メイドの日の約束 今日は五月十日。俗に言うメイドの日である。
そんな一年に一回の日に、ロッキーは少しだけ気合を入れ、メイド服を用意した。無論、男のロッキーが通常そのようなコスチュームをするのであれば、メイド服ではなく執事服だろう。しかしこの日は執事の日ではなくメイドの日なので、確定で女装となる。
のだが。
「……ロッキー、もはやそれはメイドというより、シンデレラだよ。しかも魔法をかけられる前の」
ズーマはメイド服姿のロッキーを見て、そう呟く。
ロッキーが着ているのは紛れもなくメイド服──なのだが、そこはやはりロッキーのお手製。綺麗な白黒のスカートというわけではなく、様々な色、様々な模様の布で繕われた、リサイクル品のメイド服である。一般的に想像する小綺麗なメイド服のそれではなく、ロッキーの素晴らしいリサイクル技術を用いても、少しみすぼらしさが残ってしまったメイド服となっている。
が、そんな事は関係なく、ロッキーには似合っている。むしろロッキーのチャームポイントである左目の黒い模様や左耳の切れ目が相性抜群となっており、純粋にオシャレに仕上がっていた。
「すごくかわいいけど」
「えへへ! 気合い入れちゃったであります!」
ロッキーはパッチワークのメイド服を摘み、ひらひらと踊るように舞わせる。ズーマも思わず見入った。
「いいね……」
ズーマは思わず声を漏らした。
普段は女装なんてしないが、想像以上に上手くメイド服を作れたロッキーは楽しくなったのか、姿勢を正し、ズーマに向かって一礼する。
「おかえりなさいませ、ご主人様! であります!」
「うっ!」
かわいい。あまりのかわいさに、ズーマは胸をドキッと高鳴らせた。
「安直だけど……いいね……メイド服……」
「これ、すごくよく出来たから、今後も使いやすいかもしれないね。普段使い出来ちゃいそう!」
「そしたら、僕は普段から君のご主人様ってことになっちゃうね……」
「そうでありますねぇ」
ロッキーは不意に、ズーマの耳元へ口を運んだ。ふわりとしたメイド服がズーマに少しだけ当たり、密着しているともしていないとも言えない、絶妙な距離感となる。
「でも……いつかは本当に僕のご主人になってくれるよね?」
「っ……えっ……!?」
耳元で囁かれたロッキーの発言に、ズーマは顔を赤くした。
「そ、それって、つまり……」
「まだ少し早いけど、楽しみにしてるでありますよ」
ロッキーはそれだけ伝え、ズーマから離れる。
プロポーズ……婚約とも言える発言。
現在、二人は付き合っていても、結婚はできない。同性婚ができないという話ではなく、ロッキーは十八歳だが、ズーマはまだ十七歳──ズーマは年齢が足りず、法律上結婚できないのだ。
来年のメイドの日となっては、今の発言もどうなっているのか分からない。だが、なんとなく察するに──。
「ズーマが大きくなるの、楽しみに待ってるであります!」
「……ロッキーって、こういう時、結構大胆だよね……」
婚約だけは先を越されたのが、ズーマは悔しかった。来年こそはロッキーよりも早くプロポーズをしてやる──そうズーマは決意した。