「君なんて、嫌いだッ……」
そう言ってアルハイゼンは家を出ていってしまった。
"アルハイゼン"は呆然とアルハイゼンが出ていった玄関を見つめることしかできなかった。
始めはただいつも通りの痴話喧嘩だった。しかし、今日は"アルハイゼン"の機嫌良くなく、いつもよりも強い言葉で返してしまった、アルハイゼンもそれに乗っかって強い言葉を言い返してしまったためどんどんエスカレートしていってしまった。そして最後にはアルハイゼンは"アルハイゼン"に対して「嫌い」と言ってしまったのだ。
そこで"アルハイゼン"は冷静になり、自分の言った言葉を思い出し後悔してしまったのだ。
流石のアルハイゼンでも夕方には帰ってくるだろうと思っていた。しかし、いつまで経っても彼は帰ってこなかった。それは夕方明けになっても変わらず、"アルハイゼン"は不安になる。
その不安はどんどん大きくなり、"アルハイゼン"はマントを羽織り玄関のドアを閉めてアルハイゼンを探しに行った。
***
「で、僕のところに?」
「あぁ」
酒場にてカーヴェはいつもはしないヤケ酒をするアルハイゼンを見て、はぁ…とため息をつく。
「でも、流石に嫌いは言い過ぎだと思うぞ。」
「…あいつがしつこいから………反射的に言ってしまうんだ。」
「まぁ、君の気持ちも分かるけどさ。一番大好きで大事な人から、嫌い、なんて言われると最悪死ぬんだぞ?」
「それは絶対にない。」
「はぁ…君って奴は……本当に恋沙汰に疎いな…。」
それからもアルハイゼンはいつもより飲んでいるのかかなり饒舌になったアルハイゼンは酒の量なんて気にせず"アルハイゼン"の愚痴をこぼしていく。
「そもそも…あいつが急に現れたことでおれはおかしくなってしまったんだ。ずっとあいつのことを考えるようになった。」
「おい、今度は惚れ話聞かされるのか?」
「あいつは……ずっとおれと一緒に居てくれた。大事なときはいつも隣にいてくれて、おれは独りじゃなくなった。あいつとずっと一緒にいると安心するんだ……」
「おかげで僕は帰れなくなったんだぞ」
大分お酒が入ってしまったせいか、アルハイゼンは普段口にしないようなことをこぼしていく。その様子を見かねたカーヴェは水を差し出しながら、そうかそうかと話を聞く。
愚痴をこぼし続けていたアルハイゼンだったが、徐々に酔いが回ってきて眠くなってきたのかうとうとし始めている。
こんなアルハイゼンは珍しいなとカーヴェが観察していると、アルハイゼンはついに耐えきれなくなったのか、机に突っ伏して寝息を立て始めた。
カーヴェは先程のアルハイゼンを見て少し微笑ましく思った。現れた当初アルハイゼンは"アルハイゼン"を物凄く警戒し、話す時は常に神経を尖らせていた。そんなアルハイゼンがああも本音をこぼすとなると"アルハイゼン"の努力は報われたと言うべきなのだろう。
カーヴェは最近色恋沙汰に疎いこの友人のためにこれからこの酒場に来るであろう"アルハイゼン"にどう説明しようかと考えながら、カーヴェはランバドに酒を持ってくるように伝えた。
「カーヴェ」
酒を飲んで図案を描いてた時、アルハイゼンと同じ声が聞こえてきた。振り向くとそこに居たのは"アルハイゼン"で、少し焦った様子でカーヴェに話しかけてきた。
「あ、来た。おーいアルハイゼン、迎えが来たぞ。」
「……ん……」
「ほら、もう帰って話をするんだ。」
アルハイゼンはカーヴェが声を掛けられムクリと顔をあげ、酒を飲みすぎた所為なのか、とろんとした目でカーヴェの方へ向ける。そのままアルハイゼンは顔を横に向けると、え、と驚いたような顔をした。
「あ、るはいぜん……?」
「……帰ろう。すまないなカーヴェ、今回は俺がつけておく。」
行くぞ、と"アルハイゼン"がアルハイゼンの手を優しく掴むと素直に立ち上がりそのまま2人は酒場を出ていった。
「はぁ……やっとか……」
"アルハイゼン"のあの様子からすると、きっともう大丈夫だろう。カーヴェはそう確信し、再び図案を描くことに専念し始めたのだった。
***
「あるはいぜ…」
「……」
何も言わず"アルハイゼン"は手を引っ張り自宅へと向かっていた。そのままの勢いで帰宅し、"アルハイゼン"は寝室へと入りアルハイゼンと一緒にベッドへ座った。
「…あるは…」
「はぁああ……」
何も言わない"アルハイゼン"に声を掛けようとした時、"アルハイゼン"から大きなため息がこぼれたことでアルハイゼンは肩をビクつかせた。
すると、"アルハイゼン"は口に手を当て顔を赤らめた。
「…そんな蕩けた顔で名前を呼ぶな…!耐えれないだろう…。」
「ぇ……?」
「はぁ……昼間から大分飲んだのか。馬鹿だな君は。」
馬鹿、と言われてアルハイゼンはムスッとしらが、すぐに視線を下に向け"アルハイゼン"の様子を伺うような顔をした。
「……その、すまない……別に、本気で嫌いになったわけじゃない……反発的に言ってしまっただけで……。」
「あぁ、分かってるよ。俺もすまなかった、大人気なかった。」
そう言って"アルハイゼン"はアルハイゼンに軽く口付けた。その行動が嬉しかったのか、アルハイゼンはへらっと笑い"アルハイゼン"の首に腕を巻き付けた。
"アルハイゼン"はその行為に応えるように、今度は深い口付けをした。
「……本当に心配した…。」
「……っ……ん…はっ…ある、はいんぜん……。」
「ん?」
「……したい……。」
「…だぁめ。今日は大分飲んだんだろう、もう寝ろ、明日にしよう。」
"アルハイゼン"がそう答えると、アルハイゼンは不満そうに頬を膨らませた。
「やだ……する……」
「ダメだ。」
「…する……」
「君、俺が思っている以上に飲んだな。」
駄々をこねるアルハイゼンに、"アルハイゼン"はため息を吐いた。
すると、アルハイゼンは"アルハイゼン"を押し倒し腹の上へと跨った。
「…ッおい…!」
「こんなにもおれがしたいと言っているのに、君は何もしたくないのか……?」
アルハイゼンは酒で酔っているせいか、いつもは見せないような艶やかな雰囲気を醸し出し"アルハイゼン"を見つめた。その瞳に見つめられ、"アルハイゼン"の理性が崩れ落ち、ぷつん、と何かが切れる音が脳内に響いた。アルハイゼンの急に視界が反転した、"アルハイゼン"に押し倒され仰向けにされ、両腕を掴まれた。
その目は先程とは異なり、熱を孕んでいてアルハイゼンはぞくりと体が疼くのを感じた。
"アルハイゼン"の理性が保てたのはそこまでだった。
「煽ったのは君だからな。途中でやめろと言われてもやめないぞ。」
いつもより低い声が脳を刺激する。
アルハイゼンは、ぞくりと背筋が震えるのを感じた。
その感覚に興奮を覚えながらも、アルハイゼンは"アルハイゼン"に身を委ねたのだった。
***
ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聴こえる。
カーテンの隙間から差し込む光、その眩しさに目が覚めていく。アルハイゼンはゆっくりと目をあけると目の前ですやすや寝ている"アルハイゼン"が写った、体を起こそうとしたが昨日酒を沢山飲んだ所為か頭痛が酷く身体も重く気だるく感じた。
アルハイゼンは体を起こすのをやめベットに身を任せると昨日の出来事を思い出していく。
昨日は本当に散々な日だった。
"アルハイゼン"と些細な事で喧嘩し、そのまま酒場へと向かいカーヴェに話を聞いてもらってから帰宅して……それから……。そこまで考えて昨日の記憶が鮮明に蘇り、思わず顔を赤くした。
そうだ、昨日自分は"アルハイゼン"と……。
思い出した途端また恥ずかしくなってきてアルハイゼンは"寝返りをうってアルハイゼン"から体を離れようとすると、ギュッと腕を引かれそのまま後ろから抱きしめられる。
「おはよう、アルハイゼン。」
「……ッ…」
"アルハイゼン"の声が直接耳に流し込まれビクリと体が震える。そのまま"アルハイゼン"は昨日と同じように首筋に顔を当て昨日の行為を思い出したのか恍惚とした声で話を続ける。
「昨日は可愛かったな……自分から腰を振って、イけないって泣き叫んでたか。」
「ッう、うるさ……」
「そうだろうな、あんだけ飲んだのだから。」
そう言って"アルハイゼン"は片手で腰をするりと撫でた。
「ほんとにダメだ……頭が痛い……。」
「…やらないよ。薬を持ってくる。」
そう言い、"アルハイゼン"は布団から出て部屋を出ていった。
温もりが無くなった布団に寂しさを覚えつつも、アルハイゼンはボーッと天井を見上げた。
"アルハイゼン"が帰ってくるまでもう少しだけこの温もりの中でいようと目を瞑るのだった。