タイトル考えてなかった おれの腕の血を勝手に吸っていた蚊をぱちんと叩き、殺した。手に、誰のものとも知らない赤黒い血がべたりとついた。こんくらいで手を洗うのも面倒で、シャツで適当にぬぐう。折りたたんだざぶとんを枕にして上向きに寝転がったまま本を開きなおし、おれは読書を再開した。幻太郎の書いた小説の載っている、文芸誌だった。
幻太郎の書いたもんはよくわかんねえことが多くて、本人に思ったことをそのまま伝えると、あいついっつも目ぇ丸くして驚くんだよ。毎回おんなじ顔すんだぜ。ちょいと前に乱数に観せてもらった画像の、宇宙にいるネコみてえな。そういう顔。
がたん、と音を立てて、立て付けの悪いふすまが開く。頭だけ傾けてそっちを見るとこの家の家主、夢野幻太郎が立っている。目の下に、すこしだけ隈ができている気がする。
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