無題百里基地の夜は、エンジンの残響と星の瞬きだけが支配する。滑走路の端に佇むF-4ファントムⅡのシルエットは、まるで神田と栗原の絆そのものだった。昼間は轟音とともに空を切り裂く戦闘機も、今は静かに眠っている。だが、二人の心は、静寂の中でこそ激しく揺れ動いていた。
神田鉄雄、二等空尉。陽気で熱血、口より先に拳が飛ぶような男だ。コックピットでは誰よりも大胆に機体を操り、敵機を模したターゲットを次々と撃ち落とす。一方、栗原宏美、二等空尉。冷静沈着、ナビゲーターとして神田の背後で正確無比な指示を出す。名前の文字から女性と間違われることもあるが、栗原は紛れもない男だ。鋭い眼差しと、必要以上の言葉を排除した態度が、彼の存在を際立たせていた。
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