山陽本線の「陽」、と彼は言った。
自身も山陽の名を冠しているのに。わざわざ本線の名前を出す必要なんてないのに。
「なんでわざわざ本線で表現したんです?あなたも“山陽”じゃないですか」
思わず問いかける。
「山陽と言えば本線でしょ?」
彼は当然だと言わんばかりの態度。確かに、それはそうだ。でも、それでいいのだろうか。篠山はもういないと言った彼は確かに前を向いていた。そんなこと、俺もとっくにわかっている。だからこそ。
「上官は、それでいいのですか?」
「それって?」
「いや、その…」
この感情をどう伝えればいいのか。普段、もういない彼の面影に執着している自分を、初めて憎んだ。確かに自分はその影に固執している。けれど彼の決意や覚悟を、無理やりにでも壊して、踏みつけて、否定してしまいたいわけではない。目の前にいる彼が今どんな気持ちで山陽の名を名乗っているのか。どんな気持ちでその服に袖を通しているのか。理解しているつもりだ。だって、俺だから。
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