西蕃葵時折思い出すものがある。それは公園で遊んでいる子どもたちの楽しそうな笑い声に、畦道に生えている草花に、かの人が纏っていた紫紺に、ひらひらと宙を舞う蝶に、今では家族同然の子どもたちが向けてくる笑顔に。それらに触れる度に記憶が刺激され、あの光景が鮮やかに蘇る。
飽きもせず何度も挑んでくるアイツ。傷が増え、どんなに馬鹿にされようとも一直線に挑んでは負け数を重ねていったアイツ。ろくでなしな男の背中を追いかけ続けたアイツ。そんなアイツが初めて勝利した時の輝かんばかりの心からの笑み。常時刻まれていた眉間の皺が取れ、年相応の表情で声を上げ周囲の子どもたちと笑い合う姿を見た時、悔しいことに過去の自分は目を奪われてしまった。
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