うなななが同居する話1「二人暮らしをしてみようよ」
放課後、僕の席まで来た大樹が笑った。
「ここが俺たちの新居」
眉難市の中でも少し賑やかな街にある、ごく普通のマンション。その部屋の扉を開けて大樹は「さあ、どうぞ」と言う。
「冗談だと思ったから、僕はいいねって言ったんだよ」
「七緒の家の人はダメだって?」
「別にいいって」
「じゃあ問題ないだろう?」
先にワンルームだとは聞いていたけど、大樹が選んだ部屋にしては「二人で住むには狭いところ」だと思った。靴を脱いで中に入り、まず窓を開けた。
「本当に大樹がここに住むの?」
「借りちゃったし。七緒も住むんだよ。」
「冬休みの間だけね。」
今年の眉難高校は来週のクリスマスイブに終業式があり、クリスマスから冬の長期休暇に入る。その間、僕と大樹はこの狭い部屋に二人で住んでみることになった。今日はその下見と、作戦会議を予定していた。
気に入った?と聞かれたので住んでみないとわからないと返した。大樹は乗り気でなによりと笑い、部屋を一通り見た後に窓を閉めた。
「じゃあ、さっそく買い出しに行こうか。いろいろ必要になるだろ。」
「今から?」
「今日買っておいて、冬休み初日には住めるようにしてもらう。うちの人に頼んで、先に全部整えておくからさ」
「2人で暮らすのに他人がセッティングするんだ。」
「2人で暮らすって言ってもおままごとなんだからいいんじゃない?俺たちは終業式が終わったら、そのまま前から住んでたみたいにここに来るんだよ。面白いだろ」
好きなものは庶民的なくせに、彼は時々涼しい顔でスケールの違う話をする。感覚のズレには鈍いらしく、なんてことないように言ってみせる。
「まぁ、ちょっと笑えるかな」
「決定だね」そう言って彼は、マンションの前まで車をまわすようにどこかへ連絡した。
(略)
「全部1から揃えるの?」
「2週間はあるだろう?七緒と全く新しい生活をしてみたいんだよ」
「僕にそんな金の余裕はないよ」
「大丈夫、ここに魔法のカードがあるからね。」
大樹が薄い財布から黒いカードをちらりと見せてくる。
魔法だなんて、すごいことを言う。少し前に僕は魔法使いをしていたことがあるけど、大樹の手にあるカードは、それとわけが違うのに。眉をひそめると彼はいいんだよと言い、涼しい顔で、高校生には到底払えそうにない買い物をした。
僕と大樹はいるもの、いらないものを話し合いながら買い物をすすめた。大樹が3つカートに入れるたび2つを戻すペース。大樹はその度に笑った。もう金額なんか見ていなくて、部屋に入るのか、それだけを心配した。
最後に寄った雑貨屋で僕は緑色の石が入った星のチャームを。大樹は薔薇のチャームを買って、これから住むあの家の鍵につけた。
(略)
これからよろしくお願いします。と言うと、そうじゃないだろ?と言われた。
「あぁ、そっか。ただいま」
前から住んでたみたいにという、大樹の謎のこだわりを尊重し、ポケットから鍵を出して扉を開けると彼は嬉しそうに「ただいま」と続いた。
部屋は先日買ったものがセッティングされており、今朝学校へ行く前に運んでもらった着替えの入ったスーツケースだけが不自然に置かれていた。
「盗聴とか盗撮されてないよね?監視カメラとか」
「なに?七緒おれのこと疑ってるの?気になるなら業者の人でも呼ぶ?」
「冗談だよ。大樹のこと、信じてるよ」