜日火曜日水曜日と、家事分担表を指で指す毎日。困った大人たちは怒るかな。かわいい後輩たちは心配するかな、協力してくれるかな。目を開ける。棚と床の間に見えるホコリ。僕たちはちゃんとそれだけの日数この部屋で二人で生活したんだ。二人で掃除して取り除かなくては。ドンドンと戸を叩かれて、それに耐えられても家賃の支払いがストップして、電気もガスも水道も止められたら。そうしたら、もう無理かなあ。太子くんなら物知りだから何かいい案を出してくれるかも。あぁ、でも新学期が始まったら部室にお菓子を届けないと。あと、卒業式には出たい。でもそうしたら大人になってしまうかもよ?やだなあ、だって大人になったら大樹は……。
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