ちょっと!目の前五センチメートルのところに、黒々とした眉毛があった。宿主の呼吸に合わせて、小刻みにふよ、ふよ、と動いている。本体はまだ寝入っているんだろう。一定のリズムで聞こえる呼吸に、時々鼾みたいな鼻音が混じった。そのコフフッという音は、彼以外の誰からも、家族からも親戚からも友達からも、聞いたことがない独特な音だった。初めて聞いたとき、ユニークな可愛らしさをまた一つ手に入れたと嬉しくなって、にやけながら可愛い鼻のそばにずっと耳を寄せていた。初めてこの人の部屋に泊まった時のことだ。もう半年も前だ。
あっ、また眉毛が動いた。本当に単体で生きているみたいな眉毛に、つい口づけたくなったが、この人を起こしたくないので我慢した。
ちょっと水が飲みたいな。
音を立てないように、ゆっくりと身を起こした。床の上で寝た代償に背中や肩がごく小さくパキパキと鳴る。なんとなくこの音を彼に聞かせてあげたくなったが、起こすほどのことでもないので諦めた。
代わりに、この音を聞いた時の彼を想像する。黙ってじっとオレを見つめ、数秒後に「これは面白いのか?」って聞くんだ。
もしかしたら、首をかしげたりするかもしれない。小首を傾げながら「電ボ、これはどこが面白いんだ?」て唱える真夜さんはとびきり可愛くてオレはその場で転げ回りそうになった。いけない、妄想でこんなに興奮してたら事実になった時に鼻血吹いちゃうかもしれない。
あれ?なんだったっけ。背中のパキパキって音の話だっけ。
真夜さんは、体は大丈夫かな?と心配になり、隣を覗いた。寝る直前まで喋って、ふざけ合っていたせいか、二人とも、急に電池が切れた子供が放り出したおもちゃみたいに床に転がっている。かろうじて最後に掛けた茶色いブランケットが、足元でくしゃくしゃに丸まっていた。昔好きだった、いや今も大好きな可愛い毛玉を思い出し、そのままにしておこうかと思ったけれど、パンイチの真夜さんを壊れたおもちゃのままにしておくわけにはいかなかった。風邪を引かせたくない。でも、Tシャツを着せて起こしたくもない。せめてブランケットで肩をくるもうと、そっと布を広げた。
腕を枕にして寝ている彼の口は半開きで、口端には涎が浮かんでいた。可愛い。そしてちょっといやらしい。昨夜、音を立てて啜っていたことを思い出した。肩には薄く噛み跡が残っていて、自分の興奮と彼のうわ言を思い出す。胸は白く柔らかく、乳首は昨夜の余韻を残してまだ赤い。やばい、えろい。腹筋は噛んだりしていないはずと思ったけれど、最後適当にしか拭わなかった体液が乾いて消しカスのように張りついていた。なんだかカピカピしてる。拭いて綺麗にしたいような、思い出として残しておきたいような、それだけでいやらしいような、複雑な気持ちでそわそわと視線を揺らしているうちに気がついた。
彼の下着が立っていることに。
さすがに元気溌剌の臨戦態勢というほどではないけれど、普段よりは確実に大きくなっている。朝だからなんだろう。静かに寝ている本体に対して、早朝から元気なそこは、マイペースで一本気で、ちょっと可愛らしかった。
いやいや、昨夜は本来の使い方はされなかったものの、興がのれば大きくなり、先っぽからたらたら垂らし、感じればぴくぴく動いて、俺を煽っていたものだけど。
かわいいな。
気がつけばオレは彼の息子をつつき、撫ぜ、鼻を寄せていた。
おはようございます。今日も可愛いです。
「おはよう」
「は…ざっす…っ!」
「……なんでちんこに頭下げてるんだ?」
「……なんで起きてるんですか?」
「朝は起きるだろう?」
動揺した俺が、訳も分からず漏らしたどうでもいい質問に、彼は真面目に答えた。こういうところが可愛くて好きだな、と思った瞬間、彼は寝ぼけた半目のまま首をかしげた。可愛い!やばい!鼻血出る!
興奮を隠そうと、目の前のものに顔を伏せたが、あいにくそこは真夜さんの股間だった。彼のそこは一部が硬く、でこぼことしていたが、おおむね俺を柔らかく受け止めた。ぼふん。
視界が暗くなり、鼻いっぱいに彼の夜の匂いが満ちた。ああ……えろ……い……。
「ちょっ!やめて……っ!くすぐった……!」
いやらしい愛しい匂いに浸っている暇もなく、股間に軽い刺激を感じた。簡単に言うとくすぐったい。
振り向くと、真夜さんが俺のちんに向かって挨拶をしているところだった。「おはよう。昨日はずいぶん頑張っていたけど、しんどいところはないか?」犬を撫でるように先端を撫でる大好きな人を、オレはしばらく呆然と眺めていたが、じきにくすぐったさに耐えられなくなった。ちょっと!くすぐったさと、可笑しさで腹が捩れそうだし、なんならエッチな気持ちになりそうだからやめてください!
うまく言えずに悶える俺を無視して、真夜さんは息子を構い続けていたが、ふと、その動きを止めた。じっと股間を見つめているので、やや恥ずかしい。そろそろ声をかけなきゃ、と思った瞬間に彼はチラリとこちらを覗いた。ほとんど顔を動かさず、真っ黒な瞳だけをそっとこちらに向けて。さっきまで年上男の可愛らしさに興奮していたのに、今度はその美しさに引き込まれ、呆然とした。
ふふ、と笑ったような気がする。本当はどうだったか分からない。すぐに彼は頭を俺の股間に押し付けて、遊び始めたから。毛玉にするみたいに、頭を寄せてわしゃわしゃ押し付けた。
「ちょっと!くすぐったいんですけど!」
文句を言っても彼は笑うばかりで、全然やめる気配がない。外からの日差しが明るくなり、照らされる彼の顔は楽しそうで、彼自身が毛玉のようだった。黒くて賢くて可愛くて美人なオレの毛玉だ。
でも、そろそろもうやめて!早くやめないと本当にやる気になっちゃう!
〆