甘味を作り出せる者も、当然甘い これはドロッチェが気ままにケーキ作りをしていた時のこと。
ケーキの種類は、メタナイトに相応しい、黒く煌びやかにコーティングされたチョコレートケーキ。チョコレートの美味しそうな茶色に、金粉が少しだけ撒かれている。ケーキの上にはホイップクリームと共にフルーツも盛られ、甘さと酸味のマリアージュを楽しめるケーキだ。
メタナイトはその光景を、今か今かと待っていた。既に美味しそうな匂いが漂っている。ついソワソワと身体を動かしてしまいそうになるが、そこはやはり紳士なメタナイト。はしたない様子をドロッチェに見せないように振舞っていた。
もはや完成も間近。
その時、唐突に事件が起きた。
──ドドドド……。
「ん? 何の音だ?」
ドロッチェはキョロキョロと辺りを見渡した。しかし屋内では音の正体も掴めない。
その地響きのような音は、だんだんと近づいてきた。
──ドドドドドド……!!
次第に家も揺れ始める。メタナイトは警戒し、ギャラクシアに手をかけた。
しかし、それも無駄だった。
──ドドドド……ドカーンッ!!
どこからともなく突然大量のワドルディが、家の壁を破壊しながら転がってきたのだ!
「な……はぁ!?」
「こ、これは一体何事だ!? 何故ワドルディが塊となって転がっ──」
「メタナイト! 考えてる暇はない! 急いで避けっ……!」
バチコーンッ!
ドロッチェとメタナイトは回避も間に合わず、弾き飛ばされてしまった。
ひっくり返ったドロッチェとメタナイトは、二人にぶつかったことも壁にぶつかったことも構わず転がり続けるワドルディの塊を遠くに見つめるしかなかった。
「くっ……! 一体何だったん──うぇ……け、ケーキが……」
ドロッチェは体勢を整え、逆さまだった身体を戻し、座り込む。
しかしドロッチェがせっかく作ったケーキは転がるワドルディの塊に巻き込まれて一緒に吹っ飛び、見事ドロッチェの全身をケーキまみれにしてしまった。
「はぁ……結構良い出来だと思ったんだが……プププランドは家に居ても平和じゃないな……」
思わず愚痴をこぼすドロッチェ。そんなドロッチェを、メタナイトは静かに見つめていた。
「ふむ」
メタナイトはおもむろにドロッチェの爪を取り、自分の仮面を取って、爪に舌を這わせた。
「ん……汚いぞ」
「料理人の手が汚いものなはずないだろう」
特に気にすることもなく、さらにメタナイトは、ぺろ、と一舐め。
「やはり美味しいな」
「……それは、ケーキが、か? それともオレが、か?」
「どっちもだ。悪くないな」
「お前……変な趣味に目覚めたりしないだろうな……?」
そうは言いつつも、ドロッチェはメタナイトを爪から剥がすこともせず、少し不貞腐れつつも恥ずかしく感じながら、メタナイトに爪を舐めさせ続けた。
「紳士様がそんなことしたら、はしたないって思われちまうぜ?」
「君の前でもはしたない格好をしてはいけないのか?」
「お前は、好きな相手にはカッコつけたりせず、むしろ甘えたがるタイプなんだな」
「君が甘やかし上手なだけだ」
「そうかい」
二人は少しだけ微笑んだ。