イチコロ 魔法薬専門店で商品を眺めていると、カウンターで店主と女性客が声を潜めて会話をしている。
(……………………)
(……イチコロですよ…………)
盗み聞きするつもりはなかったけど、ついつい耳をそばだててしまう。
その客が帰った後で店主に詰め寄った。
「聞こえたわよ、私にもその薬を売ってもらえるかしら」
「まいったなあ」
少し渋られたけどなんとか売ってもらえた。
セラヴィーはティーカップを持つと眉を少し上げる。
「いつもと違う香りですね」
「そ、そうなの。新しいブレンドを買ってみたけど、どうかしら」
「……ふうん」
意味ありげに返事しながらも、紅茶に口をつけた。
セラヴィーの作った焼き菓子を食べながら会話をする。子供たちの修行の話をしてた気がするけど、紅茶をちゃんと飲むか気になって集中できない。
「……ですよね、どろしーちゃん」
「えっ、あ、そ、そうよね!」
「さっきから僕の顔を見て、どうしたんですか」
「セラヴィーがハンサムだからって見とれてるのよね」
「誰が!!」
何を言われても怪しまれても、飲んでしまえばこっちのもんよ。
セラヴィーは紅茶を飲み切ると、ふう、とため息をついてこっちを見る。
「どろしーちゃん、紅茶に何か入れましたね」
「ふふ……今ごろ気づいても遅いわ。セラヴィー、覚悟!!」
放った魔法弾はアッサリとかき消されてしまう。
まだよ!
魔法で出したハンマーを振り下ろしたけど避けられた。それどころか腕をひねり上げられる。
「ウソ……効いてないっていうの?」
セラヴィーは大きくため息をつく。
「どろしーちゃん、どんな薬を使ったか、わかっているんですか?」
「……お店で『イチコロ』だって売ってくれたのよ」
「なるほど」
呆れたように笑う。
「こんなモノ使わなくても僕はどろしーちゃんにイチコロなのに」
「笑えない冗談だわ」
「冗談みたいなのはどろしーちゃんの方じゃないですか」
セラヴィーは大きく息を吐く。
「どう説明されて買ったかわからないけど、イチコロって意味を間違えてるのはどろしーちゃんの方だと思いますよ」
話が見えない。
「本当にどろしーちゃんは純粋過ぎて心配になります」
「バカにしてんの!?」
純粋、がいい意味じゃないくらいわかる。
セラヴィーがつかんだままの手を自分の下腹部にまわす。そこはすっかり固くなっていた。
「なっ!? なんでこんな時に興奮してんの!!」
「どろしーちゃんの薬のせいですよ」
「え」
「媚薬ですよ、これ」
「びっ……!?」
媚薬!?
なんで!? そんなものを買った覚えはないのに。
……店での会話を思い出してみる。
『聞こえたわよ、私にもその薬を売ってもらえるかしら』
『まいったなあ』
『イチコロ、なんでしょう』
『どろしーさんにもそんな男が居たのかい』
『そうよ、ぎったんぎったんのヘロヘロにしてやりたいの』
『これは効きすぎるから、あんまりオモテに出せないものでねえ』
『いつもたくさん買ってるじゃない。お得意様でしょう』
『……わかった、少しだけですよ』
『ありがとう!』
『使うと腰が立たなくなるぐらいになっちゃうから気を付けてくださいよ』
『そのぐらいでなくちゃ』
「…………足腰が立たなくなるって……」
「そりゃ、こんなビンビンだったら足腰立たなくなるまで出来そうですけどね」
顔が熱くなる。
セラヴィーを倒すつもりだったのに、発情させることになるなんて。
「どろしーちゃんが媚薬を使って僕を誘っているかと思ったのに」
「そ、そんなコトするわけないでしょ!」
「責任を取ってもらいますよ」
「きゃあ!」
セラヴィーに抱き上げられる。
「ちょ、ちょっと待って!」
「コレが収まるまで付き合ってもらいますからね」
「やっ、ウソっ!」
ズンズンとベッドルームへ向かう。
「どろしーちゃんの足腰立たなくなるまで……もいいけど、せっかくだから口とか胸とかでもご奉仕してもらいましょうか」
「えっ」
「どろしーちゃんのせいですからね」
「違っ……そんなつもりじゃ……」
「楽しみだなあ」